「生理で血が出ているから感染症を…」知的障害を持つ高1男子と車内で性行為に及んだ女性教師(30)の証言が、裁判でほとんど採用されなかった“シンプルな理由”とは
文春オンライン / 2024年11月1日 11時0分
写真はイメージです ©AFLO
2020年12月に、都立特別支援学校の元教諭の女性A子(当時30歳)が、同校に通う男子生徒Bくん(当時16歳・高校1年生)と、商業施設の駐車場に停めたレンタカーの車内で性的な行為をした、として、児童福祉法違反に問われていた。
A子は10月29日、東京地裁で懲役2年6ヶ月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。弁護側は、Bくんとの性交や性交類似行為にA子は同意しておらず、Bくんの証言も信用できないと無罪を主張したが、退けられた。
判決の日、法廷に現れたA子はショートヘアにメガネ姿で、顔を隠すように大きめの白いマスクをしていた。身長153センチと小柄だが、黒いスーツは大きくややサイズが合っていないように見える。手元には黒いリュックサックを置いて被告席に座り、ピンクのハンカチを握りしめて開廷前はずっとうつむいていた。裁判長が判決を読み上げるときには証言台に座り、ずっと裁判長を見つめていた。
「Bくんがキスをしてきました。そして、一番後ろのシートに引きずられました」
A子が勤務していた特別支援学校にBくんが入学したのは、2020年4月。A子はBくんのクラス担任だった。Bくんは7月から10月まで家庭の事情で児童相談所に一時保護されていた。12月、学校に復帰したBくんに、A子は個人的にスマホ2台を渡し、遅くとも12月18日からLINEでやりとりをしていた。A子はLINEで、学校外で2人で会うことを持ちかけた。
LINEではBくんの「一緒に寝たい」「一緒にお風呂に入りたい」というメッセージに対して、A子は「裸になっていそう」「触ってもいいけど、途中で止めてね」と返すなど、性的なやりとりが続いていた。
そして12月20日には実際にBくんを呼び出し、商業施設の駐車場に停めたレンタカーの車内で性的な行為に及んだ。30日も同様にBくんを呼び出し、別の商業施設の駐車場でレンタカーの車内で性交している。その時の顛末についてA子はこう証言している。
「就職先の候補だった建設会社に電話をしようと思ったんです。そのことを言ったら来ないと思いました。電話をしようとすると、Bくんは嫌がりました。気分転換でドライブをした後、Bくんがキスをしてきました。そして、一番後ろのシートに引きずられました」
しかしA子は2人で会った後に「来てくれてありがとう」とメッセージを送っており、一緒に温泉に行く内容のメッセージも存在する。
年が明けて2021年に入るとLINEの内容はエスカレートし、A子が「裸で抱き合うだけでも気持ちいい」「エッチしたい」とのメッセージや裸の自撮り写真も送っている。
裁判の争点となったのは、車内で行われた性交類似行為や性交のときにA子が同意していたかどうかだ。A子側の弁護士はBくんに無理やり迫られ、A子は同意していなかったとして「やめてと言ったり、蹴ったり、叩いたりして抵抗しました」と主張したが、裁判では認められなかった。
「生徒Bは16歳で、軽度の知的障害があり、判断力は未熟だ。そのため、被告人の言動に影響を受ける。そのことを十分に認識していた。そして、性的な関係を匂わせるメッセージを送り、2人で会うことを約束した。これらはBの思考に影響を与えた。
しかもレンタカーで人目につかない場所で性交類似行為をし、その後も好意的なメッセージを送った。被告人は『就職支援のためにメッセージを送った』というが、そもそもメッセージのやりとりに就職支援の話はなく、その話が出てくるのは、21年1月以降だった。また、2人で会うことに関して学校を介さないのは不可解である。個人的な好意なしのメッセージを送ったとするのは無理がある」(裁判長)
「やっちゃった」とは言ったものの、「セックスをした」とは言っていない?
裁判では、車内での性行為についてBくんの「やっちゃった」などの証言が信用できるかどうかも争点になった。
検察側は証言の具体性や、性交被害について児童相談所の職員に「(A子と)やっちゃった」と言ったことなどから、証言は信用できると主張した。
しかし弁護側は、Bくんは「やっちゃった」とは言ったものの、「セックスをした」とは言っていないことを主張。児童相談所の職員に一度は「同意ではない」と話したものの、4日後に「自分から誘った(同意があった)」と証言が変わり、法廷で「同意はない」と再び口にするなど、Bくんの証言が変化していることを指摘し、信用できないと主張した。
しかし裁判所は弁護側の主張を退け、Bくんの証言を採用している。
「立場があるにも関わらず、Bの健全な育成を阻害した」
またA子側は、12月30日にBくんがA子の下半身を触ろうとした時に「生理だから」と言ったことをあげて、その発言が拒否の意味であると主張した。
「血が出ているから感染症を心配していた。だから『やめて』と言ったんです」(A子)
しかし、これも認められなかった。
判決では「生理中であり、必ずしも乗り気ではなかったかもしれない。しかし、20日の出来事から10日後の出来事であり、2人で食事をしている。(やりとりの経緯から)被告人は、Bが期待していたことを認識していたはずだ。その後も、裸の写真を送るなど、恋人のようなやりとりを行っており、受け入れていると見るべきで、被告人の証言は信用できない」として、ここでも弁護側の主張を採用しなかった。
さらに弁護側は、Bくんの「学校外で会う前から、学校内でキスやハグをした」などという証言も否定していた。学校外で会う前から性的な接触があったとすれば、A子の「同意していなかった」という証言の信用度は著しく下がる。
弁護側は「(Bくんが)10月まで児相に保護されており、その1カ月後に2人の関係が発展していたとは考えにくく、不自然ではないか。思い込みや勘違いではなく、警察の捜査で誘導があった可能性がある」と指摘。
A子も「私とBくんとは認識が違う。事実と違うので、Bくんが嘘をついていると思ったことがある」と証言した。
しかし、判決は「以前にも校内でキスやハグをしていたというのは、唐突な印象があるが、これらの証言通りではないとしても、担任と生徒の関係の接触があったと見るべき」として、弁護側の主張を認めなかった。
結論として「被告人の証言は信用できず、Bが被告人の意思に反して性交したとは言えない。Bとの不適切な関係を被告人が助長した。立場があるにも関わらず、Bの健全な育成を阻害した」という有罪判決。しかしすでに懲戒処分を受けていることを考慮して執行猶予となった。知的障害を持つ生徒が教師から性的な視線で見られているとすれば、教育機関の信頼は地に落ちてしまう。早急な対策が必要だ。
(渋井 哲也)
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