「先祖のたたりがある」と脅して数百万の壺を買わせ…“霊感商法”を信じてしまう人の心の中では何が起きているのか
文春オンライン / 2024年11月13日 6時0分
©moonmoonイメージマート
〈 「ダサい」「時代遅れ」と思われていたお菓子のパッケージ変更が大炎上…あえての“炎上商法”は本当に効果があるのか? 〉から続く
「これを買わないと不幸になる」と不安を煽り、高価な壺やアクセサリーなどを購入させる“霊感商法”。当事者ではない人から見ると「どうして騙されてしまうのか」と理解できないものがあるかもしれません。
愛知淑徳大学の心理学部教授である久保 (川合) 南海子さんは、自分の認識が世界の見え方に影響を与える「プロジェクション」という心の動きについて指摘します。特に、実際には「ない」ものを現実に「ある」ものへ重ね合わせてしまうプロジェクションのことを、異投射と分類しています。
ここでは、そんなプロジェクションについてさまざまな事例を紹介しながら解説していく『 イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇 』(集英社新書)より一部を抜粋。“霊感商法”で高価な壺を購入してしまう人の心の中では、一体何が起きているのか――。(全4回の3回目/ 続きを読む )
◆◆◆
不安を煽り、購入や寄付を促す「霊感商法」
2022年7月、安倍晋三元首相が街頭演説中に銃撃されて死亡した事件では、山上徹也被告が殺人や銃刀法違反などの罪で起訴されています。山上被告は母親が多額の献金をしていた「世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)」に恨みを募らせた末、事件を起こしたと見られています。被告の母親は長年にわたり、死亡した被告の父親の生命保険金や、被告の祖父から相続した不動産を売った金などあわせて1億円超を、旧統一教会に献金していたとされています。
この事件をきっかけに、1980年代から問題になっていた信者に対する高額な献金の強要や霊感商法が、再び大きな社会的関心を集めることになりました。2022年12月には、教団の被害者救済を図るための新たな法律が成立しました。法人が霊感などの知見を使って不安を煽り、寄付が必要不可欠だと告げるなど、個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止することなどが定められました。禁止行為に違反し、行政の勧告や命令に従わなかったばあいには、1年以下の懲役か100万円以下の罰金という刑事罰も科されます。
霊感商法とは、霊能者や占い師を装った人物が「いまのままではあなたや家族が不幸になる」「○○をしないと先祖の祟りがある」などと言って不安や恐怖を煽り、数百万円もの高額な壺や印鑑や数珠などを購入させたり、多額の寄付をさせたりして、不当に大金を奪いとる商法のことです。
旧統一教会の霊感商法による被害については、私もニュースなどで子どもの頃から知ってはいました。けれど、壺などに何百万という大金を支払ってしまったという被害者のニュースを見て、子どもなりにまず疑問として浮かぶのは、どうしてなんでもない壺に、自ら進んで大金を出してしまうのだろう? ということでした。ニュースの画面を通じて見る壺はごくありきたりなものでしたし、宗教的な意味があるのだろうという先入観も手伝って、なんだかすごく奇妙な行動だなあ、という認識で理解が止まっていたように思います。
大人になると、これは不当に大金を奪いとる悪質な詐欺行為であることがわかります。けれど、常識的に考えれば大金を支払う価値などありそうもない壺に、自分から大金を支払ってしまうという奇妙な行動への違和感は解消されませんでした。
ところが、安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会の霊感商法に関する報道が連日のようになされていた時、これこそがプロジェクションだと得心しました。私が子どもの頃からずっと奇妙に感じていた被害者側の行動は、プロジェクションの異投射によって引き起こされているのだということがわかったのです。
霊感商法の手口とプロジェクション
そもそも霊感商法とは、どのようなプロセスでなされるのでしょうか。霊感商法の首謀者が狙うのは、なにか解決しがたい悩みや不安、トラブルを抱えて苦しんでいる人です。そのような状態がある程度の期間続いていたとしたら、人は精神的に不安定になってしまいます。
大きな悩みや不安がなく、精神的に健康な状態であれば、霊能者や占い師などを訪ねてみようという気持ちにすらならないかもしれません。しかし、そうではない時、なかには、自然を超えたなにかにすがりたくなる人もいるでしょう。霊感商法の首謀者たちは、そうして近づいてきた対象者の精神的な不安定さを巧妙に利用するのです。
ある程度の規模で組織的な霊感商法を実施するグループのばあい、首謀者と協力者が複数人でチームを組んで対象者を取りこんでいくやり方が多く見られます。まずは、協力者が対象者と知り合いになり、徐々に交友を深めていきます。親しくなると、何気ない会話のなかで、困りごとや悩みについて水を向けられたら、対象者は協力者につい話してしまうこともあるでしょう。
そこでたとえば、肩こりがひどくてつらい、などと言われたら「たかが肩こりと甘く見てはいけない。もしかしたら大きな病気につながるかもしれない」「実は、すごくいい人を知っているのだけど」と霊能者や占い師を紹介します。「特殊な力で悪いところを見つけてくれて、肩こりを治してくれる」「人助けが趣味のような人だから、料金はかからない」「お願いする人が多いから、ふだんは何ヶ月も先まで空きはないけれど、今回はキャンセルがあったので特別に会えるチャンス」などと言葉巧みに誘います。
最初はあまり乗り気でなかった対象者も、「この人が熱心に誘ってくれるから」「料金がかからないなら」「せっかくのチャンスなら」まあいいか、というくらいの気持ちで首謀者たちのところへ向かいます。
そうして対象者が自分たちのところへやってきたら、しめたものです。霊能者や占い師は、対象者と初対面であるにもかかわらず、ひどい肩こりに悩まされていることをズバリと言い当てます。それどころか、家族や仕事のこと、ふだんの行動傾向や好きなことなども、初めて会ったのに、どんどん当ててみせます。当てられた対象者がとても驚いて、この人の特殊な能力はすごい、と思うのも無理はありません。
タネ明かしは簡単です。対象者と親しくなっていた協力者がすでに聞きだしていたさまざまな情報を、事前に霊能者や占い師が把握していたにすぎません。けれど、対象者はそんなことなど夢にも思わないので、まるで上手な手品を見て「これは魔法か?」と驚くような気持ちです。
最初は霊能者や占い師に対して、どうということはない心持ちだった対象者が、この霊能者(や占い師)はすごい人だという意味づけをおこない、目の前の霊能者(や占い師)への気持ちが劇的に変化します。ここで、これまでになかった強いプロジェクションがなされたというわけです。
ここからは、プロジェクションとの関連で、詳細なプロセスを見ていきましょう。目の前の人物には特殊な力があると信じこんだ対象者に、「○○をすれば、すぐに肩こりは治りますよ」とアドバイスをします。信じている対象者は○○をしてみますが、肩こりは一向に良くなりません。
それはあたりまえ、アドバイスはなんの根拠もないインチキなのですから。しかし、あの人はすごい霊能者だ、という強いプロジェクションをしている対象者は、アドバイスがインチキであるとは考えません。治らないのは、なにかほかの原因があるのではないか、あの人ならそれも教えてくれるかもしれない、と考えます。
そうして再び霊能者や占い師と会うことになったら、いよいよ首謀者たちは本気で対象者をからめとる作業に入ります(先ほどの簡単なアドバイスのプロセスを省略して、初回からこの段階に進むことも多いです)。
不安を抱えたままの対象者に対して、霊能者や占い師は「たしかに原因はほかにある。なんと先祖の悪行が支障をきたしている」「このままではもっとひどいことが起こる」「家族もろとも不幸になる」などと告げます。自分がすごいと信じている霊能者や占い師から、突然そんなことを断言されたらどうでしょうか? おそらくとても動揺してしまうはずです。
もともと精神的に不安定な状態だったところへ、このようなことを「指摘」されたら、言い知れない不安でいてもたってもいられないくらいでしょう。いったい私はどうしたらいいのだろうと、途方に暮れてしまうはずです。そこへすかさず、首謀者たちの真の働きかけがなされます。「大丈夫、あなたが救われる方法がひとつだけある」と。そうやって提示される方法が、法外な値段で壺や数珠などを購入することなのです。
なぜ自分の不幸がこの壺を買うことで解消されるのか、そこに合理的な説明はまったくありません。けれど、そんなことは問題ではないのです。すごいと信じている人が目の前にある壺について「これには特別な力を授けておいた」と言えば、なんの変哲もない壺に対して、自分の不幸を解消してくれる特別な壺である、というプロジェクションがなされます。そうなると、その壺は自分にとって特別なものですから、高額の支払いをするだけの「価値」を見いだすことになります。
〈 「ここは以前、殺人があった部屋でして」聞いたら知る前の気持ちには戻れない…事故物件に「住みたくない」と思ってしまうワケ 〉へ続く
(久保(川合) 南海子/Webオリジナル(外部転載))
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「嫌いだったら見なければいいのに…」どうしてわざわざ悪口を言うのか? 心理学者が解説する“アンチ”の意外な心理
文春オンライン / 2024年11月13日 6時0分
-
「ダサい」「時代遅れ」と思われていたお菓子のパッケージ変更が大炎上…あえての“炎上商法”は本当に効果があるのか?
文春オンライン / 2024年11月13日 6時0分
-
「ここは以前、殺人があった部屋でして」聞いたら知る前の気持ちには戻れない…事故物件に「住みたくない」と思ってしまうワケ
文春オンライン / 2024年11月13日 6時0分
-
1人2000万円、年間16億円が「使途不明」で自由に使える…泉房穂が問う「ますます巧妙さを増す政治とカネの闇」
プレジデントオンライン / 2024年10月31日 16時15分
-
大逆風が伝えられる自民党…石破首相は「裏金・旧統一教会系議員」の当選を本気で望んでいるのか?
集英社オンライン / 2024年10月27日 7時0分
ランキング
-
1自民人事、裏金議員を起用=党幹部「適材適所」と説明
時事通信 / 2024年11月15日 18時28分
-
2【独自】渦中の経営者を直撃…悪質M&Aは介護業界にも 「本当に異常」残高わずか4000円 全員退去の施設も 警察は捜査できず【調査報道】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月15日 14時27分
-
3保育園で給食のどに詰まらせ1歳男児死亡 運営会社が謝罪 豚肉か
毎日新聞 / 2024年11月15日 19時19分
-
4玉城知事「県民に大きな不安」=米軍ヘリ不時着巡り―沖縄
時事通信 / 2024年11月15日 14時44分
-
5《内部資料入手》5年で7頭のアザラシが死亡、炎上中の“動物と泊まれるコテージ”とは? 責任者の回答は資料と食い違い…
集英社オンライン / 2024年11月15日 16時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください