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《追悼》「お前すっかりドラえもんになっちゃってるよ」大山のぶ代と夫・砂川啓介の夫婦ゲンカが46歳でピタッとやんだ“特殊すぎる理由”

文春オンライン / 2024年11月3日 11時0分

《追悼》「お前すっかりドラえもんになっちゃってるよ」大山のぶ代と夫・砂川啓介の夫婦ゲンカが46歳でピタッとやんだ“特殊すぎる理由”

大山のぶ代さん ©文藝春秋

 ドラえもんの声や女優・タレントとして知られる大山のぶ代さんが9月29日に亡くなった。90歳、死因は老衰だった。40代以上の方なら「ぼくドラえもん」という大山さんの声を知らない人はいないだろう。

 大山さんは芸能界きってのおしどり夫婦として知られ、夫は俳優、タレントとして活躍した砂川啓介さん。NHK『おかあさんといっしょ』の初代「たいそうのおにいさん」であり、『超人バロム・1』(72年)の松おじであり、『お昼のワイドショー』の司会の人だった。

 晩年はアルツハイマー型認知症を患った大山さんを、砂川さんは長らく介護していたが、妻よりも早い2017年7月11日に80歳でがんで亡くなっている。砂川さんは生前、大山さんとの夫婦関係についてよく話していた。

「2人でケンカしているといつの間にか…」

 2人のなれそめは有名だ。まだ交際も始まっていない時期に、ドライブに出かけた2人は不良たちに絡まれている少年を見かけた。それを見た2人は即興で若い夫婦を演じ、田舎から出てきて道がわからないという設定で少年に道を尋ねまくり、そのまま逃がしてあげたという。その体験から砂川さんは「実生活でもエチュード(即興芝居)ができるんじゃあ……」と、それまで互いに考えてもみなかった結婚を考えるようになったという。

 大山さんが34歳、砂川さん30歳の時に2人は結婚したが、大山さんが46歳でドラえもんを演じるようになってからは、夫婦ゲンカがピタッとやんだという。

「2人でケンカしているといつの間にか、彼女の声がドラえもんになっちゃうんですよ。そこで我に返って『おいおい、ちょっと待てよ。お前すっかりドラえもんになっちゃってるよ。ドラえもんとケンカしたってしょうがない。やめようや』と言うと『そうね』となってすぐに終わっちゃうんです」

 そう語る砂川さんは、嬉しそうに照れ笑いを浮かべていた。

『ドラえもん』役を得てからの大山さんはまさに国民的な存在で、テレビ出演も増えていった。『ドラえもん』と同じテレビ朝日で毎週日曜日のお昼に放送されていた『大正週間漫画 ゲラゲラ45』では、小料理屋の女将をアフロヘアーで演じた。

 そこで大山さんは意外な(?)料理の腕前を披露し、毎週繰り出される気の利いたお通しが話題になり、レシピ本まで出版している。表紙は藤子・F・不二雄先生の描き下ろしである。

 ある日曜日、大山さんと砂川さんが2人でその番組を見たことがあり、砂川さんは驚いたという。

「おい、なんだよこんなシャレたつまみが作れるのかよ!? うちじゃあこんなうまそうな料理を出してくれたことがないじゃんか。ベンジャミン伊東(大山さんの小料理屋に通うサラリーマンを演じた伊東四朗)にばっかこんなうまそうなもん喰わせやがって!」

 そう言うと、大山さんは「わかったわよ。今度作ってあげるから」と答えたという。

「そんなこと言って結局とうとうテレビと同じメニューは作ってはくれなかったんですけどね。その代わりもっと美味しい酒の肴を作ってくれました」(砂川さん)

「うちにおばけを連れ帰って来てやしないでしょうね?」

 大山さんは2度出産しているが、最初の子どもは死産、2人めが生後3カ月で亡くなってしまい、以後子どもは作らなかった。それでも2人の関係はずっと良好だった。

 あるとき、砂川さんが司会を務めていた日テレ系の『お昼のワイドショー』で、心霊現象の企画を扱った日があった。大山さんは自宅でその番組を見ており、その夜帰ってきた砂川さんに持っていたテーブル塩をすかさずパッパッと振りかけた。

「ペッペッ、いきなり何すんだよ?」と砂川さんが言うと「うちにおばけ(幽霊)を連れ帰って来てやしないでしょうね?」と真顔でひと言。

 砂川さんが「大丈夫だよ、ちゃんと霊媒師みたいな人がいて、お祓いもしてもらったから」と答えると、大山さんはにっこり笑って「ああだったらいいわ、上がって!」と答えたという。

 砂川さんはその時のことを振り返りながらペロッと舌を出し「じつはお祓いなんてしてもらってないんですけどね(笑)。そのあと、特に(心霊現象的なことは)何も起きませんでしたし」と笑っていた。

「あらいけない、ついいつものくせで! あらあらどうしましょ!?」

 筆者は生前、大山さんに何度か取材をさせていただいたことがある。主に『ドラえもん』関係の記者会見だった。何度目かのあるとき、意を決してサインをお願いすることにした。取材記者がサインをねだるのがNGなのは百も承知だったが、長年のファン心理が募っての決意だった。

 そこで大山さんが主演を務めた巨大ロボットアニメ『無敵超人ザンボット3』(77年)のDVD-BOXの箱を取材現場に持参した。『ザンボット3』は『ガンダム』で有名な富野由悠季監督の作品で、大山さんは主人公・神勝平を演じている。

 取材が終わっておずおずと『ザンボット3』の箱を差し出す自分に、大山さんは「あらザンボット! また懐かしいものを。でもこれもファンの人多いのよね~。いまだに言われるもの」と笑顔でサインペンを手にされた。

 私が「すいません、神勝平役と入れていただけますか?」と言うと「ハイ、勝平ちゃんね」と答ええつつ、慣れた手つきでサインペンを走らせた。しかし見ると、「ドラえもん」と書いてある。

「あらいけない、ついいつものくせで! あらあらどうしましょ!? しまった~~。これバツして書き直すからね」と、ドラえもんそのものの慌て方で書き直そうとしてくれた。

 しかし瞬時に「これはひょっとして滅多にない貴重なものなのでは」と気づき、こちらも慌てて「いえいえこのままでありがとうございます。これはこれでむしろ貴重ですから」と受け取った。大山さんは「ホントにいいの? でも確かに、ドラえもんの名前が入った『ザンボット3』のあたしのサインって珍しいかも?」と笑って、その横にお名前のサインを入れていただいた。

 ザンボットのDVD-BOX見るたびにあのときの大山さんの慌てた声を思い出す。そして同時に砂川さんの「ドラえもんとケンカしたってしょうがない」という言葉を思い出す。DVD-BOXは家宝にしているが、それ以上に生ドラえもんの声を聞かせていただいた感じがして、何ものにも代えがたい体験だった。

 大山さん、砂川さんご夫婦のご冥福を心よりお祈り致します。

(岩佐 陽一/Webオリジナル(外部転載))

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