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実家から「あんなこと言っちゃいけません」と電話が…地方出身のベストセラー作家2人が語る「地方」と「結婚」

文春オンライン / 2024年12月28日 11時0分

実家から「あんなこと言っちゃいけません」と電話が…地方出身のベストセラー作家2人が語る「地方」と「結婚」

(左から)新川帆立さん、宮島未奈さん

〈 “新感覚の婚活小説”はなぜ生まれた?「結婚しなくてもいいと気づく話は古い」ベストセラー作家2人が語る「結婚の今」 〉から続く

『成瀬は天下を取りにいく』で2024年の本屋大賞を受賞した宮島未奈さんの新刊は 『婚活マエストロ』 (10月刊)。結婚の入口である婚活を取り上げた。

 一方元弁護士で『元彼の遺言状』『競争の番人』が相次いでドラマ化されるなど次々とヒット作を送り出す新川帆立さんは、 『縁切り上等!―離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル―』 (23年刊)で、結婚の出口ともいうべき離婚を題材にした。今、大注目のお2人が作品やご自身の経験を通して、結婚について大いに語り合った。

『週刊文春WOMAN2024秋号』 掲載の対談を掲載する(前後編の後編/前編は こちら )。

◆◆◆

実家から「あんなこと言っちゃいけません」と電話が

――『婚活マエストロ』は、婚活パーティーを東京ではなく、地方都市を舞台に描いたところが新しかったのではないかと思います。

宮島 最初に婚活というテーマを提案された時、編集者さんたちが周囲の婚活について語ってくれたんです。アプリで相手を見つけたとか、内縁関係がどうとか話してくれたんですが、住んでいる世界が違うと思った(笑)。私はずっと滋賀に住んでいて、周りで全然そういう話を見聞きしない。だから婚活パーティーを地方でやるというアイデアが浮かんできました。

 以前、テレビ番組で、新川さんが嫌だったこととして「女に生まれたことと地方に生まれたこと」を挙げていらっしゃったのを見て、その言葉はすごく刺さりました。

新川 あの放送の後、実家から「あんなこと言っちゃいけません」と電話がかかってきて、そういうところが嫌なんだよ、って(笑)。

 私は宮崎県育ちですが、本を読む子が周囲にいなかったし、トップ大学に進学すると今度は女というだけで色メガネで見られる。東京で男に生まれたら、もっと素直でいいヤツになっていたんじゃないか、と思ったりとか。スタート地点が自分の性格と遠いところにあって、心地よい場所にたどり着くのに時間がかかりました。

宮島 私は女に生まれたことはそれほどではないけど、静岡出身なので、地方で生まれたことに関しては共感できます。出版社の編集者って東京出身で、いい大学を出ている人が多いイメージ。それがめちゃめちゃうらやましかったりしますね。

――新川さんには11月刊行の新作『ひまわり』があります。交通事故で頸髄を損傷して肩から下が麻痺した朝宮ひまりが、司法試験に挑戦する日々を描いた物語です。

宮島 すごく良かった。最初から司法試験合格というゴールは見えているじゃないですか。だけどそのゴールまでいく過程がとても興味深かった。受験に音声入力ソフトが使えるかどうかが問題になるところなんて、胸が痛くなりました。ディテールが真に迫っていて、最後はああ、よかったと一緒に喜べる。推進力がすごかったです。

書きたかったのは、「結婚を申し込まれて躊躇する」ところ

――ひまりが司法試験を選んだのは、幼馴染で検察官の額田レオが勧めたからです。やがてレオはひまりに惹かれますが、彼女の障害は彼にとって障壁にならない。そこの葛藤を書かなかったのはなぜですか。

新川 キャラが葛藤していないからだと思います。ひまりが事故に遭って体が動かなくならなかったら、レオは彼女のすごさに気づくことはなかった。障害はマイナスというより、2人の出会い直しのきっかけなんです。

 むしろ書きたかったのは、逆に結婚を申し込まれたひまりが躊躇するところ。今自分は自立しようとしてるのに、結婚したら甘やかされて踏ん張りがきかなくなるかもしれないという怯えがある。だから自立してから結婚したいと言うんです。結婚は安心できる装置でもあるけど、もうちょっと自分で頑張りたいという時期もあるかもなというところを書きたかったんです。

――ではご自身の結婚に関してはどうお考えですか。

宮島 私は結婚したい派でしたね。まず学校が嫌いだったんです。友達も少なくて、先生ともうまくいかない時期があった。母が専業主婦で家にいたから、すごくうらやましかったんです。

新川 ルートは違うけれど、私も似たところにたどり着いてるなと思います。私も母は専業主婦だったし学校嫌いだったけれど、専業主婦はずっと家にいなければいけないから嫌だなと思っていました。でも、実際社会に出て働いてみたら、まるで使いものにならなかった(笑)。結局なんだかんだで、家にいるのが一番好きだというのが現在です。

――夫さんたちに出会って、惹かれた部分はどこですか。

宮島 私は京都大学に進んだんですが、京大って結構人を見下す人が多くて、すごく嫌だったんです。夫はそれをしない人だった。優秀なのに偉ぶらない。ああこの人いいなみたいな感じで、おつき合いすることになって、そのまま結婚しました。

新川 旦那さんは宮島さんのどういったところに惹かれて?

宮島 それはね、明確に「面白いところ」と言っています(笑)。

婚活中、ハッと夫を見て「こいつじゃないか」

新川 うちの夫も私の面白いところがいいようです。夫は学生時代から私に好意を持っていたらしいんですが、つき合いだしたのは就職してから。彼とは大学、大学院、弁護士としての就職先も全部一緒で、就職先で同じ案件に入った時に仲良くなったんです。それまで夫のことは無口で地味なやつだと思っていました(笑)。

 私は当時、結婚に憧れはなかったけれど、長くつき合える恋人が欲しくて婚活していて。男性に求めるのは、(1)私の仕事を応援してくれること、(2)交友関係が深くて狭いタイプであること、(3)休みの日は家でゴロゴロしてるタイプであること。この3つで、ハッと夫を見て、こいつじゃないかと(笑)。

――それで事実婚を選んだ。

新川 そうですね。夫と一緒にはいたいんですけど、それを国に申告する意味がわからない。婚姻届は出さず、一緒にいればいいと思っていたんですが、夫が「社会的に説明できる関係になりたい」と言ったので、それなら事実婚しますかと。

 名字も変えたくなかったし、お互い法律家なので、例えば相続ができないなら遺言書を書くとか、事実婚のデメリットをカバーできるスキルがあるから怖くない。弁護士同士って事実婚のカップルが多いんです。普通に子育てして、円満な家庭を身近に見ていたので、抵抗感なく事実婚を選びました。

 でも「名字を変えたくない」という話をしたら、当時の同僚に「名字を変えてくれる女の子の方がモテると思うよ」と言われて、うるせーと思って(笑)。事実婚と聞くと、ちょっと文句をつけたいという人は結構いますよ。

宮島 名字のことで言うと、私は旧姓と現在の本名の名字と、ペンネームの宮島と、3つの名字があります。旧姓は父の名字で、今の本名は夫の名字だから、ようやく自分の名字がついたように感じているんです。子どもの行事で「宮島です」って言いそうになるほど、宮島を名乗る回数が増えました。

男性が読むのと女性が読むのとでは、感じ方が違うのかも

――『婚活マエストロ』の連載中、読者の反応はどうでしたか。

宮島 興味深いのは、一部の男性からは「つらい」という感想をもらうんです。

新川 え、噓。つらい?

宮島 書店員さんが、健人のこじらせっぷりがつらかったとXに書いていた。もう1人、他社の担当編集の男性が、「10年後の俺を見てるようで、しんどかったです」と。私としては意外でした。全然そんなふうに書いていないのに。男性が読むのと女性が読むのとでは、感じ方が違うのかもしれない。

 その編集者は、「ああやってミニマムに生きていけたらいいのに」みたいなことも言っていた。

自分の人生の、何が気に入っていなかったのか

新川 自分と重なりつつも自分ができないことをやってるからでしょうか。

宮島 私もデビュー前にライターをやっていたことがあります。1文字1円とかの仕事でも、頑張って書くと月20万円ぐらい稼げるんですよ。これで生計を立てている人は絶対いるなと思って。こういう40代男がいたら面白いというところから着想を得たんですけどね。

――本屋大賞の二次会で、宮島さんが「以前は自分の人生が気に入っていなかった」とおっしゃったのが印象に残っています。

宮島 そうそう、「小説を書いて一気にその道が開けたような気分になった」とも言いましたね。きっと『婚活マエストロ』のケンちゃんも似た感じだったんじゃないかと書きながら気付きました。

新川 それ以前はしっくりこない感じですよね。私も完全にそうです。今の話はすごくわかる。

宮島 何が気に入らなかったのかな。小説家になる夢は子どもの頃からあったんですが、なかなか芽が出ないなと思っていて……。そう、小説家になって、「やっぱり私、面白かったんじゃん。才能あったじゃん」と思ったんです。それが活かせていないと感じていたから、気に入らなかったんだろうと今ならわかる。

新川 そうだったんですね。私は結構オラオラ系クリエイターなので、落選した作品でも「いや面白いだろう」と思っていました。投稿時代も、書けば書くだけうまくなっている実感があったので、そのうち世間も私を見つけるだろう、みたいな(笑)。

『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した時に、夫は腕組みして、「ふーん、宝島社って偉いね。ちゃんと見つけるんだね」って言ってました(笑)。

宮島 面白いから結婚したと言う夫さんは、ちゃんと面白さに気づいていたんですね。

新川 人様はわからないけれど、我々に関して言えば、破れ鍋に綴じ蓋みたいな感じ。夫もたぶん私みたいなのじゃないとだめなんだろうし、私も夫じゃないとだめなんだろうと思います。

みやじまみな/1983年静岡県富士市生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞などを受賞。2023年同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。

しんかわほたて/1991年アメリカ合衆国テキサス州ダラス生まれ。宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2021年に『元彼の遺言状』でデビュー。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

(内藤 麻里子/週刊文春WOMAN 2024秋号)

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