ダムの上を通り抜ける「世にも珍しい酷道」…三重―大阪間を結ぶ名阪“じゃない”国道25号を走破してみた
文春オンライン / 2024年11月18日 6時0分
多くの車が行き交う名阪国道。高速道路のように見えるが、料金がいらない下道だ
三重県四日市市を起点に大阪府大阪市までを結ぶ“国道25号”のうち、三重県亀山市~奈良県天理市間には73.2kmのバイパスが建設され、下道であるにもかかわらずまるで高速道路のような自動車専用道となっている。“名阪国道”として有名な道路だ。名阪国道の前後の区間を高速道路に乗ったとしても、並行する名神高速道路、新名神高速道路に比べて半値以下で利用できるため、利用者も多い。
また、名阪国道沿いには複数のドライブインが点在しており、その多くは昭和のまま時間が止まったままのようで、名阪国道の大きな魅力の一つといえるだろう。
しかし、1965年の建設から年月が経過していることや、わずか1000日間での建設を目標に掲げられていたこともあり、現在の高速道路と比べると見劣りする部分も目立つ。
本線に合流する際の加速車線の距離が極端に短いことや、急カーブや急こう配が多く、事故も多発しているのだ。無料というメリットは非常に大きいが、名阪国道は全国で最も死亡事故率が高い自動車専用道であり、走行には注意が必要だ。
「国道25号」と並行するもう1本の「国道25号」
そんな名阪国道が含まれる国道25号の地図を改めて見てみる。すると、名阪国道と並行してもう1本、国道25号が伸びていることに気づくだろう。
高規格な自動車専用道である名阪国道に対して、もう1本の国道25号は、山間部を縫うようにして走っている。名阪国道が完成する以前から存在していた旧道が、現在も国道に指定されているのだ。
通常、バイパスが完成すると旧道は国道指定を外され、県道等に格下げされるか、廃道になることが多い。しかし、名阪国道は自動車専用道路のため、自転車や歩行者等は通行することができない。そのため、国道として自転車や歩行者等の往来を確保するため、旧道も国道指定が残されているものと思われる。
国道なのに状態が酷い“酷道”
同じ国道25号が2本並行して存在しているだけでも珍しいが、一方は全線4車線の高規格自動車専用道路なのに対して、もう一方の国道25号は2車線もなく、対向車とすれ違うのにも苦労するような区間が多い。国道なのに状態が酷い道、いわゆる“酷道”である。
国道は日本で最上位の道路であり、整備が行き届いた立派な道路をイメージする人が多いだろう。しかし、そのイメージとは裏腹に道幅が狭く、運転するだけで危険を感じるような国道も存在する。そんな国道のことを、親しみを込めて“酷道”と呼んでいる。酷道は、ただ単に状態が酷い国道というだけではなく、時代に取り残されてしまった寂しさや、その地域の歴史や文化まで感じ取ることが出来る。そんな酷道に魅力を感じた私は、ライフワークとして全国の酷道を巡っている。
私は名阪国道をよく利用するが、当然、名阪国道ではないほうの国道25号を走ることもある。2つの国道25号を区別するため、名阪国道ではないほうの酷道を“非名阪”と呼んでいる。名阪国道も昭和の残渣が感じられる素敵な道だが、非名阪にもまた、多くの魅力が詰まっているのだ。
そんな非名阪を走るべく、三重県四日市市の起点から車を走らせる。
しばらくは国道1号と重複し、2車線の快適な道路が続く。亀山市の東海道関宿を過ぎたあたりで左折し、国道25号の単独区間に入る。
するとほどなくセンターラインが消え、いよいよ酷道らしくなってきた。
時代を感じさせる遺産群の数々
加太を過ぎ、JR関西本線の下をくぐるトンネルのような箇所があるのだが、これがまたカッコいい。レンガと石積みで強固に造られており、時代を感じさせる。
道から見ればトンネルだが、これはあくまでも鉄道の施設。上を走る鉄道からすれば橋ということになる。正式名称を大和街道架道橋といい、JR関西本線の前身となる関西(かんせい)鉄道が敷設された1890年(明治23年)に建設された。
上を走る鉄道は明治時代の開業だが、その下をゆく国道25号は奈良時代に整備された大和街道を踏襲している。大和街道架道橋は、歴史の深い道路と鉄道が交錯する場所なのだ。当時は意匠性も考慮され、凝ったデザインとなっている。それもまた、カッコいいと感じた要因だ。
非名阪の沿道には、大和街道架道橋のほかにも関西本線の鉄道遺産群が多数あるので、立ち寄ってみても楽しいだろう。
非名阪は伊賀上野市街で2車線道路となるが、山間部に入ると再び酷道と化す。緩やかな酷道を走っていると、立派な橋が見えてきた。名阪国道のIC名にもなっている五月橋だ。五月橋で名張川を越えると、三重県から奈良県へ入る。
現在の五月橋は2020年に架け替えられたばかりで、それ以前は、1928年(昭和3年)に竣工した旧五月橋が利用されていた。架橋から90年以上が経過し、老朽化が激しく耐震基準を満たさないことから、現在の橋に架け替えられた。旧五月橋は意匠にもこだわり、戦前の橋らしい風格があったが、残念ながら2021年に解体撤去されてしまった。
昔の橋やトンネルがカッコよく見えるのは、技術的な要因もさることながら、デザインによるところが大きいように思える。現在は、橋の袂に旧五月橋の親柱だけがポツンと残されている。
この先、名阪国道の下を何度かくぐって交差すると、名阪国道と並走する区間も現れる。
双方の国道25号を眺めることはできる区間は、意外と少ない。名阪国道と非名阪、どちらも同じ国道25号だが、こうも違うものかと改めて驚かされる。
駐車台数500台と日本一の規模を誇る道の駅、針T・R・S(はりテラス)を過ぎると、再び山間部に入ってゆく。天理の市街地を前に、山々を越えなければならない。名阪国道でも急カーブと急こう配が連続し“Ωカーブ”と呼ばれている最大の難所だ。
ダムの上を通過する…
非名阪も峠越えとなるが、山深い場所なのに2車線が確保されている。すると、前方にダムが見えてきた。天理ダムだ。ダムの周辺はダムマネーで道路が整備されるため、比較的走りやすい道が多い。特筆すべきは、国道25号がダムの本体ともいえる堤体上を通過することだ。
国道がダム本体の上を走るというのは、他にも例はあるが珍しい。
ダムを過ぎると、急カーブを繰り返して一気に高度を下げていく。道の状態も良くなり、集落を過ぎると街に出た。天理市内で2つの国道25号は1つになり、非名阪はここで終わりとなる。国道25号はこの先、大阪市まで続いているが、普通の国道となるので、ここでは割愛したい。
亀山から天理まで、名阪国道を走れば1時間半ほどの道のりとなるが、非名阪だと寄り道も含めて5時間もかかってしまった。単なる移動だと時間は短いほうがいいに決まっているが、景色や遺構を眺め、楽しみながら旅をするのは至福の時間だ。
名阪国道と非名阪、どちらが良いとか悪いではなく、どちらにも良さがある。たまには名阪国道を降りて、下道を楽しみながら非名阪を走ってみてはいかがだろうか。
(鹿取 茂雄)
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