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「読者の忘れっぽさ」だけじゃない…経済メディアが市場予測を外しまくっても“倒産しない2つの理由”

文春オンライン / 2024年11月26日 6時0分

「読者の忘れっぽさ」だけじゃない…経済メディアが市場予測を外しまくっても“倒産しない2つの理由”

写真はイメージ ©getty

〈 あなたが経済ニュースをいくら読んでも「決して金持ちになれない」シンプルな理由「記事を作っているジャーナリストたちは…」 〉から続く

 多くのメディアが投資の予測をするが、果たしてそれらは本当に価値があるものなのか…。ここではメディアが投資家たちに隠したい「不都合な真実」について解説。

 世界各国でベストセラーになった金融ジャーナリストのニコラ・ベルベ氏の新刊『 年1時間で億になる投資の正解 』(新潮社/土方奈美訳)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

ニュースメディアの「予測」は信じる価値があるのか?

 ニュースメディアがまき散らす悪影響のなかでも、とりわけ有害なものの一つが「予測」だ。

 市場に関する予測は、私たちが呼吸する空気にちょっと似ている。存在を意識することすらない。新聞紙上では専門家が「相場上昇のペースは速すぎ、値上がり幅も行きすぎだ」と警鐘を鳴らし、下落を覚悟すべきだと説く。テレビニュースではコラムニストが特定の産業あるいは企業の業績は「確実に」良くなる、それを踏まえて投資せよと語る。

 こうした行為を彼ら自身がどう定義するかはわからないが、実態はシンプルだ。未来がどうなるかを伝えようとしている、つまり予測あるいは予想である。

 近い将来、市場がどう動くかがわかるなら、僕ならそれをテレビでしゃべったりするような無駄なまねはしない。有り金すべてをはたいて自分のリターンを最大化する。まあ、考え方は人それぞれだが。

 ベンジャミン・グレアムはよく言っていた。ちまたに市場の先行きに関する予測があふれているのは、未来を読む特別な才能に恵まれた人が増えたためではない、未来に何が起こるかを知りたくてたまらない投資家が何百万人もいるからだ、と。

「株に投資しようと思っている人はほぼ全員、市場がどう動くかを誰かに教えてもらいたいと思っている。需要があれば、供給されるのは当然だ」

 グレアムは同時代の専門家らの予測を評価していなかった。だがそれは何十年も前の話だ。その頃と比べれば予測の精度は高まったのではないか、と思う人もいるだろう。これほど高度なテクノロジーやデータが使えるようになったのだから、予測モデルは洗練されたのではないか、と。

 残念ながら、未来の不透明感は相変わらずだ。

 たとえば数年前、バンガード社は分析レポートにこう書いた。「今後数年間のパフォーマンスは良くても控えめ、というのが私たちの予測だ。今後5年間、高い市場リターンは見込み薄である」

 この予測から3年後、S&P500は70%以上上昇していた。

 残念!

 同じ頃、イギリスの金融大手バークレイズは「今後12カ月のS&P500の上げ幅は7%」と予測していた。実際には12カ月で21%上昇した。

 残念!

「株式市場について予測するのはリスキー」と示したあるコラム

 ビジネスコラムニストのジョー・チドリーは数年前、トロントの『ナショナル・ポスト』紙に書いたコラムを通じて、株式市場について予測を立てることがどれほどリスキーな行為であるかを(身をもって)示した。

「賢い投資家とは『何が起こるか』など考えず、『何が起こっても』大丈夫なように分散投資し、合理的な資産配分をし、そしてそう、忍耐力をもって備えるものだ」とチドリーは書いている。

 この賢明な見解には強く同意する。だが残念ながら、チドリーのコラムはこれで終わらなかった。

「とはいえ実は、現実世界に生きる現実の投資家は、そんな行動はとらない。認めよう。良きにつけ悪しきにつけ、やはりあらゆる意思決定には本能、直感、そして究極的には賭けの要素がある」。こう書いたうえで、チドリーは自分の予測は「実現するという保証は一切ない」と保険をかけている。

 それから自分の“直感”を読者に語った。アメリカの株式市場はあまりにも急激に、あまりにも上昇しすぎた。今後は何年にもわたって長くつらい下落が待ち受けている。

 そしてウォール街ではなくトロント証券取引所こそが今後投資するのに最適な場所だ、と記事を締めくくっている。

 この記事の3年後までにアメリカの株式は100%上昇していた。つまりS&P500指数は2倍になったのだ。一方、コラムが発表されてからの12カ月間で、カナダの株式市場の上昇幅はアメリカの3分の1にとどまった。

 残念!

投資家の予測が当たる確率は「コイン投げ」以下

 ここに挙げたお粗末な予測は、特異な事例の寄せ集めではない。アメリカの投資調査会社CXOアドバイザリー・グループは、8年間にアメリカの主要紙の金融欄に引用された68人の専門家による株式市場の成長率に関する予測6582件を分析した。

 分析の結果、専門家の予測が当たった確率は47%と、コイン投げよりも低かった。

 お粗末な予測を笑うのはたやすい。だが笑えないのは、こうした予測は私たちの行動に影響を及ぼす可能性があるということだ。

 予測記事を読んだら、プロの言っていることに従ってポートフォリオを修正したくなるかもしれない。なんだかんだいっても、専門家は高い教育を受け、高い報酬を得ている。話し方も偉そうだ。この分野に精通しているに違いない!

 だが歴史を振り返れば、そうではなかったことがわかる。

 作家で投資家のアンドリュー・ハラムは僕とのインタビューで、自分が30年以上にわたって株式投資で成功してきた最も重要な要因の一つは、金融のプロの警告、エコノミストの分析、そして相場を動かすはずの主要な出来事に一切関心を払わなかったことだと語った。

「成功の秘訣は市場を無視する習性を身につけることだ」とハラムは言った。「短期の株式市場の動きはドラッグのようなものだ。絶対にその影響を受けてはならない。長期的に見れば、ほとんどの企業の利益は増加する。それがすべてだ。重要なのは、投資をいかにシステマチックに行うかということ。優れた投資家になるには、強い自己規律が必要なのはこのためだ」

「この事実と読者の忘れっぽさが雑誌ビジネスを支えている」

 金融誌『フォーブス』の経営者、スティーブ・フォーブスはかつて、金融専門家は短期の市場の動向を予測するのは不可能であることをわかっている、それでも予測を出しつづけるのはそれが仕事だからだ、と語った。

「この業界においては、アドバイスに従うよりアドバイスを売ったほうがカネになる。この事実と読者の忘れっぽさが雑誌ビジネスを支えている」

(ニコラ・ベルベ,土方 奈美/Webオリジナル(外部転載))

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