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「まじめに仕事をし、妻を愛してきた」夫が定年後に“裏切りの不倫”。いったいなぜ…? 不貞行為をした男性の“衝撃的な言い分”

文春オンライン / 2024年11月5日 6時10分

「まじめに仕事をし、妻を愛してきた」夫が定年後に“裏切りの不倫”。いったいなぜ…? 不貞行為をした男性の“衝撃的な言い分”

©AFLO

〈 《衝撃不倫》定年退職した夫から突然「別の女性と暮らすことになった」と言われ…60代妻が驚愕した“不貞相手”の正体 〉から続く

 臨床心理士・信田さよ子さんのもとには、親子関係や家族関係に悩みを抱える人がカウンセリングに訪れる。その多くは女性たちだという。いったい、彼女たちはどんな悩みを抱えているのだろうか——。

 ここでは信田さよ子さんの著書『 母は不幸しか語らない——母・娘・祖母の共存 』(朝日文庫)より一部を抜粋。浮気や不倫をした男性が、決まって口にする“お決まりの言い分”とは?(全2回の2回目/ 1回目 から続く)

◆◆◆

ひたすら自己批判に徹する男性たち

 男性の側はほぼ来談することはないが、数少ない例から彼らの言葉を再構築してみよう。

「本当に悪いと思っています。誰のせいでもありません、妻も悪くありませんし、彼女も悪くないんです。弁解するなんてことはしたくありません」

 このようにひたすら自己批判に徹する彼らの姿は、まるで犯罪者のようでもある。性犯罪の加害者がカウンセリングにやってきて最初に述べる言葉とそっくりそのまま同じだ。

 別に彼らを性犯罪加害者と同じと言っているわけではない。妻と同じ女性である私が何を考えているかがよくわかっている彼らは、攻撃を避けるために、ひたすら反省の姿を示す。それは婉曲的な自己弁護として機能する。

 彼らの多くは妻に言われて来談する。それを拒むことは妻を傷つけた行為を反省していないことになるからである。しかしひとたびカウンセラーである私と気心が知れた関係になったという感覚を抱くと、彼らの一部はまるで少年のような語り口で言う。

「僕は生き直したい」別の女性にこころ惹かれた男性の言い分

「出会ってしまったんです、どうしようもなく惹かれてしまったというのが正確でしょうか。どこか運命的で、最後の人かもしれないと思ったんです。それが妻に対して裏切りであることはわかっています。でもどうしようもなかったんです。僕は、無責任な男でいたくありません。

 彼女に対して自分の言葉に責任をもちたいと思いました。それに、僕は生き直したかったんです。これまでの順調な人生は妻のおかげだし、こころから感謝しています。このままいけば、妻と老後を穏やかに送ることになるでしょう。でも、僕は生き直したかったんです」

 別の女性にこころ惹かれてしまったこと、その女性のためには妻を捨てかねない。それを告白・告知する際にそろって口にするフレーズが「僕は生き直したい」なのだ。これは単なる偶然なのだろうか。

浮気でも不倫でもなく「恋愛」

 中には彼らの言動を笑う人もいるだろう。何を大げさな、どう見たって単なる浮気じゃないか、男性週刊誌がそろってとりあげる60歳以上のセックス記事と同じだ。バレなければ妻に告白なんかせずに誤魔化して隠し通せばいいのだ、なかったことと同じなんだから……。せいぜいお互い都合よく不倫やダブル不倫のままでバランスよくやっていく、それが大人というものじゃないか。

 こんな意見が多数派だろうし、60年以上も生きてきた彼らが、男性社会のそんな常識を知らないはずはない。ちょっと心理学をかじったことのある人なら、妻と愛人との板挟み状況にある自分に酔っているだけじゃないか、と解釈するだろう。

 女性の中には、妻が重すぎたのよ、私だけを愛してって夫に要求し過ぎたんじゃないの、男ってね、息抜きしたいもんなのよ。妻と違うタイプを知って思わず新鮮に感じたんじゃないの、まあゆったり待ってなさい、必ず戻ってくるから、いずれ飽きるわよ、などと映画やドラマに登場する飲み屋の女将みたいな発言をする人もいるだろう。しかし、こんな人生相談の凡例みたいな解釈をしても意味はないと思う。

 おそらく彼らは、自分の行為に浮気・不倫といったマイナスの定義を与えたくないのだ。彼らにとって、それは「恋愛」なのである。

「恋愛で生き直す」思想を信じた団塊世代

 まじめに仕事をし、妻を誠実に愛してきた人生だった、そのことを恥じることはない。だからこそ出会った女性との「恋愛」に、まじめで責任ある態度で臨みたいのだ。妻とは愛しているから結婚したのであり、何度も同僚から女性との遊びに誘われたが妻を裏切ると思うと断るしかなかった。

 定年退職後、やっと妻との時間もとれるようになり、これから長い老後をともに生きていくつもりだった。その道はずっと先まで見通せる気がした。健康でありさえすれば、経済的にも不安はない。

 しかし彼らの中で強烈に蠢く衝動もある。会社のため、妻のために生きてきた人生をリセットしたい、第二の人生を思いどおりに生きたい、体力だって気力だって20代のころと遜色ないような気がする。そんな彼らから発散されるエネルギーが、まるで触手を伸ばすかのように新しい出会いをつくる。求めよ、さらば与えられん、である。

 恋愛(異性との出会い)で生き直す、どこかで聞いたセリフである。そう、これぞロマンティック・ラブ・イデオロギー(愛と性と結婚の三位一体説、RLI)の中核になっている思想なのだ。本書では、RLIを信じたのは団塊世代の女性のほうだったと述べてきた。しかし団塊世代の男性の中には、RLIを信じている人たちもいたのだ。

 仕事中心の生活を送って、浮気は男の甲斐性とばかりに遊び、妻や子どもに対して何の関心も払わなかったにもかかわらず、定年退職後は妻のご機嫌をとって老後の生活へのソフトランディングを図る。

 あまりにありふれた姿のどこにもRLIは感じられない。しかしアケミさんの夫のように、妻と誓った愛を全うしようと努め、妻と協力して子育てに関与し、家族中心であろうとした男性もいたのである。

 彼らにおけるこのようなRLIの残滓が、定年退職後の「恋愛」への没入と「生き直し」という言葉につながったと考えられないだろうか。

(信田 さよ子/Webオリジナル(外部転載))

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