SNSには「ドライバー業務」「日当5万円から」と…「ホワイト案件」と書かれた闇バイトの恐ろしい手口「断ろうとすれば『殺すぞ』と脅された」
文春オンライン / 2024年11月7日 19時30分
藤井容疑者の愛蛇
首都圏を中心に相次いで発生している強盗事件でついに死者が出た。かつて世の中を震えあがらせた“ルフィ事件”に似た闇バイト強盗に、なぜ容疑者らは身を投じたのか。誰もが強盗に狙われる世相、その対策法にも迫る。(全2回の2回目/ 最初から 読む)
◆◆◆
50代女性の監禁の疑いで現行犯逮捕された藤井柊(しゅう)のインスタグラムを見ると、県内で一人暮らしを始めて半年が過ぎた2020年夏、小さな白ヘビの写真を投稿。こんな孤独な言葉を綴っている。
〈女の子全然来ないんで蛇飼いました。大蛇丸っていいます。まぁこの顔じゃ無理かなぁ。〉
人生が暗転するのは強盗事件に加担する1年前、昨年10月のことだった。藤井の知人が打ち明ける。
「飲酒運転をして電柱か何かに突っ込み、免許取り消しになったんです」
遡って2018年、藤井は自宅車庫に納車したMAZDA-CXの写真をインスタグラムにアップ。新車で購入すれば300万円台のシリーズだったが、
「免許を取って初めて買ったのがその車。でも事故を起こして一度免許取り消しになり、免許を取り直してまたやらかした。今は執行猶予中でした」(同前)
仕事は建築関係や介護職など転々としたが、最近は携帯電話販売の営業で東海地方を飛び回りつつ、夜の店でアルバイトもしていたという。それでも金が足りなかったのだろうか、藤井は闇の世界に足を踏み入れる。
「柊と最後に連絡を取ったのは今年10月13日。その時は『仕事が忙しい』と……」(同前)
13日といえば、船橋の事件が発生した後。知人が連絡した時、藤井はすでに一線を越えていたのだ。
藤井の逮捕から約3時間後。同じく市川市のA子さん宅に押し入った自称内装工の高梨謙吾(21)が、神奈川県警に出頭、強盗致傷容疑で逮捕された。高梨はこう供述したという。
「闇バイトに応募し強盗に加担したが、嫌になった」
後藤さんの命が奪われた横浜の事件では、10月19日、自称個人事業主の宝田真(ま)月(づき)(22)が強盗殺人容疑で逮捕されている。
「宝田は、当日の強盗実行役は3人だと供述。指示役に命令されて他の2人を車に乗せ、後藤さん宅まで運んだと」(別の社会部記者)
「ホワイト案件」と書かれた罠
宝田は、国民健康保険料の滞納が数十万円分あったといい、短期間で稼げるアルバイトを求めてSNSで検索。飛びついたのが、犯罪性のないことを示す「ホワイト案件」と書かれた投稿だった。だが、それこそがトクリュウの罠。「ドライバー業務」「日当5万円から」といった文言を駆使し、金に目が眩んだカモを手駒として搦め捕っていくのだ。
食いつくと通信アプリでのやりとりに移行。免許証を持った自撮り画像を送らせるなどし、正体不明の指示役たちに個人情報を掌握される。その先に待ち受けているのは、蟻地獄のような恐怖による支配だ。宝田はこうも供述している。
「途中で犯罪に加担することに気付いたが、家族に危害が加えられるかもしれないと考え、断れなかった」
指示役とのトラブルで、制裁を受けた応募者もいる。
これまで逮捕された実行犯の幾人もが同様の供述をしているほか、実際に制裁を受けた応募者もいる。
「8月末、埼玉県で起きた強盗致傷、逮捕監禁事件です。被害者は34歳の派遣社員で、闇バイトに応募後、指示役と報酬絡みのトラブルに。報酬を渡すと指定された公園で、指示役に雇われた複数の闇バイトから暴行を受けた。さらに指示役は新たな闇バイトに『暴行して現金を奪ってこい』と命令し、暴行の4日後、派遣社員の実家を襲撃させようとした。これらも、同じ指示役グループによる犯行の一部とみられる」(前出・捜査関係者)
「お金に困っているような様子は、全く分からなかった」
宝田の祖父が、無念さを滲ませる。
「家族に危害が、といっても、なぜ犯罪だと気づいた時に思いとどまらなかったのか……」
宝田は千葉県内の自宅で祖父母、離婚した父親と暮らしていた。
「真月は『勉強が面倒くさい』と高校を中退。塗装関係の仕事をしていました。税金の滞納のことやお金に困っているような様子は、全く分からなかった」(同前)
横浜の事件に加わる前日の14日、宝田は夜10時頃に自宅を出て、16日の明け方に帰宅したという。
「後藤さんとそのご家族には、本当に申し訳なく、言葉がありません」(同前)
断ろうとすれば『殺すぞ』と脅された
一方、闇バイトの構造から抜け出せなかったのが住所・職業不詳の森田梨公哉(りきや)(24)だ。9月30日の東京都国分寺市、10月1日の埼玉県所沢市の強盗致傷事件に加わり、公開指名手配になった男である。
「森田は逃走中、埼玉県内の特殊詐欺にも『受け子』として関与。10月7日、新潟県内で身柄を拘束された際も『受け子』の真っ最中で、現金200万円入りの紙袋を所持していた。指示役から『詐欺よりも儲かる』からと提示された仕事が強盗で、森田ら実行犯は、断ろうとすれば『殺すぞ』と脅され、犯行がうまくいくと『よく頑張ったな』と労われた」(別の捜査関係者)
狼藉の限りを尽くす指示役たちは何者なのか。首謀者の一掃に向け、警察の威信をかけた戦いが続く。
◇◇◇
「 週刊文春 電子版 」では、この記事のほか「 闇バイト強盗から身を守る5カ条 」も紹介している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年10月31日号)
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