1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

息子の名前が違う“怪しすぎる遺言書”、認知症の父の財産を兄嫁が使い込み...本当にあった「映画のような相続トラブル」

文春オンライン / 2024年11月4日 6時0分

息子の名前が違う“怪しすぎる遺言書”、認知症の父の財産を兄嫁が使い込み...本当にあった「映画のような相続トラブル」

©mapo/イメージマート

 相続は、多くの人が人生で一度は経験する出来事だが、“はじめての相続”という人も少なくないはず。遺産をめぐり親族とトラブルになるケースもある。

 親の世話をしている親族がほかの親族との面会を妨害する「囲い込み」や「怪しげな遺書」……。実際に、元家事調停士で弁護士の加藤剛毅氏のもとには様々なケースの依頼があったという。相続トラブルを回避するには、どのような心構え・知識が必要か。加藤氏の著書『 トラブル事案にまなぶ 「泥沼」相続争い 解決・予防の手引 』(加藤剛毅著・中央経済社)より一部を抜粋して紹介する。

◆◆◆

〈CASE1〉認知症の父親の財産を、兄の嫁一家が使い込み?

(本書184頁より)

 実際に、私は囲い込みの事案の依頼を受けたことがあります。依頼者は60代の男性でした。依頼者によれば、実家に住む認知症の父親の財産が、父親と同居する亡き兄の嫁家族に使い込まれているようだとのことでした。

 父親が認知症の診断を受けていたことは判明していたので、その財産を保全するため、家庭裁判所に後見人選任の申立てを行いました。

 案の定、囲い込みをしている親族が後見人の選任に反対したため、後見人の選任に必要な医師の診断書を取得することができませんでした。これは当初から想定された事態でした。

 依頼者の父親はその後、福祉施設に入所しましたが、私は依頼者と相談のうえ、依頼者と一緒にこの福祉施設に赴き、父親を連れ出してその足で病院に行き、家庭裁判所に提出するための「後見開始相当」との医師の診断書を取得しようと計画しました。

 そして計画決行の日、私は、依頼者に同行して父親が入所している施設で父親との面会を求めました。

 すると何と、父親はその前日の夜に、兄嫁に連れ出されて実家に帰宅してしまっていたことが判明しました。これを知った依頼者は激怒しました。

依頼者がとった“驚きの行動”

 実家に殴り込みにいこうとする依頼者を私は必死で制止し、その日は失意のうちに帰路につきました。

 あとで聞くと、実は、依頼者が味方だと思っていたお姉さんに数日前にその計画を話してしまっていたことが判明しました。どうやら、味方だと思って信頼していたそのお姉さんから相手方に計画が事前に漏れたようでした。

 こんな、スパイ映画みたいなことが起こるのだなあと私は驚きました。

 その後、私から施設側に対して父親の看護記録等を開示するよう要請しましたが、兄嫁の意を受けた施設側の協力も得られなかったため、「後見開始相当」との医師の診断書が提出できず、審理は難航しました。

なんとか後見人を選任

 ところが後日、囲い込みをしている兄嫁にも弁護士が代理人につきました。その代理人と粘り強く協議した結果、その協力を得て、医師の診断書を家裁に提出し、後見人(利害関係のない弁護士)の選任に漕ぎ着けることができました。このため、少なくとも、後見人選任後は財産の保全をすることができました。

 その後父親がお亡くなりになると、遺産分割調停をすることになりましたが、やはり父親の生前の預貯金の使い込みが問題となり、調停は大変紛糾しました。

〈CASE2〉亡くなった母親の“遺言書”が怪しすぎる?

(本書120頁より)

 依頼者は40代の男性でした。亡くなった母親が、父親の異なる依頼者の異父きょうだいに対し、全財産を遺贈する旨の「自筆証書遺言」を作成していました。

 しかし、その便箋2枚の「遺言書」が発見されたのが、母親が亡くなってから何と10年(!?)も経ったあとであったこと、「遺言書」を発見したのが財産をもらう異父きょうだい自身であったこと、「遺言書」を発見した経緯についての説明が二転三転していたこと、自分の息子の名前の漢字を間違えていたこと、筆跡が母親のものではないのではないかなど、これでもかというほど不審な点が盛りだくさんでした。

 そこで、遺言を無効にできないかとのご相談を受けたのです。そのとき既に、異父きょうだいから、遺言に基づき、土地所有権の移転登記を求める訴訟が提起されており、その対応をどうするか決めなければなりませんでした(なお、遺言が「自筆証書遺言」であったこともあり、「公正証書遺言」であれば必ず用いられる「相続させる」との文言を使っていなかったため、相続人による単独申請による移転登記ができない事案でした)。

遺言を無効にするのはハードルが高い!?

 まず私は、曲りなりにもご本人の署名・押印がある以上、遺言を無効にするのは相当ハードルが高いことをご説明しました。

 そして、依頼者と協議した結果、裁判所が判断するのであれば仕方がないとのことで、裁判では遺言の無効を主張しつつ、仮に遺言の無効を認めてもらうのが難しいようであれば、予備的な主張として、遺言が有効であることを前提に、遺言により侵害されている遺留分の請求権を行使して一定の金銭の支払いを求めるという方針で訴訟を進めることになりました。

 その後、私が正式に受任し、依頼者の代理人として訴訟を進め、前述の多くの不審点を指摘しつつ遺言が無効であることの主張を粘り強く展開しましたが、裁判官の心証としてはやはり当初の想定どおり、証拠上なかなか遺言が無効であるとまでは断定できないというもののようでした。

 そこで、当方としては、遺言が有効であることを前提に、遺言により侵害された遺留分の請求権を行使したうえで、相手方の代理人と期日間で交渉を重ねました。その結果、当方が遺産である不動産の移転登記手続に応じる代わりに、一定の金銭を支払ってもらうことで依頼者の納得も得て合意が成立し、和解成立に至りました。

 この事案では、遺言の有効性について怪しいと思わせる不自然・不可解な点が数多く存在しましたが、実際に遺言を無効にすることのハードルが相当高いことを改めて再確認することになりました。

〈CASE3〉“放蕩息子だけには相続させたくない”は可能?

(本書170頁より)

 依頼者は60代の女性でした。この方は、将来、相続人となる長男と二男の2人のお子様のうち、生前の自分に対する不行跡から、どうしても二男には遺産を相続させたくないとの強い意向をお持ちで、その意向を証明するための公正証書遺言を作成したいとのことでした。

 依頼者によると、その二男の不行跡は次のとおりでした。

 二男はせっかく大学に入学させてもらったにもかかわらず、1年もしないうちに両親に相談もなく勝手に退学してしまい、その後、音信不通になってしまいました。そして数年後、依頼者のご主人(二男の実の父親)が亡くなったときですら連絡もとれず、葬儀にも顔を出しませんでした。

 そのような態度であったにもかかわらず、あるとき突然、数年ぶりに実家に顔を出したかと思ったら、借金をしているので助けてほしいと泣きついてきたというのです。

 依頼者はあまりのことに呆れてものも言えませんでしたが、やはり自分の息子ということで、仕方なく借金を返すためのお金を二男に渡しました。すると次の日の朝には、二男はもう家を出ていなくなっており、その後また音信不通になってしまったということでした。

公正証書遺言を作成することに

 相続人の資格を剥奪する制度としては、「廃除」という制度があります。

 そして、廃除には、将来、被相続人となる予定の方がご存命のうちに家庭裁判所に申立てをして、相続人となる予定の推定相続人の資格をあらかじめ剥奪する「生前廃除」と、遺言に「廃除する」旨の文言を記載して遺言により指定された「遺言執行者」が遺言者の死後、遺言の規定に従って、家庭裁判所に廃除の申立てをする「遺言廃除」の二種類がありますが、実際に廃除が裁判所に認められることは少なく、非常にハードルが高いことを、私は依頼者にご説明しました。

 しかし、依頼者は、裁判所に認められる可能性が低いとしても、やるだけやりたいという強いお気持ちでしたので、検討の結果、「遺言廃除」の方法を選択されました。

 そこで、私は公証人とやりとりをして必要書類を取り寄せ、依頼者とともに公証役場に証人として赴いて、1.全ての遺産を長男に相続させる旨の条項、2.二男を「廃除」する旨の条項及び3.私を遺言執行者に指定する旨の条項を記載した公正証書遺言を作成しました。

 また、依頼者の二男の不行跡を立証するための証拠として依頼者が作成した「陳述書」の証拠価値を高めるため、公証役場で「宣誓認証」の手続をしました。

 将来、依頼者がお亡くなりになったあと、私が遺言執行者として家庭裁判所に二男の廃除の申立てをしたとしても廃除が認められるかどうかは裁判所の判断なのでわかりませんが、依頼者には、二男とは異なり自分によくしてくれた長男のためにできるだけのことはやっておきたいとの気持ちを汲んでいただけたと大変喜んでいただくことができました。

(「文春オンライン」編集部/Webオリジナル(外部転載))

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください