24歳の愛人を川に捨てるためバラバラに…「風俗店で働く女性」に恋をした“50歳のエリート会社員”の末路(2016年の事件)
文春オンライン / 2024年11月9日 18時0分
50歳のエリート男性はなぜ愛人を殺さなければいけなかったのか? 写真はイメージ ©getty
「私、枯れ専なの」――とある風俗店で出会ったことをきっかけに、一度は恋人関係になった50歳男性とそこで働く24歳女性。しかし2人の蜜月は数年で破綻してしまう。いったい男はなぜ女性を殺したのか? なぜ遺体をわざわざ2つの川に分けて捨てたのか? 2016年10月に東京で起きた事件の顛末を、前後編に分けてお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/ 後編を読む )
◆◆◆
惚れた女をバラバラに、死体を川に捨てた男
石井陽一郎(50)は有名私立中学出身のエリート。大学を卒業する頃に最初の妻と結婚し、すでに成人している長女、長男、次男がいるが、最初の妻と離婚して、10年前に2番目の妻と再婚した。だが、徐々に夫婦仲が悪くなり、2年連続で会社の昇進試験に落ちたことからストレスがたまり、狂ったようにデリヘルで遊ぶようになった。
そのことが妻にバレて、600万円もの借金を返済してもらったが、また半年後には300万円の借金をこしらえる始末。そんなときに出会ったのが事件の被害者となる三原夏美さん(24)だった。
夏美さんは「私、枯れ専なの」と言って、何も要求しないのに追加料金なしで本番させてくれた。それから石井は週2回は夏美さんを指名して遊ぶようになった。
幼い頃に父親を亡くし、継父に育てられたことや、一緒に住んでいた彼氏と別れ、ネットカフェ難民となり、就職資金をためようとデリヘル嬢になった経緯も聞いた。石井は出会ってから1カ月後には店外デートする関係になり、「若い彼女ができた」と喜んでいた。
「就職活動したいので、100万円貸してほしい。借金もあるので、これ以上デリヘルをやるよりも今、100万円が欲しい」
石井はこの話に理解を示し、「出世払いで構わないから」と言って、自ら100万円を借りて夏美さんに渡した。石井としては、このまま付き合ってくれるなら、返さなくていいとまで考えていた。2人の結束はより固まり、同棲することになった。石井は妻には「両親が田舎から出てくることになったので、その世話をしなければならない」と言って、別居を了承させた。
さらに夏美さんから「生活環境を整備するお金」として60万円の借金を申し込まれ、働き始めてから毎月10万円を返すという約束で貸し付けた。
「手取りの給料が20万円ある。残った10万円から、生活費として6万円出す。それなら2人で暮らしてもやっていけるでしょう」
夏美さんはそのために「融資契約書」という書面を書き、署名捺印した。
ところが、一緒に住んでみないと分からないことも多くて、夏美さんは家事がまったくできない女性だった。おかげで家事はすべて石井がやることになり、おまけに彼女は朝が極端に弱く、夏美さんを起こしていると、自分まで遅刻しそうになるほどだった。
当初約束していた生活費も1度しか支払われず、毎月10万円ずつ返済するという「融資契約書」の内容も反故にされた。
それでも石井はガマンしていた。「夜の仕事を復活させないと、借金が返せない」と言われ、「それだけはダメだ」と反対したからだ。
石井は夏美さんと同棲していた5カ月間で疲れ果ててしまい、結局は別居することになった。最後は夏美さんに押し切られ、「絶対に本番はしない」という条件で、デリヘルに復帰することも許した。
「何で来るの? 身内からはお金を取れないじゃない」
だが、夏美さんに約束を破られるのではないかと思うと気が気ではなく、店のホームページに本番をほのめかすコースがあることを知ってからガマンできなくなり、自らそのコースを選んで、夏美さんを指名した。
ホテルにやって来た夏美さんは、石井を見るなり、「何で来るの? 身内からはお金を取れないじゃない」と言って泣き出した。
石井は構うことなく、仕事道具をあさり、コンドームを見つけたことから、「これは何?」と問いただしたが、泣いていて返事にならなかった。
夏美さんは泣いたまま、店にコールの電話。店側が機転を利かせて警察に通報し、警察官が店員とともにやって来た。
「私は交際している者で、怪しい者じゃない」
「でも、女性が嫌がっているのに付きまとうと、ストーカーになりますよ」
警察官は厳重注意をして帰って行った。夏美さんはその日限りで、その店をやめた。その後、ドライブをするなどのデートを重ね、石井とも仲直りした。
ところが、1カ月ほど経った頃のことだ。ドライブ帰りに石井が夏美さんの自宅に立ち寄ったところ、あまりにもゴミが散乱している様子を見て、思わず苦言を漏らした。
「汚ねぇなァ…。たまには掃除しろよ」
「そんなこと言うんだったら、もう来ないでよ!」
それで口論になったが、2日後には夏美さんから「冷蔵庫を買ったので見に来て欲しい」という連絡が入り、そのときはピカピカになっていたので、思わず「いつもこれぐらいきれいにしとけよ」と言ってしまった。
「いつまでそんなこと言うのよ!」
「そんなに怒るなよ…」
「もう帰って!」
「電車もないのに、こんな時間に帰れないだろ」
「いいから帰って!」
石井は深夜にトボトボ歩いて帰ることになった。これが一つのターニングポイントになった。それ以後、デートの約束をしても、〈会議が入った〉〈明日は会えない〉などと言われ、何だかんだと言って断られるのだ。いつも週末は1時間以内にメールの返信が来ていたのに、それもなくなった。石井は「またデリヘルを始めたのではないか?」と疑った。
石井は夏美さんが最初に勤めていた店の店長と今も連絡を取り合っていることを知っていた。その店のホームページに〈新人ユリちゃん入店〉と紹介されているのを見て、「これは夏美ではないか」と直感した。
夏美さんに〈新人ユリは夏美だよね〉と尋ねてもシラを切る。こうなったら現場を押さえてやろうと、石井は“ユリ”を指名した。
果たしてホテルにやって来たのは夏美さんだった。
「お前、やっぱりユリだったんじゃないか!」
石井は夏美さんが書いた「融資契約書」を突き付け、「約束を破ったんだから、金を返せ!」と迫った。
夏美さんが逃げようとしたので、腕を引っ張り、スマホを取り上げた。夏美さんは「分かった、返すから…」と言いつつ、石井が油断した瞬間、「キャーッ、助けてー!」と言って逃げ出した。
「おい、ちょっと待て…」
その後、店から「通報した」という電話がかかってきた。石井は誤解を解こうと、夏美さんのスマホを持って警察を訪ねたところ、その場で暴行容疑で逮捕されてしまった。
結局、10日間も勾留され、罰金刑を食らった。釈放されるときに「もう二度と被害者には近付きません」という上申書も書かされた。
会社を解雇され、人生はめちゃくちゃに
その間に会社も解雇された。石井は就職活動を開始したが、うまくいかなかった。生活費にも事欠くようになり、夏美さんに貸した金のうち、60万円だけはどうしても返してほしくなり、行政書士に頼んで返済を求める内容証明郵便を送った。
だが、夏美さんの代理人弁護士から〈金を借りた覚えはないし、逆に損害賠償を請求する〉という答弁書が届いただけだった。
「こんなことになったのはみんな夏美のせいだ。もうあんな女は殺してしまったほうがいいんじゃないか」
石井は密かに「殺人」「起訴」「遺体処理」といったキーワードで検索するようになった。
〈 「何度も愛し合った24歳女性をバラバラに…」風俗店の客→ストーカー→殺人犯に転落した50歳エリート男性の末路(2016年の事件) 〉へ続く
(諸岡 宏樹)
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