“画力”は圧倒的、でも30歳年上男性との不倫疑惑も…カマラ・ハリスが持つ「強みと弱み」〈米大統領選まであと5日〉
文春オンライン / 2024年10月31日 6時0分
“画力”に定評のあるカマラ・ハリス候補 Ⓒ時事通信社
11月5日に行われるアメリカ大統領選。初の女性大統領を目指すカマラ・ハリスの強みとは何か。有識者4人が語り合った。
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カマラ・ハリスとは何者か
冨田 ハリスについて話しましょう。バイデン政権では日本の首脳が米国を訪れると、副大統領が朝食会をホストする慣例があります。私は2021年に菅義偉首相(当時)、23年に岸田文雄首相が訪米した際の2度、駐米大使として副大統領のハリスにお会いしました。当時の率直な印象は、その場の雰囲気に対して少し自信がなさそうだった。検事出身の司法畑で、カリフォルニア州司法長官や上院議員を務めたものの、外交経験がなかったことも関係していたかもしれません。
実際、ワシントンDCでの当初の評価は「実力でなった副大統領ではない」というものでした。女性で、若くて、非白人だから登用されたと。英語で「Trying too hard」(無理をし過ぎ)という表現がありますが、まさに無理をし過ぎて空回りしているように見えた。側近スタッフが相次いで辞職し、一部メディアでパワハラ疑惑まで報じられた。グレンさんは彼女をよくご存知ですね。
フクシマ はい。私はサンフランシスコ出身で、彼女もずっとサンフランシスコで検事をしていましたので、特に法曹関係者に共通の友人が多く、7、8回お会いしています。初めて会ったのは2016年。彼女が上院議員選挙に出馬した時でした。1時間ほど2人だけで話す機会がありましたので、いくつか、TPPなど外交に関する質問をしました。すると、「私は司法長官を務めてこれから上院議員になるので、外交に関しては特に答えはありません」と、正直な返事でした(笑)。
ただ、支持者の会合でのスピーチは群を抜いていて、カリスマ性を感じさせるものだったので、出席者の多くは「彼女はいずれ大統領選に出てくるね」という見方をしていました。しかし20年の大統領選挙に出馬するとは思いませんでしたが。
横江 ええ。アメリカの選挙コンサルタントでの仕事が私の最初のキャリアでしたが、その視点でみてもハリスの“画力”は圧倒的です。
副大統領就任はラッキー?
フクシマ バイデンは、女性に不人気だという自覚がありましたので、20年の大統領選で民主党の候補指名を勝ち取るとすぐに「副大統領には必ず女性を選びます」と公約しました。女性人気を失ったのは、1991年、最高裁判事候補の部下だった女性がセクハラを訴えたアニタ・ヒル事件が最大の要因です。上院司法委員会委員長として冷淡な対応をしたことが問題になり、反感を買いましたから。
それから5月にミネアポリスで黒人男性が白人警官に殺害される事件が起こり、「Black Lives Matter」の機運が拡大したことで、女性であり、黒人でもあるハリスに白羽の矢が立ったのでしょう。ですから非常にラッキーな人と見られています。
ただ、副大統領としての実績がないと言われ、実力が過小に評価されているのは、バイデン政権の間、実力を発揮する機会が与えられなかったということだと思います。
横江 私も、ボスであるバイデンの責任は大きいと思います。移民が殺到する国境危機への対処という極めて難しい任務しか与えなかったのは、部下を育てる気がないように見える。これは要職に抜擢された女性の多くが直面するパターンです。自分の出世のために「女性」を利用する男性上司に引き上げられても、サポートがなく、活躍できなければ「やっぱり女性は実力がない」と切り捨てられる。つまり、昇進後も「ガラスの天井」が幾重にも張り巡らされています。
また、これは最近ではアメリカでも報道されなくなりましたが、出馬した際には彼女の不倫問題が報じられていました。20代の頃、30歳も年上のカリフォルニア州議会下院議長との不倫関係を足掛かりに、弁護士から地方検事に転身したという疑惑です。ですから「実力以外で昇りつめた」という批判を封じるために、ハリスは大統領候補になってからの成長ぶりを示す必要がありました。その意味でもテレビ討論会は成功だったように思います。
冨田 今回の彼女の戦略を見て巧みだと思うのは、女性や非白人を全面に打ち出すアイデンティティ・ポリティクスに訴えていないこと。これは、「ガラスの天井」という言葉で女性の権利擁護を繰り返し訴えたヒラリー・クリントンが、熱狂的支持層以外の一般有権者を白けさせてしまったことを反省しての判断でしょう。
栗崎 ハリス陣営は今回、非常に「過去」に学んでいるなという印象がありますね。
フクシマ 一方、トランプの得意技は個人攻撃ですから、今後はそのアイデンティティを標的にしてくる可能性が高い。狙われるポイントは三つあります。一つは女性ということで「プーチンや習近平など、強面の各国男性首脳と対等に渡り合えるのか?」。次に母親がインド、父親はジャマイカ出身ということで「非白人どころじゃない、外国人だ」と。オバマの時もまったく同じ論法でした。三つめはカリフォルニア州の、しかもサンフランシスコ出身という、共和党的にみると左翼的な「共産主義者の巣窟の出身である」という批判です。
栗崎 私はカリフォルニア州の大学院で学び、田舎といわれるジョージア州に住んでいたこともあるので、そうした感覚は非常によく理解できます。カリフォルニアの友人たちからするとハリスはありふれた優秀な女性ですが、ジョージアの友人たちの目にはとても異質な存在に映る。こうした、自分を異化する視線にどう歩み寄れるかが、ハリスの勝敗を左右すると見ています。
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本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 トランプvsハリス 決戦前夜の大討論 」)。全文では、下記のテーマについて議論しています。
・どこまでも“トランプ政局”
・最も“民主党的”なトランプ
・本当の狙いはネブラスカ
・戸別訪問などの「地上戦」が主戦場
・独裁者たちと渡り合えるか
・ハト派政権の陥穽
(グレン・S・フクシマ,冨田 浩司,横江 公美,栗崎 周平/文藝春秋 2024年11月号)
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