「監督はあまり伝えようとしなくていいんです。と言って下さいました」綾瀬はるかが最新主演作で思い出した“10代の頃の演技の感覚”
文春オンライン / 2024年11月8日 6時0分
©杉山拓也
孤独な生活を送る清掃員が風変わりな女の子と出た旅は、不思議で情感に満ちあふれていた─『 ルート29 』は瑞々しいロードムービーだ。主人公のり子を驚くほどの自然体で演じた綾瀬はるか、野趣溢れる衝撃作『こちらあみ子』を経て2作目の森井勇佑監督。そのあみ子役から2年、今回は少女ハル役の大沢一菜はまさに旅の同志だ。
綾瀬のことが好きすぎる大沢
─綾瀬さんの撮影中、カメラマンの横から大沢さんもコンパクトカメラで楽しく“激写”していましたね。
大沢 (横に座る綾瀬を直視できず、もじもじしている)
─あれ、先ほどまでの勢いはどこに……。
森井 一菜は、綾瀬さんのことが好きすぎるんです(笑)。
綾瀬 私がドラマで取り組んだアクションが好きだって言ってくれるんです。(大沢に)とてもシャイだし、今日は久しぶりに会ったもんね。
森井 ずっと前から好きみたいですよ。今回も主演が綾瀬さんに決まったと連絡したら、「神!」と返事が届きました。
大沢 うん、送った……(笑)。
綾瀬 アハハ、嬉しい! 監督と一菜ちゃんは、もう親友ですよね。私と一菜ちゃんは、撮影の最初はいい感じの距離感があって、だんだんと近づいていって……まるでのり子とハルの関係のようでした。
自分の素のままでいられる、楽しさがある現場
─それぞれの抱える孤独が交わる映画ですね。綾瀬さんと大沢さんがまとう、生々しい存在感も魅力的です。
綾瀬 撮影初日に監督は、「『そこにいる』ことが大事だから、あまり伝えようとしなくていいんです」と話してくださいましたよね。「僕は、綾瀬さんのことを変な人だと思っています」とも(笑)。
森井 ちゃんと変だからそのままで大丈夫、安心してくださいと(笑)。綾瀬さんは2日目の朝に「のり子の感覚って、ひとり家でいるときがずっと続いている感じなのかな」と、私も言語化できていなかった感覚を一気に導き出してくださった。一方のハルは一菜へのあて書きで、本人が言いそうなことを台詞にしています。
大沢 監督の現場は、ほとんど自分の素のままでいられる楽しさがあります。
森井 2年前の『こちらあみ子』のとき一菜は10歳で、ひたすら遊んでいる合間になんとかカメラを回しました。今回はすこし大人になりつつ、この取材での様子も含めて、一菜はずっと真っ直ぐです。
綾瀬 台本のハルの言葉が本当に真っ直ぐで、なんて優しいんだろうと心打たれて、私はオファーをお受けしました。
生と死を混ぜ合わせた演出
─亡霊のようなおじいさんが現れるなど、詩的でユーモラスなシーンが目白押しです。
森井 映画を通じて生と死を混ぜ合わせて遊びたい、というのは私の個人的な願望ですが、おふたりに何の説明もしなかったですよね?
大沢 うん、何も気にしないで、人として接してた。
綾瀬 たしかに、あれは誰だったんだろう?(笑) 旅をしていたらいつの間にか一緒にいた、という感じでした。のり子を演じるにしても、本当にただそこにいることを大事にしてくださる演出が本当に好きで、自分が10代の頃の演技の感覚を思い出しました。
大沢の「自由ノート」
─なるほど。先ほどから気になっているんですが、大沢さんの手元にある「自由ノート」というのは何でしょう?
大沢 取材を受けるときに、うまく答えられるように準備したカンペノートです。
綾瀬 すごい、たくさん書いてある!(覗き込む)
大沢 (隠しながら)わっ、危なかった! 監督にだけ見せようかな……。
綾瀬 何なに?
森井 (ノートに書かれた一節を見ながら)隠す必要なくない? じゃあ私から聞こうか、大沢さんは将来どうなりたいんですか。
大沢 (照れながら)……綾瀬さんみたいにアクションができる人になりたいです。
綾瀬 わあ、楽しみ!
アクション作品での共演も!?
─アクション作品での共演もあるかもしれないですね。
森井 (なぜ言わせたのかと恥ずかしがる大沢に羽交い絞めにされて)イテテテテテ!
綾瀬 アハハハ! 一菜ちゃんとは、SPごっこをして遊んでるんです。「敵がいるぞ!」って、一菜ちゃんがSPとして私を守ってくれるんですよ。
綾瀬はるか=ヘアメイク:中野明海
スタイリング:吉田恵
衣装協力:ジャンプスーツ=デ・プレ
大沢一菜=ヘアスタイリスト:TAKAI
スタイリング:田中美穂子
もりい・ゆうすけ 1985年生まれ、兵庫県出身。日本映画学校映像学科(現:日本映画大学)卒業。2022年、芥川賞受賞作家・今村夏子の同名短篇小説を映画化した『こちらあみ子』で監督デビュー。第27回新藤兼人賞金賞、第14回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、第32回日本映画プロフェッショナル大賞作品賞および新人監督賞などを受賞し話題を呼ぶ。
あやせ・はるか 1985年生まれ、広島県出身。2000年、デビュー。08年、『ハッピーフライト』など4本の映画に出演し、第32回山路ふみ子映画賞新人女優賞などを受賞。09年の『おっぱいバレー』でブルーリボン賞主演女優賞、15年に『海街diary』で毎日映画コンクール、ヨコハマ映画祭主演女優賞など受賞多数。24年7月に写真集『原色 綾瀬はるか 2013ー2024』(小社刊)が発売された。
おおさわ・かな 2011年生まれ、東京都出身。映画『こちらあみ子』(22年)で応募総数330人の中からオーディションで選ばれ、主人公のあみ子役でスクリーンデビュー。第36回高崎映画祭最優秀新人俳優賞を受賞。23年、ドラマ「姪のメイ」、宮藤官九郎が監督・脚本を担当した配信ドラマ「季節のない街」などに出演。24年はRM(BTS)のMVに出演して、注目を集める。
INTRODUCTION
鮮烈な監督デビュー作『こちらあみ子』(22年)で多くの映画ファンを魅了し、第27回新藤兼人賞金賞受賞など高い評価を受けた、森井勇佑による待望の第2作。詩人・中尾太一の詩集『ルート29、解放』(書肆子午線)にインスパイアされ、姫路と鳥取をつなぐ国道29号線を旅しながら脚本を執筆した。映画・ドラマ撮影の時間が空いていたところに綾瀬はるかが台本に惚れこみオファーを受諾、『こちらあみ子』で奇跡的な演技を見せた大沢一菜と共に、リリカルなロードムービーに息を吹き込んだ。
STORY
鳥取の町で清掃員として働き、他人と必要以上のコミュニケーションをとらないのり子(綾瀬はるか)。仕事で訪れた病院で、入院患者の理映子(市川実日子)から「姫路にいる私の娘をここに連れてきてほしい」と頼まれ、姫路へと向かう。のり子が見つけたハル(大沢一菜)は、林の中で秘密基地を作って遊ぶような風変わりな女の子だった。初対面ののり子の顔を見て、「トンボ」というあだ名をつけるハル。ふたりは国道29号線を進む旅路で、さまざまな人たちと出会っていく。
STAFF & CAST
監督・脚本:森井勇佑/出演:綾瀬はるか、大沢一菜、伊佐山ひろ子、高良健吾、河井青葉、渡辺美佐子、市川実日子/2024年/日本/120分/配給:東京テアトル、リトルモア/©︎2024「ルート29」製作委員会
(宮田 文久/週刊文春CINEMA)
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