「ヌンチャクを持参して取引現場に…」“紀州のドン・ファン殺人公判”須藤早貴(28)に“氷砂糖”を「3グラム15万円で売った」サングラス密売人が明かす覚醒剤取引のリアル
文春オンライン / 2024年11月8日 6時0分
初公判に出廷した須藤早貴被告=12日、和歌山地裁[イラスト・松元悠氏] ©時事通信
〈 「(呼吸は)していないです。椅子に座って」“紀州のドン・ファン殺人公判”55歳下妻・須藤早貴(28)犯行直後の肉声と家政婦の悲痛「社長!社長!社長!」 〉から続く
2018年5月24日夜、「紀州のドン・ファン」こと和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助氏(享年77)が急性覚醒剤中毒で死亡した事件から6年余。和歌山地裁で始まった55歳年下妻の須藤早貴被告(28)の裁判員裁判が、佳境を迎えている。
殺人罪、覚醒剤取締法違反の罪に問われた須藤は、9月12日の初公判で「私は夫を殺していませんし、覚醒剤を飲ませたこともありません」と否認し、無罪を主張。対して検察側は「被告は夫から離婚を切り出され、遺産目的で殺害した」とし、これまで20人以上の証人尋問を実施してきた。
覚醒剤密売人の男たちが出廷
「10月末までに出廷したのは、捜査に関わった複数の和歌山県警捜査員をはじめ、野崎氏の2番目の元妻、愛人ら複数の知人女性、野崎氏が利用していた交際クラブの社長、野崎氏の会社の番頭、経理担当女史ら元従業員たち他、総勢27人。事件当日、野崎邸にいた家政婦は重度の認知症のため、妹や娘が出廷しています。
多種多様な証人が次々と登場する中、特に注目を集めたのは10月1日の第7回公判。覚醒剤の密売人の男Aが、証言台をパーティションで遮蔽した状態で出廷し、須藤に売ったと証言しました」(司法担当記者)
野崎氏を死に至らしめた“凶器”の覚醒剤は、事件の重要なキーワードだ。そして11月7日の第18回公判。最後の検察側証人として出廷したのが、Aの仲間で、覚醒剤密売人の男Bだった。
別の事件で勾留中の身なのだろうか、警察官に伴われ、手錠と腰紐をつけて法廷に現れたBは、サングラスをかけたまま、弁護側の席に座る須藤を露骨に凝視。裁判長、裁判官らが入廷しても、1人だけ起立することなく、開廷を迎えた。
「Bは一貫して、自分が捌いていたのは本物の覚醒剤ではなく、“氷砂糖”を砕いた偽物だったと証言。後に本物の覚醒剤も扱うようになったが、少なくとも須藤と接触した2018年4月当時は、本物を入手するルートがなかったと。覚醒剤を売ったと証言したAとは肝心な部分で主張が異なりました」(同前)
法廷では、“氷砂糖”を前提に尋問が進んでいく。
「氷砂糖を3グラム、和歌山まで持ってきて」
Bはその当時、ネット掲示板の「裏2ちゃんねる」で、「アイスマン」「アイスクリーム」「薬剤師」などのハンドルネームを使い分け、以下のような釣り針を垂らしていた。
〈鮮度のいい氷、野菜あります。全国対応可〉
氷は覚醒剤、野菜は大麻の隠語として使われるが、氷砂糖を売っていたとするBは「それをどう受け取るかは客次第」と開き直った。
「量は0.3、0.5、1.0。単位はグラム。値段は0.3が8000円から1万円、0.5が1.5万円、1.0が2.8万円くらい。連絡先としてトバシの携帯の番号を載せていた」(Bの証言内容より)
須藤が使っていた携帯電話からBの携帯に着信があったのは、2018年4月7日午後7時過ぎのことだった。
「『サイトを見ました』という若い女の声で、氷砂糖を3グラム、和歌山まで持ってきてほしいと。郵送を提案したが、それじゃダメだ、今日中に持ってきてくれと言うので、配達料や運転手の人件費も込みで、3グラム15万円で取引することにした」(同前)
大阪市内にいたBは、車を持っている友人を呼び出し、市内の自分の自宅から“氷砂糖”が入ったパケ入りの封筒を当時の交際相手に取って来させると、待ち合わせ場所に指定された和歌山県田辺市へ向かった。仲間のAも同行する。
「値段を釣り上げたが値切られたり、しぶられたりすることはなかったので、ラッキーと思った。でも、女の注文は初めてで、『ダンナにバレるから早くして』と急かしてくるし、なんか怪しいなと。ギャングのタタキ(強盗)かもしれないので、用心のためヌンチャクを持っていった」(同前)
高速道路を飛ばし、田辺市内のコンビニに到着したのは、日付が変わった4月8日の午前0時過ぎ。AとBは、客と連絡を取り合う者と受け渡しをする者で役割分担をし、儲けは折半にしていたという。この日はBが注文を受けたため、“氷砂糖”の受け渡しを担当したのはAだ。
「着いたと連絡した時、コンビニの方から通話しながら歩いてくる若い女が見えた。Aが車を降り、俺はギャングを警戒して2人が歩いていった道を車で素通りした。Aから『終わったよ』と連絡があったので、客の女に電話をし、いくら払ったかと確認した。女は15万円だと。確認したのは、以前Aが配達の時にその場で客と交渉し、値段を釣り上げて無断で上乗せ分を取っていたことがあるから」(同前)
「そもそもシャブなんて飲めないって!」
パートナーとはいえ、油断ならない売人同士の関係を明かしたBは、言葉の端々に、これまでの警察や検察の取り調べに対する不満もにじませた。過去に作成した供述調書の内容を訊かれた際は、「(検察)事務官の分際で『1万も2万もする氷砂糖なんてあるわけないだろう!』と怒鳴ってきた」と吐き捨てた。続く弁護側の尋問でも、当時自分が売っていたのは氷砂糖だったと強調。
「氷砂糖は思ったより硬いので、地面に叩きつけたり、ボウルに入れて鉄製のヌンチャクのケツで砕いたりした」(同前)
法廷の空気が凍り付いたのは、検察側からの再尋問の途中、Bがいら立つようにこう発言した時だ。
「検事さんにも言ったじゃん。そもそもシャブなんて飲めないって! オレ、舐めたことあるけどさ。無理だって!」
野崎氏の死因は、多量の覚醒剤摂取による急性覚醒剤中毒。第6回公判では、野崎氏の遺体を解剖した県立医科大教授が、胃の内容物の覚醒剤濃度などから「経口摂取」したことによる中毒と証言している。Bは唐突に、経口摂取の可能性を否定するような不規則発言をしたのだ。被告の自供、目撃者、直接証拠がない中、野崎氏がどのように覚醒剤を摂取したのかは分かっていないが、検察側は冒頭陳述で、覚醒剤をカプセルに入れて服用させた可能性に言及。それが可能だったのは須藤しかいないとしている。
28人目となったBの証人尋問をもって検察側の立証は終了。
「公判の争点は、事件性と犯人性の2つ。野崎氏の死は殺人事件だったのか、だとすれば犯人は須藤なのか。推定無罪の原則を盾に争う弁護側は、その2点を揺るがすべく、被告人質問で、野崎氏が死んだ日の須藤の行動など詳細を明らかにしていくものとみられます」(前出・司法担当記者)
11月8日からは、いよいよ須藤本人の被告人質問が始まる。
(「週刊文春」編集部/週刊文春Webオリジナル)
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