「団子を買ってこい」と“オモチャのお金”を渡されたうえ、さらに…「女子プロ界で“理不尽な先輩イジメ”が横行した理由」
文春オンライン / 2024年11月4日 17時0分
女子レスラーのレジェンド“極悪女王”ことダンプ松本さん。そんな彼女も若かりし頃は先輩イジメを受けていた…。(写真:本人提供)
「バスに乗って2週間も3週間も旅を同じメンバーで続けていたら、退屈にもなるし、なにか娯楽が必要になる。それがイジメにつながって、自分がターゲットにされたんだろうね」
“極悪女王”のあだ名で名を馳せ、ついにはそのレスラー人生がドラマ化までされたダンプ松本さん。しかし、そんな彼女も若かりし頃は「連日連夜のイジメ地獄」に苦しんだことも…。当時の記憶を、新刊『 証言 全女「極悪ヒール女王」最狂伝説 』(宝島社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
“先輩みんな”からの連日連夜のイジメ地獄
1980年、ビューティ・ペアに憧れて全日本女子プロレスに入門したダンプ。だが、同期のなかでも落ちこぼれの烙印を押され、デビューどころかプロテストにもなかなか合格できない。気がつけば、運転免許を所持していることをいいことに宣伝カーを運転させられ、営業の仕事を手伝う日々を送っていた。
「プロテストってロープワークとか受け身とかを見るもんなんだけど、なかなか合格できないもんだから、どんどん内容が変わっていって、最終的には自分と(クレーン・)ユウさんが並べられて『そのバーベルを100回、持ち上げることができたら合格』ってことになった。もう技術とかそういうテストじゃなくて根性だけだよね(苦笑)。今でも不思議なんだけど、いつもだったらバーベル100回なんて絶対に無理だったのに、あの日だけは奇跡的に持ち上げられたんだよね。プロレスラーになりたい一心で不思議な力が沸いたのかな? そのおかげで今の自分がいるんだけどね」
1980年8月8日、本名の松本香でプロレスラーとしてデビュー。しかし、待ち受けていたのは連日連夜のイジメ地獄だった。
「誰にイジメられたってことじゃないんだよ。それこそ“先輩みんな”だよね。たとえばバスで移動している時にパーキングエリアに寄るでしょ? その時に先輩からお金を渡されて『団子を買ってこい』って言われるの。それはよくあることだと思うんだけど、渡されたのはオモチャのお金。しかも、その店では団子なんて売ってないんだよ。売ってもいないものをオモチャのお金で買え、と。それで困っている自分の姿を、みんなでバスの窓から眺めてゲラゲラ笑っている。しまいには『よく聞こえないから、もっと大きな声で買い物しろよ!』ってヤジられたりしてね。
もっとひどいのは、そのままバスが出発して、一人だけ置いていかれたりね。こういうのって誰が主犯なのかバレないんだよ。運転手は選手に逆らえないし、全員揃いましたって言われたら出発するしかない。あとで口裏を合わせて『松本が乗っていないなんて気がつかなかった』って言われたらそれまでだからね。まぁ、みんなで同じバスに乗って2週間も3週間も旅(全女用語で巡業のこと)を同じメンバーで続けていたら、退屈にもなるし、なにか娯楽が必要になる。それがイジメにつながって、自分がターゲットにされたんだろうね。こんなのほんの一例で、理不尽なことばかりだったよ。
それでも辞めようとか逃げようとか考えなかったね、やっとプロレスラーになれたんだから。逆にさ、この頃次のスター候補みたいに会社からプッシュされて、ポスターに大きく載せられていたような人たちが、突然、辞めちゃったりしたんだよ。自分からしたらさ、毎日試合も組まれて、会社からも期待されて、イジメられているわけでもいないのに、なんで辞めるの?ってなるよね。エリートにはエリートの悩みもあるのかもしれないけどさ」
エリートといえば、同期のなかでも格差が生じ始めていた。
「こっちは肉なしでタバスコライス食ってるのに!」
「大森(ゆかり)がミミ(萩原)さんと組んでタッグチャンピオンになったりね。飛鳥もジャガー(横田)さんにかわいがられていたでしょ。そうなるとさ、先輩にご飯に連れていってもらえたりするんだよ。当時、飛鳥と一緒に住んでいたんだけど『今日はジャガーさんにファミレスに連れていってもらってステーキを食べた』とかしょっちゅう報告してくる。こっちはお金がないからさ、同じ落ちこぼれだった千種と一緒に肉なしでタバスコライスを食っているのに!
飛鳥と一緒に住んでいたのはお金がなかったから。当時、旅から帰ってくると夜遅かったら、やっぱり風呂付きの家に住みたかった。でも、一人じゃ絶対に無理だし、同期と2人でもなかなか厳しい。それで記のりさん(立野記代)も含めた3人で住むことになって。固定電話だけ記さんに買ってもらってね。そんな状況で飛鳥だけ贅沢な食事をしていたら、やっぱり悔しかったよね、仕方ないけど。
結局、どうにもならなくて母親に仕送りしてもらっていた。月に3万円。実家も貧乏だったから、その3万円を捻出するのは大変だったと思うし、申し訳なかったけど、その3万円はすべて食費で消えちゃった。だから、いつかは母親が食べたいものを好きなだけ食べさせてあげられるようになりたいって思ってきた。うん、それが母親に家をプレゼントしたいっていう大きな目標になっていくんだけどね」
〈 「ゴキブリ入りケーキ」を送られただけじゃない…“日本一の嫌われ者”になった女子レスラー・ダンプ松本(63)に訪れたトラブルの数々 〉へ続く
(ダンプ松本/Webオリジナル(外部転載))
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