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中川李枝子さんに初めて会ったときの思い出

文春オンライン / 2024年11月12日 11時0分

中川李枝子さんに初めて会ったときの思い出

中川さんが翻訳した『アンネの童話』を手に。「アンネ・フランクが隠れ家で書いた童話やエッセイはとても瑞々しいの」(中川さん)自宅のリビングには、教え子やファンからの贈りものが大切に飾られている。 写真:杉山秀樹(文藝春秋写真部)

 絵本『ぐりとぐら』の作者として知られる中川李枝子さんが、10月14日に89歳でお亡くなりになりました。

 文春文庫では、かこさとしさん著『 未来のだるまちゃんへ 』で中川さんに解説をお願いしたり(かこさんと中川さんお二人の邂逅秘話)、中川さんの名訳が素晴らしいアンネ・フランク著『 アンネの童話 』を新装版として復刊。そして2018年には、妹・山脇百合子さんの可愛い絵が満載のエッセイ『 本・子ども・絵本 』を、秘蔵写真をたっぷり追加して文庫化しました。

 中川さんの担当編集者Iさんが、初めてお会いしたときの思い出を、追悼と感謝の気持ちを込めて綴ります。

★★★

 最初にご自宅に担当編集者としてご挨拶にお伺いしたときは真夏の暑いさかりだったのですが、なにしろあの、幼い頃から読んでいた本の作者である「伝説の」中川李枝子さんに初めてお目にかかるということで、中川さんが間違えてエアコンで暖房をつけていたのに、緊張のあまり何も言い出せず、汗グダグダでお話ししたことを覚えています。

 でもその日、私がおいとましてご自宅をひきあげようとすると、帰り道を心配して、家の外まで出てきて「あそこを右へ曲がると、バス停があるからね。気を付けて帰って!」と案内してくださったのです。「あぁ、きっとしっかり者で優しい保育士さんでいらしたのだなあ」と心が温まりました。

 本づくりで仕事をご一緒しているときも、その後もずっと、とてもチャーミングでとにかく子どもが大好き、気取らず気さくなので安心して話せる方、という印象は一貫して変わりません。

 中川さんがお世話をした保育園の子どもたちは、大勢、成長して巣立っていきました。お会いする度に、「あの子はこんなに立派になったのよ」と愛おしそうに話してくださいました。今や大人になった「子どもたち」からは、中川さんにはいつも沢山の手紙が届いているのでした。

『本・子ども・絵本』は、「本は子どもに人生への希望と自信を与える」と信じる中川さんが、子どもたちへの向き合い方などのアドバイスや、子ども時代の半自伝的な思い出などを綴りながら、信頼する絵本や児童書を紹介したエッセイです。

「なにしろ子どもは親の悪口は、絶対に言いません。もう本当に大好きなんですよ」という、子どもをつぶさに見てきた保育士・中川さんの本の中の言葉に、どれだけ子育て中の私も励まされたか分かりません。

 長年の絵本創作に携わってこられた中川李枝子さんに、謹んで哀悼の意を表します。

 これからも、中川さんの絵本や著作物が、多くの読者の手に届きますように。

後編に続く

★『 本・子ども・絵本 』(中川李枝子著)
中川さんが信頼を寄せる絵本や児童書の紹介、子どもとの向き合い方を綴った自叙伝的エッセイ。子どもと関わるすべての方に読んでほしい本。

★『 アンネの童話 新装版 』(アンネ・フランク著 中川李枝子訳)
アンネが隠れ家で綴った、みずみずしい物語とエッセイ集。中川さんの名訳が光ります。文庫オリジナルの絵は酒井駒子さん(カバーと本文挿絵)、解説は小川洋子さん。

★『 未来のだるまちゃんへ 』(かこさとし著)
著者の絵本作家となる原点を綴った初の自叙伝。
本書解説で、かこさとしさんとのとっておきの秘話を中川さんが綴られています。

〈 “子どもがいなくなったら地球はおしまいです”中川李枝子さんの言葉に込められた想い 〉へ続く

(「文春文庫」編集部/文春文庫)

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