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「反省しているからもう大丈夫」「普段はいい人だから」DVを受けた女性が過去と向き合うことを決断した瞬間

文春オンライン / 2024年11月22日 6時10分

「反省しているからもう大丈夫」「普段はいい人だから」DVを受けた女性が過去と向き合うことを決断した瞬間

あらすじ

 理想のフラワーショップを開くという夢を実現すべく、ボストンにやってきた若き女性リリー(ブレイク・ライブリー)。そこで、クールでセクシーな脳神経外科医ライル(ジャスティン・バルドーニ)と情熱的な恋に落ちる。幸せで穏やかな日々を過ごすふたりだったが、リリーを大切に想うライルの愛は、次第に望まぬ形で加速してゆく。それは彼女が封じたかつての記憶を呼び覚ますものだった。自分の信じる未来を手にするため、リリーは過去の自分自身と向き合い、ある決意を胸にする――。全世界で1000万部を記録したアメリカの人気作家、コリーン・フーヴァーの大ベストセラー小説を映画化。主演女優のブレイク・ライブリーが製作、主演男優のジャスティン・バルドーニが監督も務めた話題作。

今も多くいる、ジェンダー不平等で苦しんでいる女性

 高校生の頃、私の理想の男性は「貧乏ではない人」と「暴力をふるわない人」だった。時代錯誤な田舎町に生まれ育ち、恋愛や結婚とは無関係に育ったが(田舎のせいではない気もするが)、「お金がなくても愛さえあれば幸せ」と思えるほど人生甘くないはずだと、妙に冷めていたところがあった。

 また、昭和という時代は、体罰や暴力があたりまえのように日常に存在していた時代でもあった。圧倒的に体格差のある相手を力でねじ伏せるのは、戦争に匹敵する愚かな行為だと蔑視していた私は、「扱いにくいオンナ」と言われ、周囲から明らかに浮いていた。それもいま思えば、すごく変だった。

「だから日本は世界から遅れているんだ」

 と、日本から一度も出たことがないのに、勝手に日本への憤りを感じていたのを思い出す。

 しかし、当時「男女平等」の先進国だと思っていたアメリカでも、実は日本と同じようにジェンダー不平等で苦しんでいる女性が、いまも多くいるのかもしれない。

『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』は、そんな想像をしてしまいたくなる映画だった。

DVを受けても離婚しなかった母のようにならないために

 物語は、主人公リリー(ブレイク・ライブリー)の父親の葬儀シーンから始まる。子ども時代、父親からのドメスティックバイオレンス(DV)被害にあう母親を見て育ったリリーは、世間的には尊敬されていた父親の葬儀で、「父のいいところ」5つが言えず、葬儀場から逃げ出してしまう。

 生活力がないためにDVを受けても父と離婚しなかった母。彼女のようにならないために、リリーは自分のフラワーショップを開く夢を抱いてボストンへやってくる。そこで偶然出会ったのが、クールでセクシーなライル(ジャスティン・バルドーニ)だった。

「自分は脳神経外科医だ」というライルに、リリーはナンパの常套句だと取り合わない。それでも女性の扱いに慣れているであろうライルが、少しずつリリーとの心理的距離を縮めていくシーンには、「恋が生まれる瞬間」が垣間見えてドキドキした。

小さな違和感が徐々に湧き出してくる

 お互いに自立した大人で、文句なしの美男美女。このふたりが、本作の監督と製作も手がけているなんて、天は二物を与えすぎだろうと、うがった気持ちで見始めたはずなのに、すっかりスクリーンに釘付けになってしまう。

 ここで無情にもライルに緊急オペの呼び出し電話が入り、連絡先を交わすこともなく別れるふたり。だが、その後偶然にも再会を果たし、お互いを強く意識。情熱的な恋に落ちていく。

 目標だったフラワーショップも軌道に乗り始め、ライルと一緒に暮らし始めたリリー。情熱に溺れやすい若い頃の恋愛と違い、ある程度年齢を重ねてからの恋愛は体も気持ちも余裕があるので、相手への愛とリスペクトがあっていいなあ、と安心して観ていると、小さな違和感が徐々に湧き出し、突如としてその穏やかで幸せな日々が断ち切られてゆく。流れるように自然に狂気へと誘う展開は、まるでサスペンスだ。

 リリーを愛し、大事に想うからこそ、許せないことが湧き出してくるライル。そんなライルに対し、言いたいことを飲み込んでしまうリリー。ふたりの間に確かにあるはずの愛は、なぜ歪んでしまうのか。

「でも、普段はいい人だから」

 ご多分に漏れず、リリーへDVをした後のライルは誠心誠意謝罪し涙ながらに許しを請う。大人になって、配偶者やパートナーから「暴力」と思える行為を受けている人に仕事やプライベートで会ったこともあるが、みな一様に「でも、普段はいい人だから」と許してしまうのが不思議だった。

「暴力をふるうような人は、殴り返して警察に突き出せばいい」

 と、私は本気で言っていたのだけれど、DVは「手を上げて相手に謝る」までが1セットといわれている。「反省しているからもう大丈夫」「本当の彼は私を愛している」と思いたくなるのは、愛するがゆえなのか、それとも情にほだされているだけなのか。

 今年のノーベル文学賞は、アジア人女性初の韓国の作家、ハン・ガン(韓江)さんが受賞した。韓国では、ジェンダー政策を「女性優遇」と批判する声も多いが、「ヤング・フェミニスト」世代の勢力は確実に世界を変えている。

 11月25日には、国連が定める「女性に対する暴力撤廃国際デー」もやってくる。女性の地位向上、ジェンダー不平等撤廃を訴える3月8日の「国際女性デー」も、少しずつ、でも確実に認知度が上がってきているように感じる。

DVを受けたら、まずは第三者に相談すること

 映画のエンドロールでは、「あなたや知人がDVを受けていたら、支援センターに連絡してください」という字幕が流れた。

 最近は、商業施設や公共施設のトイレなどでも「配偶者や恋人からの暴力に悩んでいませんか?」という、相談支援センターのチラシやカードを見かける。

「DVを受けるのは、自分にも悪いところがあるからだ」

 と、決して思ってはいけない。DVを受けたら、誰でもいいからまずは第三者に相談すること。そこから必ず解決策は見えてくる。

 リリーがフラワーショップのアシスタントで友人、そしてライルの実妹でもあるアリッサ(ジェニー・スレイト)に、DVを打ち明けたシーンで、アリッサはこう言う。

「妹としては、兄を許してほしい。でも、親友としては、別れなかったら許さない」

 幼なじみで、リリーの初恋の相手でもあるアトラス(ブランドン・スクレナー)のセリフにも泣いた。

「君がまた誰かを愛したいと思ったら、俺がいる」

 映画を見終えてようやく、私たちはタイトルの意味を知る。

 人は間違いを犯す。けれど、間違えたらやり直せばいい。あなたは決して、ひとりぼっちじゃない。

●DV相談ナビ#8008(はれれば)

 全国共通の電話番号(#8008 はれれば)に電話をしてください。

 発信地などの情報から最寄りの相談機関(配偶者暴力相談支援センター)に電話が自動転送され、直接相談できます。匿名でも相談できますのでご安心ください。

※相談は、転送先となる相談窓口の相談受付時間内に限られます。

※ご利用には、通話料がかかりますのでご注意ください。

※一部のIP電話などからはご利用いただけません。

 

●DV相談+(プラス)

 専門の相談員が、電話で365日・24時間対応しています。チャットやメールでも相談を受け付けており、外国語(10ヵ国語)にはチャットで対応しています。

 また、詳しいお話をお聞きした上で、相談員が必要だと判断した場合は、面接、同行支援などの直接支援、安全な居場所の提供を実施します。

電話での相談(フリーダイヤル)

DV相談+(プラス)

0120-279-889(つなぐ はやく)

※365日・24時間対応

https://soudanplus.jp

INFORMATION

『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』

11月22日(金)全国の映画館で公開

原題:IT ENDS WITH US

監督:ジャスティン・バルドーニ(『ファイブ・フィート・アパート』)/出演:ブレイク・ライブリー/ジャスティン・バルドーニ/ジェニー・スレイト/ブランドン・スクレナー/2024年/アメリカ/130分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(相澤 洋美/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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