「体の一部がパンパンに腫れていた」24歳で“がん”発覚、兄の死…公務員を辞めて“自給自足生活”を続ける30歳男性が、安定した職を捨ててYouTuberに転身したワケ
文春オンライン / 2024年11月24日 11時0分
YouTubeチャンネル「TAKASU TILE」高須亮佑さん。左は祖母の美江子さん(写真=高須さんのXより引用)
愛知県額田郡幸田町(ぬかたぐんこうたちょう)で自給自足生活を送りながら、“田舎暮らし”を発信しているYouTuberの高須亮佑さん(30)。YouTubeチャンネル「TAKASU TILE」は登録者数22万人超の人気を誇り、今年8月には書籍『 TAKASU TILE 自分をHAPPYにする暮らし方 』(誠文堂新光社)を上梓するなど、注目が集まっている。
もともと消防士として働いていた高須さんは、自身の病気と家族の死をきっかけに、安定した職を捨ててYouTuberへと転身した。いったい、彼の過去に何があったのか——。高須さんとパートナーの由貴奈さんに、話を聞いた。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)
◆◆◆
家の周りは畑に囲まれていて、森もあり、めちゃくちゃ田舎
――高須さんは、YouTubeチャンネル「TAKASU TILE」で愛知県・幸田町での田舎暮らしを発信しています。幸田町とは、どんな町なのでしょうか。
高須亮佑さん(以下、高須) 一言で表すとしたら、「何もないけど何でもある町」です。僕の家の周りは畑に囲まれていて、近くには森もあり、めちゃくちゃ田舎です。でも、町内には駅が3つもあって、名古屋には快速電車で約40分、豊橋には約20分で行ける、便利な場所でもあります。
――高須さんは、生まれてから30年間、ずっと幸田町に住んでいるそうですね。
高須 はい。小さい頃は、山で虫取りをしたり、落とし穴を作ったり。この町全体が、僕にとっての遊び場でした。また、近所の人は顔見知りばかりで、子どもの僕にもみんなが挨拶してくれました。そんな自然豊かで温かな幸田町が大好きで、物心ついた頃から「僕は一生ここにいるんだろうな」と思っていましたね。
高校卒業後、消防士として働き始めたきっかけ
――その考えの通り、高校卒業後は地元で消防士として働き始めます。消防士になったきっかけを教えてください。
高須 高校時代の先生の影響です。僕には5歳と3歳離れた兄がいて、ふたりとも高校卒業後は大学に進学しました。だから僕も「特にやりたいことはないけど、大学に行くんだろうな」と思っていたのですが、担任の先生からしつこく消防士を勧められて。当時は「なんでこんなに言ってくるんだろう」と疑問に思っていました。
最近、先生とお会いする機会があったので、当時のことを聞いてみたんですよ。そしたら、「高須くんはお兄さんたちと違って勉強好きじゃなかったでしょう」と言われました(笑)。その代わりに、野球部に入っていて体を動かすのが好きで、声が大きくてよく通るし、地元が大好きだったから、地域を守る消防士が向いているんじゃないか、と勧めてくれたようです。
――実際に消防士として働いてみて、いかがでしたか?
高須 入る前は「とにかく体力が試される仕事なんだろうな」と思っていたんです。確かにそれも間違いじゃないんだけど、想像以上に同期や先輩、地域の人たちなど、たくさんの“人”と関わる仕事でした。小さい頃から人と関わることが好きだったので、そういった意味では「僕に向いている仕事だな」と思っていました。
由貴奈さん 当時の高須くんは、自分の業務外のことでも自発的に勉強したり、「将来必要になるかも」といって自費で大型免許を取りに行ったりもしていたそうです。きっと本人が思っている以上に、消防士の仕事を楽しんでいたし、やる気に満ち溢れていたんだと思います。
高須 4年目までは地元の消防署で働き、5年目からは119番を受ける部署に異動しました。仕事が変わって大変だったけど、新しいことができるようになって、任されることも増えてきて、毎日充実していましたね。
「体の一部がパンパンに腫れ上がっていた」24歳でがん発覚の経緯
――消防士としてキャリアを重ねていた6年目の頃、がんが発覚したのですよね。
高須 がんが分かったのは2018年10月、24歳のときでした。その前日、幸田町に台風が訪れて119番通報がひっきりなしに鳴り続けていました。やっと自宅に戻る頃にはヘトヘトで、ひと眠りしたところ、体の一部に違和感を覚えて見てみると、信じられないくらいパンパンに腫れ上がっていたんです。
「自分の体に何かが起こっている」と思い、病院に駆け込みました。医師からは、「おそらくがんだから、すぐに大きい病院に行って」と言われて……。何が何だか分からなくて、泣きながら家に帰ったのを今も覚えています。
――その“腫れ”に気づくまで、がんの兆候はなかったのでしょうか?
高須 今思い返すと、なんとなく「だるいな」と思う日はあったかもしれません。でも、それくらいです。小さい頃から体を動かすのが好きだったから、健康には自信があったし、実際に風邪をひいたことすらほとんどありませんでした。
幸い、がんは早期発見できたうえに治療もしやすい位置だったんですよ。それでも、「なんで僕が?」という思いは拭えなかったですね。手術を受けたあと、3週間ほど自宅療養をしていたのですが、「何歳まで生きられるのかな」「仕事はどうなるんだろう」と嫌なことばかり考えてしまって。でも、あの時間があったから、自分や自分の大切な人たちの人生について真剣に考えられたな、とも思います。
僕が自宅でがんの療養をしていた頃、一番上の兄も病気で自宅療養していたんですよ。
難病の兄と一緒に自宅で療養していた
――高須さんと同じ時期に、5歳上のお兄さんも病気療養していたと。
高須 そうです。一番上の兄は、高校を卒業したあと上智大学に進学し、第一志望のIT企業への就職も決まっていました。でも、入社直前に『エーラス・ダンロス症候群』という、筋肉と骨をつなぐ腱や血管がもろくなる難病にかかっていることがわかり、急遽東京から幸田町に戻って来ることになって。そこから約8年間、兄は自宅で療養を続けていました。
兄は医師から病名を宣告されたとき、自分が一番辛いはずなのに、動揺した父と母を慰めていたと聞いています。また、兄が患った病気は遺伝性のものだったので、弟ふたりのことを心配した兄が「すぐに検査をしてほしい」と言ってくれて。その検査の結果、僕達ふたりは病気にかかっていないことがわかり、一番上の兄はホッとした表情をしていました。
――家族想いのお兄さんだったのですね。
高須 僕ががんで自宅療養を始めたときも、「俺は療養の先輩だから」と言って、たくさんサポートしてくれて。僕が暇を持て余しているのを見て、PlayStationをプレゼントしてくれたこともありましたね。
――ごきょうだいの仲は良かったのですか?
高須 はい。僕はふたりの兄が大好きでした。早く追いつきたくて、よく後をついて回っていました。兄ふたりは頭が良くて、いつも難しい話をしていました。小さい頃は、「僕も大きくなれば、兄ちゃんたちの話が理解できるようになるのかな?」と思っていましたが、結局いくつになってもふたりの話は難しいままでした(笑)。
僕が小学校1年生になったとき、一番上の兄は6年生、二番目の兄は4年生で、その1年間だけ3人で登校していたんですよ。同じ制服を着て、同じ道を歩く時間がすごく嬉しかったのを覚えています。
「30歳という若さで旅立っていきました」兄が他界し、自分の人生を見つめ直すように
――しかし、一番上のお兄さんは病気で他界してしまったそうですね。
高須 僕が自宅療養を始めた数カ月後に、兄が救急車で運ばれて、30歳という若さで旅立っていきました。少しずつ意識がなくなっていく兄の様子は、今でも忘れられないし、なんと言葉にしたらいいかずっと分かりません。
兄は、最期まで自分のことよりも人のことばかり考えている人でした。自分ががんになったことはもちろん、兄の存在も、僕の人生について考えるきっかけになりました。
――ご自身の病気やお兄さんの死を経て、高須さんにどんな変化があったのでしょうか?
高須 「永遠ってないんだな」と思うようになりましたね。だからこそ、今を大事にしよう。やりたいことは今すぐやろう。そして、大切な人たちには毎日でも感謝と愛を伝えよう、と思うようになりました。
また、日々の生活に感謝するようにもなりました。「ご飯がおいしいと思えるのって、なんて幸せなんだろう」「緑豊かな自然を見ると、なんて心が癒やされるんだろう」とか。普段何気なく過ごしていた日常が、ものすごく尊いものだって気づいたんです。
〈 家賃ゼロ、朝5時起床、野菜は自給自足…公務員を辞めて愛知の田舎で“悠々自適な生活”を続ける30歳YouTuberが語った、田舎暮らしのリアル 〉へ続く
(仲 奈々)
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