メッセージを送り続けているが…「いくら待っても返事はこない」中学からの親友が亡くなっても続く“なんでもない日常”
文春オンライン / 2024年11月1日 17時10分
草野翔吾監督
ウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)と、カメラマンの叶海(かなみ)(藤間爽子)は中学からの親友同士。梓の背中を押してくれるのはいつも叶海だった。
〈ハチ公の銅像って、ハチ公が生きているうちに作られたって知ってた?〉
〈じゃあ、ハチ公もハチ公前で待ち合わせしてたんだ!〉
地元の駅。他愛のない話で笑い合って、何気なく手を振って。そして、ふたりは永遠に別れることになった。あれから梓は、叶海とのトーク画面に、他愛のないメッセージを送り続けている。いくら待っても返事はこない。
――親友を突然亡くしたら、あなたはどうしますか。
「なぜか印象に残っている帰り道ってありませんか。そんななんでもない日常こそ、無性に思い出されるような気がするんです。親友が亡くなったあとにも続いてしまう日常を描きました」
映画『アイミタガイ』の監督草野翔吾さんは静かに語る。
「梓は落ち込んではいるのだけど、ずっと暗い表情でいるわけではない。どんなに喪失感があっても、仕事はしなくてはいけないし、生活は進んでいく。黒木さんは血の通った日常の生活感の中で、繊細に想いを表現してくれました」
本作は、脚本家の市井昌秀さん、故佐々部清監督から、草野さんがバトンを継ぎ、完成に漕ぎつけた。
「佐々部さんが大事にされたところを想像し、また小説に立ち返って零れ落ちたことがないか入念に読み込みました」
草野さんが独自に撮りたいと思ったのは、中学生の梓と叶海が出会う場面。現在の梓の回想としてではなく、群像劇の一部として描いた。
「そうすることで、ふたりの時間の流れ、繋がりを表現できるかなと思いました。そして、“アイミタガイ”という巡り巡る時間が、映画の構成自体に現れるのではと」
「相身互い」。気付かぬうちに人はふれあい、想いはやさしく巡っている。「脚本を読んで初めて知った言葉」と振り返る。
「この映画には、人の想いを受け止め、信じる人が多くでてきます。佐々部さんは、人を信じていたのだと想像します。でも僕は、隣人を愛せと言われても、自信がない。実感できずに撮れば、それは嘘になってしまうから、どうしようかと……」
脚本に向き合った最後の最後に、草野さんに降りてきたのは、叶海を失くした父優作(田口トモロヲ)が語る言葉。「その言葉は僕の実感に近かった。ああこれで撮れると思いました。これで自分の作品にできるかもと」。その言葉は劇場で確かめて欲しい。
草野さんは言う、この作品は喪失の乗り越え方を示すわけではない、と。
「ひとりでは無理でも、誰かと一緒なら、一歩だけでも進める。人との繋がりが希薄な今こそ見て欲しい作品です」
くさのしょうご/1984年、群馬県生まれ。早稲田大学在学中に長編監督作『Mogera Wogura』が一般劇場で上映。2012年、長編映画『からっぽ』が国内外の映画祭に選出。監督作品に、映画『にがくてあまい』『世界でいちばん長い写真』、連続ドラマ「民王R」など。25年2月、映画『大きな玉ねぎの下で』の公開を控えている。
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映画『アイミタガイ』
11月1日全国公開
https://aimitagai.jp/
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年11月7日号)
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