“濃密な情事”では後ろから抱きつかれ人差し指を口に突っ込まれ…「悪女」「しごでき」キャラの女優・菜々緒が放つ“存在感”
文春オンライン / 2024年11月8日 17時0分
『無能の鷹』(ドラマ公式サイトより)
筆者が彼女のことを最初に耳にしたのは2011年。T.M.Revolution・西川貴教さんとの熱愛が報じられ、「菜々緒」という名を知りました。
当時西川さん40歳・菜々緒さん22歳という18歳差や、西川さん161cm・菜々緒さん172cmという身長11cm差という異色のカップルは世間からの注目を浴び、彼女の知名度は一気に上がりました。そうして一時期スポットライトが当たってもすぐにメディアに消費され、芸能界の第一線からはフェードアウトしてしまうという例は少なくないでしょう。
それから13年。いまや菜々緒さんは演技力を高く評価され、役者として唯一無二の存在感を放っています。
そんな菜々緒さんは現在、金曜23時台で放送中のドラマ『無能の鷹』(テレビ朝日系)で主演していますが、このドラマで彼女は従来のパブリックイメージを逆手に取り、新境地を切り開いているのです。
悪女キャラの“第一人者”になるまで
菜々緒さんが役者として頭角を現したのは悪女役でした。
彼女の連続ドラマ初主演は意外と早く、2012年に23時台で放送されていた『主に泣いてます』(フジテレビ系)で主役を務めます。こちらでは有名画家のモデル兼愛人という役柄で、不倫している主人公でしたが悪女というわけではありませんでした。
菜々緒さんが悪女演技で注目を集めたのは、2014年に沢尻エリカさん主演で放送された『ファーストクラス』(フジテレビ系)。ファッション誌の編集部内で起こる女性同士のマウント合戦を描いた作品で、コネ入社で編集部に居座っている腹黒・毒舌キャラをクセ強で好演。ハマり役だと評判で“役者・菜々緒”の格が上がったのです。
翌年の2015年にはWOWOWオリジナルドラマ『ふたがしら』で時代劇初出演を果たしますが、こちらでも悪女を熱演。
松山ケンイチさんと早乙女太一さんのダブル主演作の『ふたがしら』は、江戸時代を舞台に、盗賊一味から抜けた主人公の二人旅を描いた痛快活劇。
菜々緒さんが演じたのは國村隼さん演じる盗賊一味の初代頭の妻。初代頭が亡くなってしまうところから物語は始まるのですが、かなり年齢差のある夫に先立たれたと思ったら、成宮寛貴さん演じる残忍・非道な二代目頭とも男女の関係になるというしたたかな悪女でした。
濃密な情事シーン「やっかいだねぇ、男ってやつは」
そんな『ふたがしら』で、菜々緒さんと成宮さんによる濃密なシーンが描かれたのです。
第4話では、成宮さんに後ろから抱きつかれ、首元に愛撫されても冷酷な表情のまま、「やっかいだねぇ、男ってやつは」とつぶやく菜々緒さん。成宮さんの右腕が着物の中に入り込み荒々しく胸をまさぐられても抗うことはせず、彼女の顔に彼の左手が伸び、口に人差し指を突っ込まれ悶える……。
愛憎がうずまく複雑な関係性を描いた情事を、表情の変化で見事に演じてみせたのです。これぞ悪女といった貫禄が漂う演技でした。
2015年はそのすぐあと、松坂桃李さん主演の『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(フジテレビ系)という、タイトルに「悪女」と冠されたドラマの悪女役にも抜擢されていました。菜々緒さんが演じたのは、次々と巻き起こる猟奇殺人事件の裏で暗躍するという本格的な悪女キャラだったのです。
こうして「菜々緒と言えば悪女」というイメージが完全定着。
そして2018年、満を持してGP(ゴールデン・プライム)帯の連ドラ初主演を飾ったのが『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』(日本テレビ系)。主人公は「悪女を超えた悪魔」というダークヒロインで、人事コンサルタントとしてオフィス内の闇を暴いては、その長い美脚で悪徳社員にハイキックを食らわしていくといったストーリーでした。
日本の芸能界において悪女の第一人者になった菜々緒さんでしたが、役者として次のフェーズに進んでいきます。
主演にこだわらず“しごでき”キャラへ
それは“しごでき”キャラ。
菜々緒さんの眼光鋭いキリッとした顔立ちと高身長・9頭身のスタイルは、悪女キャラと同じぐらい、有能で仕事ができるキャラとの親和性も高かったのです。
2018年の木村拓哉さん主演ドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)では、将来を有望視された柔道選手という過去を持つ優秀なボディーガード役。
2020年の木村文乃さん主演ドラマ『七人の秘書』(テレビ朝日系)では、空手の有段者で運動神経に優れ、正義感が強い一面もある「警視庁」警務部長秘書役。
2021年の上白石萌音さん主演のドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)では、超敏腕なバリキャリで、毒舌・冷徹で超ドSというファッション誌編集長役。
同じく2021年の鈴木亮平さん主演のドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)では、救命救急の知識と経験が豊富で、主人公の右腕として活躍する看護師役。
2022年の岡田将生さん主演のドラマ『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)では、ただ目の前の患者を救いたいという誠実な信念を貫き、成長していく外科医役。
このように近年は悪女役から距離を置き、しごできキャラでドラマ出演する機会が激増。
『オー!マイ・ボス!』のドS編集長のように“悪女味”があるキャラでも、“しごでき味”に比重が置かれていました。
また、主演にこだわらずにしごできキャラを演じてきたのもポイントでしょう。
ちなみに昨年は『忍者に結婚は難しい』(フジテレビ系)で主演していましたが、こちらもしごできの忍者妻という役どころでした。
これまでのキャリアを逆手に取った“無能キャラ”
こうして悪女キャラ、しごできキャラを自分のものにした菜々緒さんが、現在主演しているのが『無能の鷹』。
彼女が演じる主人公・鷹野ツメ子は、エレガントな見た目や所作で、どう見ても超有能な中堅エース級の風格を備えています。しかし、その正体は衝撃的に無能な新入社員で、PCの起動の仕方がわからない、コピーもろくに取れない、「燃費」を「もえぴ」と読むといった、しごできとは真逆のキャラなのです。
インテリジェンスを感じさせる落ち着いた口調で「難しいことを考えると頭が痛くなるんです」、悪びれもせずにさわやかな笑顔で「私、“なにがわからないのか”わからない」など、迷言を連発し、シュールな笑いを生み出していきます。
鷹野ツメ子は菜々緒さんの新たなアタリ役となりつつありますが、なぜ悪女キャラやしごできキャラで高評価を獲得してきた彼女に、無能キャラもハマっているのでしょうか?
それは、これまで菜々緒さんが演じてきた悪女キャラやしごできキャラの数々が、お笑いでいうところの壮大な“フリ”になっているからだと筆者は思うのです。
菜々緒さんに悪女やしごできのイメージがあまりに強く、一見すると超有能に見えるという物語の根幹設定にしっかりと説得力があるため、仕事が全然できないというキャラがカウンターとなり、新鮮に映る。もちろんそのギャップを計算したうえで、これまで積み上げてきたキャリアをあえて逆手に取るという、大胆な役選びが功を奏したのではないでしょうか。
これまでの役者人生を布石として臨んだ『無能の鷹』、もしかすると菜々緒さんにとって最大の代表作となるかもしれません。
(堺屋 大地)
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