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12歳年下の妻に「思い通りに動いてくれよ」とモラハラを繰り返して…ついに離婚を突き付けられた夫が至った“意外な思考”

文春オンライン / 2024年11月4日 11時10分

12歳年下の妻に「思い通りに動いてくれよ」とモラハラを繰り返して…ついに離婚を突き付けられた夫が至った“意外な思考”

太田基次さん 本人提供

〈 12歳年下の女性からプロポーズされたが…「半年後、すでに離婚を考えた」心理カウンセラーの30代男性が“モラハラ加害者”になってしまうまで 〉から続く

 日常的に暴力を振るう父親に育てられ、学校や部活で体罰を受けて育ったという心理カウンセラーの太田基次さん(49)。当時26歳の妻・瑠美さん(37)からのプロポーズを受けて結婚生活を始めてから、育った環境から受けた負の影響の大きさに、向き合わざるを得なくなってしまったという。

 この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、太田さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。

 旦木さんは、自著『 毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち 』(光文社新書)などの取材をするうちに「児童虐待やDV、ハラスメントなどが起こる背景に、加害者の過去のトラウマが影響しているのでは」と気づいたという。

 親から負の影響を受けて育ち、自らも加害者となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。ここではそんな仮説のもと、期せずして父親のような“加害者”になってしまったという太田さんの過去、そして当時の瑠美さんの葛藤に迫る。(全3回の2回目/ 続きを読む )

◆◆◆

険悪な新婚生活

 瑠美さんのプロポーズを受け入れた基次さんだったが、結婚生活は順風満帆とは言えなかった。

「結婚生活は生活費を折半する内容で合意はしていましたが、自分が一回りも年上で、結婚観として『夫が妻を養うもの』という考え方が無意識的にあり、常に『頑張らないといけない』という思いがありました。また、そのプレッシャーとは別に、35歳の頃から公的機関や福祉施設、企業内でのカウンセリングに従事する他に、自営業者としても心理カウンセラーを始め、二足のわらじ状態となって、完全に業務量がオーバーしていたのです」

 寝る間も惜しんで働き、日常的に高ストレス状態にあった基次さんは、常にイライラするようになり、家の中で癇癪を起こしたり、些細なことでキレて、不機嫌オーラを撒き散らすようになった。期せずして基次さんの父親と同じ状態になっていた。

「身勝手な話ですが、僕の思い通りに動いてくれない妻に、『何でわかってくれないんだ!』という思いから常にマグマのような怒りがありました。思い通りに動いてくれないと言っても、僕は妻に直接要求はしていません。『言わなくてもこれくらいわかるだろう』『察してくれよ』と思っていたのです」

 もちろん人間にテレパシーはない。ましてや結婚して数ヶ月の2人だ。具体的な要求もせず「思い通りに動いてくれない」は無茶な話すぎる。

 一方、そんな基次さんに瑠美さんは戸惑うばかりで、次第に2人の空間に、息苦しさを感じるようになっていった。ここからは妻・瑠美さんの言葉も紹介する。

カサンドラ症候群で共依存状態

「夫からモラハラを受けていた新婚当初は、全て夫の思い通りにいかないと機嫌を損なう状況でした。はっきりとした暴言というものはほとんどなく、今で言う“フキハラ(不機嫌ハラスメント)”で、全て夫が正しい=私が間違っているという図式にされるため、頭がおかしくなりそうでした。私が100%悪いことを前提に話されたり、年齢が一回りも上で、社会経験も長いという事実などを織り交ぜて冷静に説教されたりすると、『私が間違っているのかな?』とケンカのたびに思わされてしまっていました」

 母子家庭で育った瑠美さんは、結婚するときに母親や姉、友人たちに家財道具をプレゼントされた手前、結婚半年で実家に帰ることはできなかったが、とりあえず区役所の無料カウンセリングを受けてみることにした。

 するとカウンセラーから、

・夫の行為はモラルハラスメントであること

・瑠美さんはカサンドラ症候群で、共依存の状態にあること

 を告げられ、離婚か別居を勧められた。カサンドラ症候群とは、発達障害を持っていたり、共感性が低かったりするパートナーや親しい人などとのコミュニケーションに悩み、心身に様々な不調が現れる状態のことを指す。

 しかし瑠美さんには違和感があった。カウンセラーのアドバイスは理性的なものだったが、夫婦なのですぐに割り切れるはずもなく、躊躇してしまった。

「夫は本当に、そこまで悪い人なのでしょうか?」

 そう質問すると、カウンセラーはさらに以下のように説明した。

・共依存状態に陥っているから正常な判断ができなくなっている

・モラルハラスメントは自己愛なので治らないから離れたほうがいい

「今考えると、確かにカサンドラ症候群の状態で、思考は鈍くなっていたと思いますし、共依存状態であったと思います。ただ、当時の私にとっては、突き放された言葉に感じ、『やっぱり私がおかしいのか?』と、責められている気分になりました」

夫の特性、私の特徴

 瑠美さんは基次さんのモラハラ行為を振り返ってみた。

・基次さんがイライラしている時、しばらくそっとしておくと、「放置された!」とキレ出す

・夫の心を慰めない態度を指摘・叱責され、離婚や別れを匂わされる

・時間が経過すると軽く謝罪され、アドバイスだったと言われ、こちらに反省を促される

「『夫が私を楽しませようとしている時や、自分が楽しみにしている時』『はじめて経験することや、慣れていなくて自信のないことをする時』に、このような“自分が正しいと証明するまで静かにキレ続ける事態”が起こっていることに気付きました。そこで、図書館へ行って調べてみたところ、発達障害の子どもに対する母親の支え方が書かれている本を見つけて、『めっちゃ夫のことだ!』と思ったんです」

 瑠美さんは、早速書いてあることを実践してみたところ、明らかに基次さんの怒りの爆発の回数が減った。

 効果を実感した瑠美さんは、本に書いてあることを実践すると同時に、自分自身を捉え直していくことにも取り組んでいく。

 すると、自身には以下のような特徴があることに気づいた。

・空気を読みすぎる性質

・自分よりも周囲を重視

・自分なら解決できるという慢心

「我ながら、モラハラをする人間にとって、都合のいい性格をしていますよね」

 瑠美さんは、「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えることが出来る」「乗り越えられない困難は与えられない。きっと乗り越えられる」と思い、自分自身を変えようと決意。それと同時に、これまで基次さんから度々「多分俺は発達障害だと思う」と聞かされてきたものの、しっかりと受け止めてこなかった自分を反省。発達特性についての勉強をスタートした。

「実はあなたとの離婚を考えていた」

 基次さんの話に戻そう。

 やがて、結婚から1年ほど経った頃、2人でお笑いのライブを見に行った帰り道で、基次さんは瑠美さんが笑っている顔を久しぶりに見た気がして、こう言った。

「何か悩んでいたの?」

 すると瑠美さんは答えた。

「あなたのことで悩んでいて、精神的な疲労からカウンセリングも受診したし、実は離婚を考えていた」

 基次さんは、いつものようにマグマのような怒りが湧き上がるとともに、絶望を感じた。

「言われた瞬間、妻のことを気にする余裕なんてなくなり、パニックになっていました。ただただ受け入れられず、ショックを受けて、次に怒りが湧いてきました。この怒りは、妻のために自分なりには頑張っていたのに、何で非難されないといけないのかという思いからです。当時の自分は本当に自己中心的だったと思います」

 それから1ヶ月ほど経った頃、ようやく基次さんは、「俺は一体、何をしているんだ」という反省の気持ちと、心の底から瑠美さんに対して申し訳ない気持ちになった。

「僕は『何のために身を粉にして頑張っていたのか』と自問しました。結婚当初は『妻を幸せにしたい』『妻に良い暮らしをさせたい』という一心だったのに、結果的に愛する妻を傷つけて、離婚寸前まで追い込んでしまいました。ここは何としてでも、『自分が改心しないといけない』『妻がくれた最後のチャンスを、絶対に無駄にしてはいけない』と思い、本気で自分の問題と向き合う決意をしました」

 この時から基次さんは、“モラハラ加害者体質”である自分を変える努力を開始した。

〈 「夫に感謝すべき」「女性は控えめであるべき」妻を離婚寸前まで追い詰めてしまった…男性(49)は自身の“モラハラ体質”とどう向き合ったのか 〉へ続く

(旦木 瑞穂)

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