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「夫に感謝すべき」「女性は控えめであるべき」妻を離婚寸前まで追い詰めてしまった…男性(49)は自身の“モラハラ体質”とどう向き合ったのか

文春オンライン / 2024年11月4日 11時10分

「夫に感謝すべき」「女性は控えめであるべき」妻を離婚寸前まで追い詰めてしまった…男性(49)は自身の“モラハラ体質”とどう向き合ったのか

太田基次さん 本人提供

〈 12歳年下の妻に「思い通りに動いてくれよ」とモラハラを繰り返して…ついに離婚を突き付けられた夫が至った“意外な思考” 〉から続く

 年下の妻が自分の思う通りに動いてくれないことに憤り、離婚寸前まで追い詰めてしまったという心理カウンセラーの太田基次さん(49)。自身の“モラハラ加害者体質”と向き合い、妻との関係修復に取り組む中で、自分を縛り付けていたマイルールの数々は両親からの影響によるものが大きいと気づいたという。

 この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、太田さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。

 旦木さんは、自著『 毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち 』(光文社新書)などの取材をするうちに「児童虐待やDV、ハラスメントなどが起こる背景に、加害者の過去のトラウマが影響しているのでは」と気づいたという。

 親から負の影響を受けて育ち、自らも加害者となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。ここではそんな仮説のもと、太田さんが“モラハラ体質”をどう脱したのか、その方法に迫る。(全3回の3回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

「~すべき」のマイルールに縛られる

 まず基次さんは、カウンセリングを受けた。

 カウンセラーは、

「抑うつ状態で、自分の問題と向き合う気力も無いので、まずは自身の回復に努めましょう」

 とアドバイスをした。

 さらに、発達障害のことを相談したかった基次さんは、精神科を受診。すると、ADHD(注意欠如・多動性障害)とASD(自閉スペクトラム症)の混合型と診断され、抗うつ剤や発達障害の治療薬であるストラテラ、睡眠導入剤が処方された。

 基次さんは抱え込んでいた仕事を減らし、きっちり睡眠をとり、意識的に趣味の時間を設けるなど努めるうちに、体調が回復。

 アンガーマネジメントを学び、カウンセリングを受けることで、自身の怒りの根源を理解し、自分がキレてしまう仕組みが少しずつだがわかってきた。

「僕がキレるのは、相手が自分の『~すべき』という『マイルール』を破った時です。馬鹿にされたり、恥をかかされたりしたと感じると、裏切られたという気持ちに変換され、癇癪として怒りが出るということがわかりました。怒りの感情をコントロール出来れば、モラハラは抑えられると確信したため、ノートに日々『腹が立ったこと』『許せないこと』を書き出し、どのような状況でどんな喜怒哀楽の感情を感じるのか、『本当はどうして欲しかったのか』本音を記録して、自己理解を深め、だんだん自分のキレるパターンを把握することが出来るようになっていきました」

 それは自分の取扱説明書を作る作業だった。

「自己理解を深めることで、事前に対策を打てるようになり、イライラしやすい状況や環境を回避できるようになりました。また、自身の認知を理解することで、イライラする場面に直面しても、以前よりも怒りのゲージが上がらなくなっています」

 基次さんは、自分の中にあった「マイルール」を書き出してみた。

 すると、「夫は妻を養うべきだ」という「マイルール」の根源は、完全に父親の影響だと気づいた。

「父は身を粉にして働いており、母も『うちの夫はよく働くし真面目で優秀』『男は甲斐性が必要』と言っており、そんな両親の影響を受けて、自分の『マイルール』が強固なものになっていったように思います。しかし僕は父のように人一倍働くことはできず、頑張りすぎると妻に皺寄せがいったり、僕自身が倒れてしまったこともありました。そこで、父の理想や『マイルール』通りにはなれない自分に折り合いをつけ、『自分は自分のペースで精一杯やればいい』と考え直していきました」

 自分を縛る「マイルール」がある一方で、他人を縛る「マイルール」もあった。

 例えば、

・妻は夫に感謝すべき

・女性は控えめであるべき

・妻は夫を立てるべき

・仕事はプライベートより優先すべき

 というものだ。

 これらも、両親の姿を見て無意識に作られたものだった。

 基次さんは無意識に自身の母親と妻を比較して、夫である自分を立てず、自分ばかり目立とうとするように見える妻に苛立ちを覚えていたのだ。

「これは典型的な男尊女卑の思想だと今は分かりますし、マザコン体質な自分を心底気持ち悪く感じますが、当時はそれが当たり前だと考えていました。こうした『マイルール』の根源には、両親だけでなく、自分自身の人生の中で抱えてきた劣等感や自己肯定感の低さがあるということに気づき、自分が過去の嫌な経験を妻に投影していたことが分かると、少しずつ怒りの量も頻度も減っていきました」

 基次さんは、瑠美さんに「妻」だけでなく、「母親」や「友だち」、「同僚」といった、妻以外の役割までも勝手に期待して、それを瑠美さんが完璧に担ってくれないと怒っていた。

 そんな問題のある自分に気づき、葛藤し、ダメな自分を受け入れ、反省や対策を繰り返していくうちに、少しずつ「マイルール」を手放すことができていった。それはすなわち、“モラハラ加害者体質”を変えることだった。

「感情日記」の効果

 基次さんは、瑠美さんから「実はあなたとの離婚を考えていた」と言われてから約10年経過した現在も、どのような状況でどんな喜怒哀楽の感情を感じるのか、「本当はどうして欲しかったのか」などを書き出す「感情日記」を今でも続けている。

 これにより基次さんは、1ヶ月に1度以上怒りの爆発があった頃に比べ、現在は6ヶ月に1度くらいの頻度にすることができているほか、子どもの頃から苦手だった、自身の感情を言語化する力を身につけていった。

 怒ること自体をなくすことは難しいが、身体中を震わせるほどの強い怒りを感じていた以前に比べると、怒りの量や強さ自体も減らすことができているようだ。

 さらに、基次さんと瑠美さんは、約10年前、「モラルハラスメントを相談できる場所がない」と感じたことから、2015年に「モラルハラスメント解決相談所」を開設。現在まで、加害者・被害者に関わらず、モラルハラスメントに関する悩みを解決に導いている。

 この「モラルハラスメント解決相談所」でも「感情日記」をつけるワークは導入されている。自分自身に向き合う作業は地道で楽しいものではないが、加害者自身の“モラハラ体質”改善だけでなく、被害者であるパートナーに、加害者の“モラハラ体質”改善の努力を可視化できるという意味でも役立っているようだ。

トラウマは連鎖する

 基次さんの父親の鉄工所が倒産した時、父親は60歳、母親は57歳だった。その後も父親は別の鉄工所に勤め、78歳になった現在も後継者育成役として働き続けている。

 ところが母親は、父親の会社が倒産した時に、家計の足しにと始めた慣れないホテルのベッドメイクのパートに向かう際に自転車で転倒。股関節にボルトを入れる手術をし、足が不自由になってしまってからは、家の中で酒を飲んで過ごすようになってしまっていた。

「父が帰宅すると、母はほぼ泥酔状態で、父が『酒ばかり飲むな』と叱ると逆上して、『あんたも昔は浴びる程飲んでいただろ! それで私に散々迷惑をかけてきた! だから、あんたに偉そうに言われる筋合いはない!』とか、『うるさい! 黙れ! 今すぐ離婚してやる! 今すぐ、ここ(マンションの3階)から飛び降りてやる!』などと激しく反発します」

 驚くことに、基次さんが子どもの頃と、両親の立場が逆転している。

 母親は息子である基次さんの言うことも聞かず、「私は酒は飲んでいない」「全く問題ない」と言い張り、病院も拒否され、お手上げ状態だ。

「僕が結婚してから、母は酒が入ると、過去に父がしてきたことを咎め始めるようになりました。でも僕は、父の鉄工所で働いた数年間で、父が糖尿病を患いながらも僕たち家族のために一生懸命働いてくれていたことを理解したので、今は父に対して恨みはありません」

 もしかしたら母親は、基次さんが自分の手を離れるまで我慢していたのかもしれない。そして父親は、自分の過去を悔いているからこそ、母親の暴言を受け止め続けているのかもしれない。

「しかし僕は、父が母に対して行っていたモラハラ行為を、無意識的にではありますが、妻に対して再現してしまいました。この原因は、自分の偏った結婚観や『マイルール』、さらに発達特性を言い訳にして、自身の感情の言語化を怠ったこと。これらが重なった結果だと解釈しています」

 多くの人は育った家庭しか知らない。そのために、新しい家庭を築けば、無意識的に育った家庭を再現しようとする。その家庭が夫婦双方にとって過ごしやすく、違和感のないものであれば問題はないが、そうでない場合はすり合わせが必要となる。その際に、どちらかだけが無理をして合わせようとしたり、無理やり「合わせろ」と強制すると、その家庭には依存やハラスメントが生じる。基次さんと瑠美さんの家庭がそうだった。

「最近では『毒親』や『親ガチャ失敗』という言葉が広まっていますが、それによって『自分がモラハラ加害者や毒親になったのは全て親のせいだ』と、自分の生きづらさやモラハラ行為をすべて親の責任にする、いわゆる“他責思考”も広がっていると感じています。確かに、自分の生きづらさの原因を探る過程で、毒親からのDVやモラハラが影響していることに気づくのは大切ですが、自己の問題として向き合わない限り、現実は変わりません。問題の原因に気づいたのであれば、いつまでも毒親に囚われているのではなく、今後、より良い“自分の人生”を築くために、『自分はどうしていくべきか』という問題解決の視点に切り替えることが必要だと思います」

トラウマの連鎖を止められるのは自分だけ

 毒親育ちの人が、自分の親が毒親だったと気づくタイミングは、人生で4回あると筆者は考えている。1回目は一人暮らしを始めた時。2回目は結婚した時。3回目は子どもを持った時。最後は、親に介護が必要になった時だ。

 この4回は、数が増えるごとに気づく可能性が増す。もちろん毒親の度合いにもよるが、1回目や2回目では気づかない人もいる。独身の人、子どもを持たない人は、なかなか気づきにくく、親の介護でようやく気づくケースも少なくない。つまり、それほど気づくことが難しいということだ。そして、気づくのが遅れれば遅れるほど、“自分の人生”を生き始めることが遅れてしまう。

 約10年前に「モラルハラスメント解決相談所」を開設した基次さんは、これまで「モラハラを改善したい」という相談を何件も受けてきた。だが、「パートナーに指摘されて来た」という人がほとんどで、「自ら気づいて来た」という人は1割程度しかいないという。おそらく自分のことも自分が育った家庭のことも、“疑いを持たないまま生きている人の方が一般的”だということだろう。

 最後に基次さんはこう話す。

「“モラハラ体質”を、体の中から完全に消し去ることは出来ないと思います。でも、本気で自分の問題と向き合うことで、衝動的な怒りは確実に軽減されます。これは間違いありません。今でも妻とケンカすることはありますが、頻度は10分の1ほどに減りました。また、仮にケンカになっても、怒りに囚われる時間は確実に短くなり、すぐに関係を修復出来るようになりました。こんな自分に改心するチャンスを与えてくれた妻には感謝しかありません。

 あの時、自分の“モラハラ体質”に向き合わずにいたら、その後の人生も怒りの感情に振り回され続けて、結果的に妻も仕事も失い、人生のどん底から這い上がってこれていなかっただろうなと思います。自分を変えられるかどうかは、自分の本気度と、自身の問題点を指摘してくれる人の存在、『あなたおかしいよ』とツッコんでくれる存在との関係性を構築できるかどうか、これが非常に大切であると感じます」

 自分を変えられるのは自分だけ。トラウマの連鎖を止められるのもまた、自分だけだ。

(旦木 瑞穂)

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