「アメリカのご機嫌さえとっておけば、有事の際に助けてくれる」と思ったら大間違い…トランプ大統領のブレーンが危惧する「中国の日本侵攻リスク」
文春オンライン / 2024年11月19日 11時0分
中国が日本や台湾を侵略する際、アメリカは本当に助けてくれるのだろうか? 写真はイメージ ©getty
「台湾と日本にとってまずいのは、彼らが、『アメリカのご機嫌さえとっておけば(つまりそれなりに防衛義務さえ果たしておけば)、いざという時にアメリカが助けてくれる』と考える傾向があることです」
かつてトランプ政権で「外交・安全保障」分野のブレーンとして活躍した、元国防次官補代理のエルブリッジ・コルビー氏はそう語る。新トランプ政権でも要職への任命が予想される同氏が語った「戦争のリアル」とは? 新刊『 アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略 』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
中国に戦争をあきらめさせる
台湾人にとって、そして日本人にとっても非常に重要なのは、正規軍や予備役、彼らの市民社会が自国を防衛できるようにすることです。ここで理想的なのは、私たちが侵略をともに拒否できることを、中国に知らしめ、侵略を始めるのは止めておこうと決断させることです。もっとも『拒否戦略』(日経BP)の中で私はこの閾値が実際には固定的なものではなく、むしろ動的なものであることを詳しく説明しています。
たとえば1941年12月6日のアメリカ人たちは、日本との太平洋戦争には反対していました。ところがその翌日からアメリカ人たちは日本が戦争を始めたと知って、自分たちの利害関係についての認識を劇的に変えたのです。つまり、物事の判断が理性的になり、アメリカは開戦当初には決して考えもしなかった苛烈な国民負担を支持できるようになりました。
この文脈とは別に、台湾や日本、そしてフィリピンやその他の国々が開始しているのは、中国の脅威に対抗するための防衛関係のネットワークの構築です。これはゆっくりですが確実な動きです。
ここで大事なのは、「アメリカは大規模な戦争への準備をしている」と中国側に思わせることなのです。これは少々複雑なアイデアだと感じるかもしれませんし、「コルビーは大規模な戦争を引き起こそうとしているんだ!」と勘違いする人たちもいるかもしれません。
私が目指しているのはその逆です。私は中国の「選択的なサラミ・スライス戦略」によって反覇権連合を崩されるのを防ぎたいだけなのです。むしろそのようなことをすれば戦争になる可能性が高くなるぞ、それは結局のところ中国にとって大きなマイナスになるぞ、と思わせたいのです。
中国が「太平洋における限定的な目的を達成するために第三次世界大戦かそれに近い侵攻を始めよう」と出来心を抱いても、それは無理な話なのであきらめさせるのがよいというわけです。
「アメリカが守ってくれる」の幻想
そこで問題なのは、前方展開部隊と前方部隊、特に台湾の部隊が不可欠であり、台湾の部隊が本当に強力に自国を守ろうとするのかどうかという点です。
冷戦時代にも同じようなことがありました。当時、西ドイツの東ドイツ側の国境沿いには、アメリカ軍だけでなく、NATO軍の巨大な軍隊が配備されていました。そしていざ何かが起こってソ連が大規模な侵攻を仕掛けるのであれば、十分に反撃できるだけの態勢をとっていたのです。もちろんそれは結局起こらなかったわけですが。
台湾と日本にとってまずいのは、彼らが、「アメリカのご機嫌さえとっておけば(つまりそれなりに防衛義務さえ果たしておけば)、いざという時にアメリカが助けてくれる」と考える傾向があることです。それはまったく正しい考え方ではありません。台湾と日本が自己防衛のために多くのことをしてこそ、アメリカは実際にやってきて重要な役割を果たす可能性が高くなるのです。これは自らロシアと闘う姿勢を鮮明にしたことでアメリカの支援を勝ち得たウクライナのゼレンスキー大統領の例を見てもわかります。
私はこの点を説明する際に、日本の歌舞伎の例を挙げています。歌舞伎には、敗れた戦士が退却して刀を振り回す場面があるそうです。しかし、いくら勇敢に刀を振り回しても、戦いに敗れた現実は変わらない。しかし、彼は名誉のために刀を振りかざして退却するのです。実際に台湾が侵攻された後にアメリカがさらに軍事力を振りかざすポーズをとったとしても、それはポーズだけで、実際の戦争で日本や台湾が負けたあとでは元も子もありません。私が心配しているのは、日本や台湾がみずから自国を守る準備をしっかりしておかないと、この歌舞伎のようなことになるということです。
〈 自衛隊だけでは不十分…トランプ大統領のブレーンが「日本はもっと防衛力を強化すべき」と語る理由 〉へ続く
(エルブリッジ・A・コルビー/文春新書)
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