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「すみません。片方の玉がタマネギくらい大きくなって…」爆笑問題・田中裕二を襲った2つの病魔《タイタン太田光代社長が語る》

文春オンライン / 2024年11月19日 6時0分

「すみません。片方の玉がタマネギくらい大きくなって…」爆笑問題・田中裕二を襲った2つの病魔《タイタン太田光代社長が語る》

「切除必須の腫瘍」と診断された田中裕二 ©文藝春秋

タイタン社長の太田光代氏が、爆笑問題がデビュー以降に経験してきた紆余曲折を振り返る。

◆◆◆

突然の腫瘍発見

 たまに太田は田中を見て「よくあんなに元気にしていられるよな」と漏らすのですが、田中はときどき病気で体を壊すのです。歳を重ねるにつれ、洒落にならないような“コンビ消滅”の危機に直面することも増えていきました。

 シドニーオリンピックがあった2000年のこと。私たちは年に1回、3人一緒に人間ドックを受ける習慣があって、その年も一緒に同じクリニックに足を運びました。

 ただ、いつもと様子が違ったのは田中に「追加検査」の指示がでたことです。加えて、どこか悪いところはないかと問診で尋ねられてもはっきり答えない。私が直接、田中に聞いても「別に体に違和感なんてない」という。

 やがて所定の追加検査が終わり、「また気になることがあったら来てください」とお医者さんが告げます。すると、田中はついに観念して言ったそうです。

「すみません。実は片方の玉がタマネギくらい大きくなってまして……」

 検査でも問診でも言えなかったのは、睾丸の異常でした。あとで「検査結果が悪かったの、絶対タマが原因じゃん!」と問い詰めましたが、田中は「だって、なかなか言いにくくてさ」と下を向いて恥ずかしそうにしていました。

 笑いごとでは済まなかったのが、検査結果です。田中の精巣の肥大化の原因は「切除必須の腫瘍」と診断されたのです。すぐに睾丸摘出手術を受けることになりました。田中はしばらく仕事と並行しての治療生活を強いられたのです。

 私も太田も最初はショックでしたが、仕事に穴をあける以上、世間に対して公表しないといけません。私は田中のプライベートにも考慮した形で病状を発表することに決め、術後に行う記者会見は、太田に任せることにしました。

 いよいよやってきた会見の日。重症説が水面下で飛び交っていたこともあったのか、会場には深刻そうな表情の記者たちが続々と集まっていました。

 太田はマイクを握って、第一声。

「田中が“金”取ったー!」

 その場にいた記者さんの緊張からの緩和もあって会場は大爆笑に包まれました。

 摘出手術をネタにしたことへの苦言も一部の医師からいただきましたが、精巣腫瘍が悪化する原因は「恥ずかしがって検査に行かないこと」。田中が公表したことで、「気になっていたけど思い切って検査を受けた」という声がたくさんタイタンに寄せられることになりました。睾丸が腫れたらすぐに病院に行ってほしい。今でも爆笑問題が「カタタマ」をいじるのはそんな思いがあるからです。

 田中の大病はこれだけではありません。2021年1月20日、ふたたび命に関わるような大病を患うことになりました。

 タイタンライブが控えていたこともあり、その日の田中は太田とのネタ合わせを終え、遅くに帰宅しました。その日の深夜、騒動が起こったのです。

 彼の妻になったタレントの山口もえちゃんから電話がかかってきました。時刻は午前2時。私は半分、寝ぼけながら電話に出たことを覚えています。

「遅くにごめんなさい。裕二さんがあまりに頭が痛いって言うので、救急車を呼んで病院に向かっています。それで、脳内出血の可能性もあるって……」

「意識はあるの?」

「はい、意識はあります」

「わかった。じゃあ病院に着いたらお医者さんに代わってもらえる?」

くも膜下出血・脳梗塞

 もえちゃんはすっかり気が動転している様子でした。もし、脳梗塞だったりすれば後遺症が残る可能性もありますし、最悪の場合は命を落としてしまう。深夜でしたが、私は横で寝ていた太田に声をかけました。

「ねぇ、田中が突然頭痛くなって救急車呼んだって。脳内出血かもしれない」

 けれど太田は目を覚ましたものの、

「ああ、そう」

 と一言反応しただけ。田中は昔から体調が悪くなるたびに、大袈裟に大病を疑う癖がありました。彼からすれば「またなんか言ってるよ」というくらいの感覚だったのかもしれません。

「一応いつでも行けるようにしておくけど、あなたは?」

「俺はいいよ、別に」

 それから1時間ほど経って、病院のMRIの結果が出たともえちゃんから電話がありました。代わってもらったお医者さんから告げられた検査結果は、「前大脳動脈解離」による「くも膜下出血」と「脳梗塞」。

 血の気が引きました。すぐに太田の肩を掴んで揺さぶります。

「ちょっと! 本当に田中は脳梗塞だったよ」

 すると、それまであんなに反応の薄かった太田がベッドから声を上げて飛び起きたのです。

「ネタ、どうするんだ!」

 私は内心、「そっちなの?」と思いましたが、そのまま部屋をウロウロし始めた太田の姿に呆気にとられてしまいました。

「ライブのネタはどうするんだよ、ネタ。あいつはいつ出れるの?」

「いいから落ち着いて。そんなにすぐは出てこれないよ」

 太田は聞いているのか、聞いていないのか「もうできないのか」とひとり言のようにぶつぶつ言いながら寝室を歩き続けていました。

 その後、お医者さんからの経過報告を聞くかぎり、田中の病状は重篤ではないことがわかり、ようやくその長い夜は終わりました。

(聞き手・構成 石戸 諭・ノンフィクションライター)

本記事の全文は「 文藝春秋 電子版 」に掲載されています。「 文藝春秋 電子版 」では、これまでの連載もすべてお読みいただけます。

 

■連載「 お笑い社長繁盛記 」

第1回「 爆笑問題の忘れられない日 」
第2回「 爆笑問題『復活ライブ』の秘策 」
第3回「 立川談志と太田光『銀座のバーで修羅場』 」
第4回「 宗教二世に生まれて 」
第5回「 M-1優勝 ウエストランドのチン騒動 」
第6回「 芸人トラブルこそ社長の出番 」
第7回「 SMAP育ての親と秘密の晩餐 」
第8回「 事務所快進撃と裏腹の不妊治療 」

第9回「 太田を悩ませる田中の脳とタマ 」

第10回「 コンプラ研修に全員集合! 」

(太田 光代/文藝春秋 2024年11月号)

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