「就任していたら、再生は実現不可能だった」傷だらけの女子医大、新理事長をめぐる攻防の舞台裏〈“女帝の亡霊”を振り払い…〉
文春オンライン / 2024年11月1日 7時0分
山中寿学長が理事長を兼務する
元理事長の岩本絹子氏による乱脈経営によって、深刻な危機に直面している、東京女子医科大学(東京・新宿区)。10月23日の臨時理事会で、学長に選ばれていた山中寿(ひさし)氏が、理事長も兼務することが決定された。
実は、前日まで“別の人物”が理事長に内定していたが、学内の強い反発で白紙となっていたことが取材で明らかになった。
「もし、内定していた人物が理事長に就任していたら、退職する職員が相次いで、女子医大の再生は実現不可能だったと思います」(女子医大の現役教授)
元理事長が招いた“医療崩壊”
一体、どういうことなのか。これまでの経緯を振り返ってみたい。
2019年に女子医大の理事長になった岩本氏は、強引なリストラや、意に沿わない職員に対して報復的な人事を行い、医師や看護師などの医療スタッフを大量に失った。特に大学病院の高度医療に欠かせない集中治療室(通称:ICU)の専門医が、1人を除き全員退職するなど、現在も崩壊状態が続く。
この裏で、岩本氏が必要性のない職員を同窓会組織「至誠会」から出向させ、総額2億5000万円を架空請求させていた。これらの疑惑を、週刊文春がスクープしている。
今年3月、警視庁捜査二課は、岩本氏の自宅や女子医大などを特別背任容疑で一斉に家宅捜索を行った。これを重く見た文部科学省は、第三者委員会による実態調査を同大に指導する。
8月、第三者委員会が調査報告書を公表して、岩本氏を厳しく批判した。
「人的資源を破壊し、組織の持続可能性を危機にさらす財務施策が、現在のような窮状に追い込んだものであり、経営責任は極めて重い」
そして岩本氏は理事長を解任され、女子医大を追放された。
諮問委員会が推した理事長候補は“辞退”
岩本氏の暴走に加担した理事たちは辞職せずに留まり、女子医大の再生計画を作る諮問委員会のメンバーを選出する。委員長の岩田喜美枝氏は、去年7月6日にホテルニューオータニ東京の高級和食店で、岩本氏が招いた懇親会に参加していた関係だ。
そして諮問委員会は、女子医大の再生を担う重要な理事長に、福井次矢氏を強く推す。産科のブランド病院として知られる、聖路加国際病院(東京・中央区)の理事長や院長を務めた福井氏だが、部下の医師からパワハラ行為で訴えられ、経営手腕にも疑問符が付いていた人物だという情報を、女子医大の教授たちが掴んだという。
「有志の教授2人が諮問委員会の岩田委員長に会って、聖路加国際病院での福井氏の経営手腕が問題視されたこと、パワハラを受けたとして部下の医師から訴えられたこと等を伝えたそうです。厳しい状況にある女子医大の理事長として適格なのか教授が尋ねると、岩田委員長はしどろもどろだった、と聞きました」(女子医大の現役職員)
こうして諮問委員会は理事長人事を白紙にせざるを得なかった。福井氏は女子医大の理事に選ばれていたが、理事長の可能性がなくなり、10月23日に理事も辞退していたことも判った。
兼務案が出たのは臨時理事会の当日
一方、すでに学長に選ばれていた山中氏は、1980年に三重大学医学部を卒業。1983年から2019年まで女子医大に勤務して、膠原病リウマチ痛風センターの教授として診療と教育、研究に取り組み、リウマチの権威としても知られる。
現在は、国際医療福祉大学の教授と同時に、山王メディカルセンターの院長も務めている。
山中氏に学長と理事長の兼務、という案が示されたのは、臨時理事会の当日だったという。
「これだけ社会的に批判されている中で必死に頑張っている教職員がいる。私は感謝、敬意、そして感動しました。皆さんをなんとか守りたい、と思っている」
職員を集めた所信表明で、山中理事長は熱く語った。
山中氏に対しては、女子医大の職員から歓迎する声が聞こえてくる。
「学生時代に山中先生の講義を受けたことがありますので、よく知っています。患者さんの信頼が非常に厚い医師でした。泥舟状態の女子医大に戻ってくれて嬉しかったです」(女子医大OGの医師)
「穏やかで優しい人柄で、在任中は若い医師や看護師からも慕われていました」(女子医大の男性医師)
前体制の理事や監事、評議員は全て辞職して、経営陣は刷新された。女子医大はギリギリのところで、女帝の亡霊を振り払い、自立的に再生に向けたスタートを切ったと言えるだろう。
元理事長の岩本氏は、警視庁の事情聴取を連日のように受け、Xデーも近いとも言われている。
一連の疑惑について、内部告発した2名の職員は懲戒解雇され、退職金も支払われていない。第三者委員会はこれを「報復的な人事」として、厳しく批判している。再生に向けて始動した女子医大は、2名に対して謝罪や被害回復を早急に進めるべきではないだろうか?
(岩澤 倫彦/週刊文春 電子版オリジナル)
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