中2で不登校→17年間“引きこもり生活”→31歳で精神科病院に入院…「死ぬ一歩手前」まで追い詰められた50歳男性が語る、幼少期の複雑な家庭環境
文春オンライン / 2024年11月4日 11時0分
糸井博明さん ©山元茂樹/文藝春秋
就学や就労などの社会的参加を避けて、長期間、家庭にとどまり続けている「引きこもり」。内閣府の調査によると、日本には現在、約146万人の引きこもり当事者がいるという。
兵庫県丹波市で生活支援員として働く糸井博明さん(50)も、14歳から31歳まで17年間、引きこもりを経験したひとりだ。長期の引きこもりによって、「死ぬ一歩手前」まで心身が疲弊。31歳のときに精神科病院の閉鎖病棟に入院し、統合失調症と診断された。
もともと活発な子どもだった糸井さんは、なぜ引きこもりになってしまったのか。複雑な家庭環境で育った幼少期の記憶から現在に至るまで、話を聞いた。(全3回の1回目/ 2回目 に続く)
◆◆◆
父がお酒を飲みながら怒鳴ったり、暴れて…幼少期の家庭環境
――糸井さんの引きこもり生活は中学2年生から始まるそうですが、まずは、それ以前の子ども時代について教えていただけますか。
糸井博明さん(以下、糸井) 母が美容師、父が会社員で、両親が共働きだったのもあって、幼少期は親にまったくかまってもらえなかったのを覚えています。2歳上の兄と1歳下の弟と私の3人で、よく近所のおばさんに預けられたりして。
でもその分、自由ではあったので、兄弟3人で寂しさを埋めるように外で遊んだり、たまに兄弟げんかをしたりして過ごしていました。
――家ではどのように過ごしていたのですか。
糸井 同居していた母方の祖母と父の仲が悪くて、いわゆる“家庭不和”だったんです。祖母が父に対して小言を言って、それに対して、父がお酒を飲みながら怒鳴ったり、暴れて物を壊したりして。そういうのを見聞きしていたから、兄弟3人とも家の中では怯えていました。
父と祖母が不仲になったワケ
――なぜお父さんとおばあさんは不仲になってしまったのでしょう。
糸井 父は婿養子で、家庭内での立場が弱かったんです。祖母は気が強いから、父の仕事や収入のことに口を出して、それで喧嘩になってしまう。
小学校3、4年生の頃からずっとその状況を見ていたから、小言を言う祖母にも、暴れる父にも不信感を抱くようになりました。「なんでちゃんと話し合わないんだろう」「なんで怒らせるようなことを言うんだろう」って。
――お母さんは2人の言い合いを仲裁しなかった?
糸井 母がどちらかの味方をすると、どちらかが孤立してしまうから、どっちつかずの態度を取っていて。板挟みになっている状態でした。
――できることなら、家族で喧嘩をしてほしくないですよね。
糸井 父はお酒を飲んでいないときは落ち着いていて、一緒に時代劇やドリフターズのコント番組を見たり、遊んでくれたりもしたんです。でも、祖母と言い合いをしているときは、酔っ払って暴れまわる。
そのギャップにショックを受けたし、自分の中でも混乱してしまって。小学校5年生の頃から、次第に父と口をきかなくなりました。
新興宗教に入信した祖母から“しつけ”を受け…
――おばあさんはどんな存在でしたか。
糸井 真面目な人で、ちょっと怖い存在でした。両親が仕事をしていたから、子育て役を祖母が担っていた部分もあって。「私が孫たちをしつけないといけない」という責任感もあったと思います。
それに、新興宗教に入信していたから、家族に入信教育をしないといけない、というのもあったみたいで。
――新興宗教家庭でもあったのですね。
糸井 祖母が、戦後の心理的な不安から新興宗教に入信したんです。母もその宗教に入信していて、宗教団体の役員のツテで父と結婚したそうで。
――それでは、糸井さん自身はいわゆる宗教3世。
糸井 そうなります。月に1回、教会に行ったり、家の中でもみんなで正座してお祈りしたり、信者のために作られた本の内容を唱えさせられたりして、入信教育を受けました。
そこは「宗教で平和にする」「幸せにする」と謳っていたのに、実際は家庭不和だったから、今思うと納得いかないですね(笑)。
火のついた線香やお灸を身体に当てられることもあった
――その宗教には「戒律」もあったのでしょうか。
糸井 ちゃんと正座してお祈りしなかったり、兄弟げんかをしたりすると、祖母と母に身体を押さえつけられて、火のついた線香やお灸を身体に当てられることはありました。
「ごめんなさい」と言って泣き喚いても許してもらえず、最終的には、納屋に入れられて、外からカギをかけられて閉じ込められるんです。泣き止むまで出られなくて、祖母と母の気が済んだら出してもらえるみたいな。
ただ、当時は「戒律」という言葉を知りませんでしたし、そういう認識もありませんでした。祖母の“昔の人”ならではのしつけとしか感じてなくて。
――それは「しつけ」というより、「虐待」では。
糸井 今振り返ると、そうなのかもしれません。でも当時は、祖母も母も虐待しようとしていたわけでないと思うんです。ただ、宗教の教えを守るため、私をよい子に育てるため、という意識でやっていたんだと思います。
「自分は親に期待されていない」と思うようになったワケ
――ご兄弟も、お母さんやおばあさんから同じようなことをされていた?
糸井 いや、兄と弟が同じような状況にあったかどうかは、覚えていないんです。自分が実際に受けた記憶はあるんですけど。
ただ、ほかの部分で兄弟間の格差みたいなものは感じていました。
――それはどういう?
糸井 兄と弟には、6畳の部屋と新しい学習机が与えられていたのに対して、私の部屋は2畳しかなく、机はもらい物の古い机で。
弟は小学校の高学年くらいから学習教材を買い与えられて、公文にも行かせてもらっていたけど、私は行かせてもらえなかったんです。そういうのもあって、小学校の高学年くらいから、自分は親に期待されていない、大切に扱われていない、と思うようになって。
――「なんで自分だけ」と思いますよね。
糸井 そうですね。小さい頃から親にかまってもらえなかったし、自分だけ愛情を注いでもらっていないと感じていたから、当時から自己肯定感がありませんでした。
さらに祖母からの「しつけ」もあったから、悪いことをしたら怒られる、罰を受ける、という恐怖心もあって。
そうすると、委縮して挑戦できない、行動できない精神状態に陥って、どんどん内向的な性格になっていって。劣等感も増して、次第に「自分はダメな人間だ」と思うようになっていきました。
中学2年で学校に行けなくなった理由
――家に引きこもるようになったのは、いつ頃からですか。
糸井 中学2年生の5月頃からですね。
――引き金になるような出来事があったのでしょうか。
糸井 いじめられたとか、何か直接的な出来事があったわけじゃないんです。ただ、中学2年生になって、数学や英語の授業についていけなくなったんですよ。
1年生のときは、通知表が5段階評価のオール3で、可もなく不可もなく、という感じだったんですけど。1学年上になったら、テストの成績がどんどん下がっていって。
でも、私は弟と違って公文に行ってないし、学習教材も買い与えられていないから、勉強する習慣もついてなくて。成績が下がるにつれて不安になっていったし、「自分はダメな人間なんだ」という思いも強くなってしまって。
それで、ある日突然、もう学校に行きたくない、と思ってしまったんです。
学校に行けない自分を「落ちこぼれ」「恥ずかしい」と思っていた
――どこかのタイミングで「学校に行こう」と思うことは。
糸井 その気力はなかったです。学校に行けなくなった自分を「落ちこぼれ」「恥ずかしい」と思っていたし、周りからも「あの子は学校に来てない、変わった子」という目で見られると思って。久しぶりに学校に行ったら、同級生からいじめられるかもしれない、という怖さも感じていました。
いじめられないとしても、「無視をされるんじゃないか」という被害妄想があって。親しい友達がいなかったので、劣等感や疎外感を抱きながら過ごすことになるんじゃないかと。
――一度行かなくなったら、行くのが怖くなりますよね。
糸井 しばらく行かないと、さらに学力もついていけなくなってしまう。
最初は学校の先生や同級生も通信簿を渡しに家に来てくれたり、声を掛けに来てくれたりしたんですけど、それが逆に、「自分は勉強もできない、学校も行けないダメな子だから、憐れみを受けている」という感情を引き起こしてしまって。
――ネガティブな感情が湧き上がってしまったと。
糸井 私の存在は忘れてほしい、と思っていました。そうすれば、自分が勉強ができないことも忘れてもらえるし、「いない存在」になれば、学校に行かなくていい理由になると思ったんです。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
〈 髪は膝下まで伸び、歯はボロボロに欠け、身体はガリガリに…14歳から17年間“引きこもり”だった男性(50)が明かす、壮絶な引きこもり生活 〉へ続く
(「文春オンライン」編集部)
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