ホストで月収1000万→任せられた店が大失敗→30代で売れなくなり借金生活に…元トップホスト(42)が引退を決意した瞬間「老害っぽくなってるな」
文春オンライン / 2024年12月12日 6時10分
一条氏
〈 「飛ばれた売掛金は高級外車3台分くらい」23歳で1000万プレイヤーになったホストが遭遇した“1晩で400万円失った日” 〉から続く
新宿・歌舞伎町。ホストクラブが軒を連ねるこの街で、トッププレイヤーとして名を馳せたホストがいる。そのホスト、一条蘭氏(42)は23歳で1000万プレイヤーとなり、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
だが、そんなそんな売れっ子ホストでもいつしか「おじさん」扱いされ“老害化”していく。栄光と屈辱を味わった一条氏に、20年間のホスト生活を聞いた。(全2回の2回目/ 最初から読む )
◆◆◆
ホスト生活一番の失敗とは
一条氏が語る。
「僕は36歳まではプレイヤーだったんです。ホストとしては長い方ですね。大体、ホストは30歳前後で一度、プレイヤーとしての見切りをつける人が多いです。僕も26歳で店の代表になってからは、途中でナンバー(ホストの1か月間の売り上げ成績表)からは外れました。30歳前後から、自分の売上を目的にするバリバリの現役というわけではなく、後輩の教育とかお店の売上にも目を向けた役割になっていました。後輩が呼んだお客さんと話して、その子の売り上げが上がるようにサポートするとかですね」
一条氏は26歳で自ら立ち上げた新店の代表に就任した。しかし、この時期が「ホスト生活の一番の失敗」と振り返る。
「売り上げが立たなくて、3年で畳んじゃいました。従業員のモチベーションを上げるマネージャーとしての技量が、当時の僕には足りていませんでしたね。自分のネームバリューがあれば、勝手にお客さんは来るだろうとタカを括っていた部分もあったと思います。当時、僕が所属していたAIR GROUPで畳んだお店がなく、僕の店が閉店第1号になったのもショックでした。そこで責任を取るために、『ホストを辞めます』と会社に言ったんです」
「僕、老害っぽくなってるな」
ただ、一条氏は「全日本ホストグランプリ」に輝いたこともあるなど、グループの成長を支えた人物でもあった。そのため、当時のグループの社長・桐嶋直也氏からは現役引退を引き止められたという。
「ただ、自分の中で一度消えかけた火はなかなか戻りませんでした。新店を畳んでから、グループの本店に所属していたんですが、正直僕はたるんでましたね。周りは新世代のホストが入ってくるし、『僕、老害っぽくなってるな』っていう自覚もありました」
その頃、30代のホストをメインとするグループの新店が立ち上がることが決まり、当然一条氏にも声がかかった。ラストチャンスと意気込んだ一条氏だったが、店のコンセプトとは裏腹に、他店と変わらぬ若いプレイヤーたちが多く所属していた。
一条氏は、この時期にプレイヤーとしての限界を感じたという。
「おじさんじゃん」という目線
「32歳くらいのときでした。そのときは、もう自分より一回り下の女の子が来店するし、後輩もそのくらいの年齢になる。そうすると30歳超えって、完全におじさん扱いなわけです。『おじさんじゃん』という目線だったり、空気はかなり感じました。もちろん、自分自身も見た目が老けていくので、昔より写真指名も減ります。そういうことで自分のプレイヤーとしての味というか、ホストとしての魅力がなくなっているのを自覚しました。それで、売れる気がまったくしなくなっていったんです。『僕なら、まだやれる』と思いつつも、結果が残せない。歯がゆい気持ちでした」
また、新世代のほとんどの客にとって、「ホストの一条蘭」というネームバリューはないに等しかったことも時代の変化を感じたうちのひとつだった。
さらに、みずからが確立していた「お店でしか会えないホスト」という営業スタイルも通用しなくなっていた。
「当時、すでにLINEなどのSNSなどが出始めていたので、それらを駆使したホストの営業活動が一般化しました。同伴、アフターをせず、店でしか会えない男という営業スタイルだった僕は、それに対応できませんでした。なので、常に連絡を取り続けている今のホストたちは、ほんとにすごいと思いますよ」
会社にも借金する生活苦
こうした状況ゆえに、一条氏の生活も破綻していく。当時、一条氏の給料体系は考えられない破格のシステムで、売上がなければ給料がゼロになるくらいのハイリスクハイリターンの条件だった。
「30代で売り上げが落ちると生活ができないレベルになりました。会社にも借金をするほど生活苦に陥ってしまいましたね。それで、もういよいよダメだなと思って、プレイヤーを辞めて内勤になりました」
プレイヤーを降り、運営側に回った
内勤になってからの最初の2年間の仕事はつけ回し(ホストをテーブルに配置すること)。その後、キャッシャー(レジ)などのお金の管理を行った。
「内勤の給料は固定で30万円。プレイヤーの晩年は、これより稼げていなかったので、むしろ給料は上がりました」
とはいえ、長年プレイヤーとして、ピーク時は月4桁近くもらっていたのだから、多少なりとも手元に残ってはいなかったのだろうか。
「なにもなかったです。当時稼いだ分は、実家に仕送りをしたり、家を建て直したりで自分の手元には残らなかったんです。交際費も、それなりにかかっていましたからね。今は都内のマンションの値段が上がっているので、当時買っとけばよかったと心底後悔していますよ(笑)」
現在、一条氏はCLUB ALFのマネージャーとして勤務している。雇用形態は正社員であり、固定給は内勤に転じた当初から20%ほどアップしているという。運営側としてキャッシャーなどなんでも行い、ときにはヘルプでテーブルにつくこともあるそうだ。「将来的には新店を任せてもらって、一回潰しちゃった過去をリベンジできたらいいかな」と将来の展望も語る。
「売掛がないこの時代に売れているホストこそ、本物」
昨今は路上で客待ちをする“立ちんぼ”など、ホストクラブに通うお金を工面するため売春をしていた女性たちの逮捕といったニュースも多数報じられている。一条氏は、現在のホストを取り巻く状況をどのように感じているのだろうか。
「“立ちんぼ”の原因のひとつはホストだと思っています。僕の知り合いのお店でも、おそらく、そういうことでお金を稼いでいるんだろうな、っていう女の子の話は聞いていました。その子は担当に毎日会いに来ているようでした。ホストが女の子に立ちんぼを強要するのはダメですし、個人的にはホストとしてのプライドを持ってやっていたら、そういうことは女の子にさせないよう配慮すると思いますが、すべてのホストお客さんの関係を変えるのはなかなか難しいかもしれないですね。」
このような状況に対し、「ホストクラブの売掛金が一因ではないか」という批判も高まった。それを受け、2023年12月、ホストクラブの経営者らが2024年4月から売掛金を全廃する方針を示した。一部では、手を替え品を替えて、同様のシステムがあるとも言われるが、現在では一応売掛金は禁止とされている。
「それは業界にとって、大きいですよ。ホストにしても女の子にしても無理ができなくなったのは、よかったことだと思います。僕も過去には高級外車3台分くらい踏み倒されて、肩代わりしていますから、そういうホストの被害もなくなるわけです。ただ、そのぶん売上を上げるのは大変になるでしょうね。ただ、売掛がないこの時代に売れているホストこそ、本物なんだろうと思います」
ホストとしての栄枯盛衰を味わった一条蘭氏。「今では自分がどうこうよりも、流川楓(CLUB ALFの社長)などかわいがっていた後輩の元で働けてるのが幸せですね」と落ち着いたように語り、一条氏は白い歯を見せて微笑んだ。
(清談社)
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