議席が25%減、代表も落選...公明党が“最大の負け組”になっても変わらない「聖教新聞」の“大本営発表”感とは
文春オンライン / 2024年11月12日 7時0分
衆院選で演説する石井啓一代表(当時) ©時事通信社
衆院選の余波は続いているが、その結果を受けて最も注目すべき政党はこちらではないか?
『公明党、比例票600万割れの衝撃 長期低落防ぐ党再建論』(日本経済新聞10月29日)
与党である公明党は24議席を獲得し、公示前より減った。石井啓一代表も落選。支持者の高齢化で組織の足腰が弱り比例代表で600万を割り、およそ20年前から3割超も減少というのである。
このように一般紙ではシビアに報道されたが、では聖教新聞や公明新聞は今回の衆院選をどう伝えていたのか? 前者は創価学会の機関紙であり、後者は公明党の機関紙である。報道ぶりが気になって仕方なかったので調べてみた。
聖教新聞はどう報じたか
まず聖教新聞。選挙スタート(公示)翌日の一面見出しはこちら。『永遠に常勝関西たれ』(10月16日)。
創価学会の原田会長や永石女性部長が関西地区の「最前線の同志を激励」とある。選挙のことだろう。公明党にとって「常勝関西」と呼んできた関西選挙区は最大のピンチを迎えていた。これまでの衆院選ですみ分けてきた日本維新の会と対決になったからだ。絶対に負けられないからこそ会長が激励に駆けつけ、一面でも取り上げたのではないか。
同じ一面の「寸鉄」という短文コラムには『混戦続く兵庫。中央神戸、尼崎の友が渾身の猛追!攻めの行動貫き常勝譜を』(10月17日)など独特の文体で檄が連日飛んでいた。
あれ、大逆転勝利になったのか?
しかし結果は兵庫県内の2選挙区は勝ったものの、大阪府内の4選挙区では全敗。苦戦したのは関西地域だけではなかった。選挙期間中の聖教新聞の見出しを振り返ってもわかる。『大逆転勝利へ 執念の訴え 衆院選あと1週間、公明候補が各地で大攻勢』(10月20日)、『衆院選きょう投票 公明党、必ず大逆転勝利!』(10月27日)。
小選挙区はかつてない厳しい戦いを余儀なくされており大逆転勝利へ、とリード文に書かれていた。では選挙結果はどうだったのか。投開票翌日の一面を見てみよう。
『公明党、激戦突破相次ぐ』(10月28日)
あれ、大逆転勝利になったのか? と思ってしまうが「比例区まず14議席獲得」という切り口だった。翌日の一面は『公明党、4小選挙区で議席獲得』とこちらもポジティブだが、同面に掲載された公明党の声明は「捲土重来を期す」。これがすべてを物語っていた。
ここまでは聖教新聞である。では公明新聞も見てみたい。公明党の機関紙なのでもっと具体的で激烈だと予想したからだ。
公明新聞が“意外な呼びかけ”
まず「主張」(社説のようなもの)を読むと、今回の衆院選における最大の争点は「政治改革」への対応と書いていた(10月10日)。
自民党派閥の政治資金問題によって政治への信頼が失墜する中、公明党はいち早く政治資金規正法の改正を強力にリードしたとし、《結党以来、一貫して「清潔政治」を掲げ政治腐敗と闘ってきた公明党が、その真骨頂を大いに発揮した成果と言えよう。》と胸を張る。
面白かったのは機関紙ならではの周囲への投票の呼びかけだ。SNSの活用を連日訴えていた。
《執念の「1票」の上積みへ友人・知人に公明党を語り抜くとともに、党や候補の実績、政策を手軽に紹介できるLINEなどのSNSも大いに活用したい。》(「主張」10月16日)
電話→SNSの“1票拡大作戦”
翌日には『SNSで「1票」の拡大を!』という特集が組まれていた。「LINEなどで投票依頼 画像や動画を送ること」はよいが、ダメなことには「メールでのお願いや掲載内容の印刷・配布」。丁寧に解説されていて普通に読んでも参考になった。こんな切実な解説は一般紙には無いからだろう。
公明党と言えば久しぶりに知人から電話がかかってきたら「公明党に一票」だったという方もいるのではないか。しかし今は電話ではなくSNS推奨なのだ。ここで思い出すのは「支持者の高齢化」と一般紙で解説されていた公明党の現状だ。年配の人が多くてSNSを使いこなせないという問題はないのか? だから紙面でSNSの使い方に力を入れているのでは? という推察もできた。
ここでも出てきた!「悪夢の民主党」
苦戦を伝える記事もあった。『公明劣勢、野党に勢い』(10月18日)。野党第1党の立憲民主党が議席上積みへという他紙の記事を紹介していた。立憲の情勢に焦ったのか、翌日こんな特集記事が出た。
『“悪夢”の旧民主党政権 再来許すな』(10月19日)
出ました、「悪夢の民主党政権」! 安倍晋三元首相がよく使ったフレーズだ。公明新聞は4面すべて使って旧民主党政権の「大罪」として7つ並べていた。そして日に日に一面の見出しが強烈になってくる。
『あと1週間 総力挙げ激戦突破 政治改革をリード、物価高克服へ』(10月20日)
石井代表を始めとした候補者が叫ぶ顔のドアップが載った10月21日の一面は凄かった。『逆転へ執念の大攻勢を』。3面では、『公明埋没、猛拡大を』とド迫力と悲壮感の見出しが並んでいた。
運命の開票結果と紙面は…
このあとも、『逆転勝利へ大攻勢』(10月22日)、『大逆転へ猛拡大を』(10月23日)、『あと2日 情勢が一段と緊迫 比例区 全国で押し上げを 執念の猛攻、最後まで』(10月25日)そして選挙戦最終日(10月26日)は、『逆転へ 執念の「もう1票」を 今すぐ電話、SNSで訴えよう』。
3面では『全人脈に当たり抜こう!』とあり、頼み忘れや思い込みは禁物と注意喚起。SNSの“友だち”や年賀状の確認をと呼びかける。
投票日当日は『大逆転へ 力の限り 11選挙区で執念の猛追』。よく使われる言葉は「執念」だった。そして運命の開票結果は……
『激戦突破、当選相次ぐ』(10月28日)
ああ、これは聖教新聞と同じパターンだ。「比例区まず14議席獲得」とあくまでポジティブな報道だった。ただ私が読みたかったのは公明新聞による敗因分析だ。自分たちではどう認識しているのか知りたかった。たとえば今回の選挙では自民党の裏金問題が大きな焦点となったが、公明党は次のようなことをしていた。
『公明、「自民裏金議員」35人を推薦 選挙区事情を重視か』(毎日新聞10月15日)
自民が公認を出していない2人にも公明は推薦を出していたのだ(埼玉13区の三ツ林裕巳氏と兵庫9区の西村康稔氏)。選挙区での連携が背景にあるらしいが「公明が掲げる政治改革に矛盾する」と他党から批判が出るのも当然だろう。
もらい事故だったと言いたげな「裏金問題」
公明新聞の「結果分析」(10月30日)を読むと『自民の「政治とカネ」逆風に』とあった。《公明党は、政治資金規正法を改正し規制を強化するなど改革をリードしてきたものの、逆風のあおりを受け、公示前から8議席減の24議席に後退》。
あくまで自民のもらい事故だったと言いたげ。注目したのは11月2日の記事だ。「衆院選結果 識者に聞く」として慶応義塾大学名誉教授の小林良彰氏のインタビューがあった。
小林氏は政治とカネについては公明党が与党にいたから政治改革が進んだと言いつつ、《しかし、自民党が非公認とした候補者を公明党が推薦したことによって、有権者に「与党の問題」という誤解を与えてしまった面は否めない。》と述べていた。
「誤解を与えた」という表現でフォローしているが有権者は誤解はしていないはず。公明党の敗北は支持者の高齢化などの要因もあるだろうが、とにかく権力についていくという長年の姿勢も問われたのではないか? そうした「内からのツッコミ」を機関紙でも読みたかったのだが。
(プチ鹿島)
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