「歌詞忘れてるようじゃ無理か」面接官・菊池風磨の厳しいツッコミが話題…オーディション番組「タイプロ」に学ぶ“理想の採用と人材育成”
文春オンライン / 2024年11月21日 17時0分
because (通常盤)
現在Netflixにて配信されているオーディション番組「timelesz project -AUDITION-」(以下通称の「タイプロ」と表記)が話題を呼んでいる。本番組は、Sexy Zoneからの改名、および中島健人の卒業に伴い3人グループとなったtimeleszが、新メンバーを探すべく既存メンバー自らの手でオーディションを行う企画である。
タイプロは「企業社会の縮図」
2024年11月21日時点で配信されたエピソードは5回。最新回時点で候補者は書類選考と面接を経て36人に絞り込まれており、3次審査では彼らが9人ずつ4つのグループに分かれて各々のパフォーマンスを披露している。エピソードが公開されるたびに様々な評価がSNS上で飛び交っているが、タイプロについて特筆すべきはその感想が候補者に対してだけでなく(いや、それ以上に)審査側であるtimeleszの面々に対しても向けられていることである。
「歌詞忘れてるようじゃ無理か。歌詞はね、入れとかないと」
これは初回エピソードにおける菊池風磨の発言で、課題曲の歌詞・ダンスともに不完全な状態で面接に臨んだ候補者をたしなめる際に発されたものである。このコメントは「菊池風磨構文」として瞬く間にネットミーム化してSNSにおける大喜利の題材となり、菊池がレギュラーを務めるテレビ番組『何か“オモシロいコト”ないの?』(フジテレビ)でシソンヌの長谷川忍や狩野英孝がパロディとして取り上げるなど、思わぬ盛り上がりを見せた。
そんなことが起こるのも、審査に参加するtimeleszの3人──佐藤勝利、菊池風磨、松島聡の真摯さゆえである。彼らの候補者への厳しくも温かい対応は、ファンのみならずビジネスパーソンの間でも共感を呼んでいる。3人の姿は一般社会で何らかのプロジェクトを推進するリーダーの振る舞いとも重なる部分が多く、会社や学校で何かを成し遂げようと努力するすべての人にとって見逃せないものがある。
2020年代以降に顕著だが、近年のオーディション番組は単なるエンターテインメントを超えて、ビジネスパーソンの「仕事術」やリーダーシップに通じるものとしても注目されてきた。たとえば2020年に日本テレビで放送された「Nizi Project」では、総合プロデューサーJ.Y. Parkの参加者に対するフィードバックが「理想の上司像」としてフォーカスされた。また、同じく日本テレビで2021年に放送された「THE FIRST」では、私財1億円を投じてこのオーディションを立ち上げたラッパーのSKY-HIの候補者への敬意を隠さない態度に多くの視聴者が惹きつけられた。SKY-HIが率いる会社BMSGが急拡大しているのも、彼のやり方がビジネスシーンでも通用することを証明している。
タイプロはそんな先例と比べても、ビジネスパーソンの感情移入できるポイントが多いと思われる。候補者の肯定にとどまらないコミュニケーションの多様さが、この企画の「企業社会の縮図」感を強化している。
いかに「カルチャーフィット」するメンバーを選ぶか
タイプロが先ほど挙げたような他のオーディション番組と異なる点は、新しいグループを立ち上げるのではなく、既存のグループに新たなメンバーを加えるためのオーディションだということである。
さらに、新メンバーを選ぶのは第三者としてのプロデューサーではなく、実際にそのグループの一員であるtimeleszのメンバー自身。つまり、候補者は「未来の仲間候補」といえる。
この「既存のメンバーが自ら新しい仲間を選ぶ」という構図が、タイプロをより興味深いものにしている。たとえば、現時点では「選ぶ側」の3人は、いずれは対等な関係を築かなければならない面々に対して、どこまで厳しい態度をとってよいか躊躇する。「選ぶ側」「選ばれる側」の上下関係が、オーディション後もプロデューサーとメンバーという形で続いていく企画ではあまり見られない構図である。
また、すでに日本のトップアイドルとして活動しているtimeleszにはこれまでの活動の蓄積があり、同時に所属事務所の伝統も受け継いでいる。新たなメンバーには単なるスキルの高さだけでなく、そういった文脈にどれだけ合致するかも求められる。この判断基準は、企業が「カルチャーフィット」を重視して採用を行う際の感覚に近い。
ピカピカの経歴やスキルを持つ候補者を採用したにもかかわらず、「社風」に合わないことが原因でパフォーマンスが上がらず、結果的に組織力を低下させてしまう。ビジネスの現場でもしばしば起こりうる問題だ。timeleszの3人がオーディションで行っているのは、まさにこのリスクと向き合いながらの意思決定である。今のtimeleszのスタイルを維持し、さらに新しい風を吹き込むためにはどのような人材が適しているのか? そんな問いが、常に審査の根底にある。
3次審査の冒頭で候補者に課せられたのは「Can do! Can go!」の全員でのダンスだった。timeleszの面々が「あの時(ジュニア時代)を思い出す」「我々の原点」と口々に語った通り、この曲を踊るのは候補者を絞り込む審査であると同時に伝統の継承でもある。グループとして維持すべき「らしさ」を違和感なく表現できる資質が候補者にあるかはこの先の審査でもチェックポイントになるはずであり、企業風土を壊さないための採用活動と重ねて観察すると発見が多いのではないか。
付け加えると、3次審査に顔を出したSUPER EIGHTの大倉忠義の存在も見逃せない。事務所の先輩であり、また自身もグループのプロデュースも手掛ける大倉の登場で、候補者以上にtimeleszの3人にピリッとした空気が生まれたのは印象的だった。
管掌範囲は異なるが当該プロジェクトに影響力を持つ役員がふと現場視察に訪れたような緊張感に、エンタメを楽しんでいるはずなのに会社でのあれこれを思い出して肝を冷やした視聴者もいたのではないか。大倉が見ているのも、候補者のスキルというよりは、timeleszが背負う大きな歴史にこれから関わっていく存在としてふさわしいかという点だろう。大倉が審査に加わることで、現場メンバー以外の視点も織り込みながらカルチャーフィットを確認する体制が強化されていると言える。
面接官およびメンターとしてのtimelesz
優れたエンターテイナーの怜悧な思考とアクションは時に優れたビジネスパーソンのそれと重なるが、タイプロにおけるtimeleszの3人の姿もまさにそういった角度から語られるべきものである。それゆえ、不用意な発言によって詰められてしまったタイプロの候補者を反面教師にすることで、就職や転職活動の採用面接における心構えを読み解くことも可能だ。
たとえば、2次審査の面接で「まだ掴めていない本物の景色を掴みに来ました」と発言した候補者に対して菊池が「本物の景色とは何ですか」と突っ込んだシーン。結局その質問に対する明確な回答は得られなかったが、曖昧な表現で自身の内面を語った場合、経験豊富な面接官であれは必ずそこを深掘りしてくる(昨今の採用面接で語られがちな「成長したい」という志望動機もこれにあたるだろう)。具体的にそれは何なのか、今回のケースであれば「本物ではない景色」とどこがどう違うのか、決まり文句で思考停止せずに突きつめたうえで面接に臨むことの重要性をこの場面は示唆している。
「絶対に負けたくないと思っている」と言いながら、応募書類の記載量の少なさやグループ名の表記ミス(“T”imeleszと1文字目が大文字で書かれていた)を指摘されていた候補者についても同様だろう。「『絶対に負けたくない』とは?」と思われたらその時点でゲームオーバーである。
加えると、突きつめるべきは自身の内面だけでなく、相手側への理解についても同じことが言える。今回のオーディションにおいても、timeleszの活動や歴史をあまりよく知らない候補者が複数見られた。松島が「我々timeleszのことって知ってくれていますか?」、佐藤が「(デビュー曲のタイトルがわからなかった候補者に)デビュー曲はグループ名と一緒だから」と語りかけるのは、知識の多寡以上にどれだけ自分たちのことを知ろうとしてくれているかの姿勢の確認でもある。
書類にEXILEが好きなことを記載して菊池から「だったらLDHの方がいいんじゃないかなと思っちゃうんですけど……」と言われて絶句していた候補者もいたが、たとえばアサヒビールの面接で「キリン一番搾りがずっと好きです」と述べている場面に置き換えればその迂闊さがわかるだろう。企業によっては選考基準として志望動機よりもスキルを重視することも決して珍しくはないが、最低限なぜその面接を受けているか相手目線で語れるくらいの配慮や想像力がないと、その候補者を採用したいと考える面接官はあまりいないと思われる。
また、3次審査では候補者がそれぞれの殻を破れるように3人が厳しいフィードバックを送りつつ、最終的には候補者たちと共に感情を高ぶらせるシーンもあった。特にエピソード5で描かれたteam GREENへのサポートでは、単なる審査員としての距離感を超えて、ともに挑戦を楽しみ、候補者が成長することを喜ぶ姿勢が垣間見えた。この一連の流れは、厳しさと温かさのバランスがいかに重要であるかを示すものであり、人材育成で求められる普遍的な姿勢でもある。
何かを達成するために仲間を探し、その仲間と一緒に大きなゴールを目指す。芸能界に身を置かなくても、多くの人が体験し得るシチュエーションだ。タイプロは、そんな場面に直面した我々がどう振る舞うべきか、エンターテインメントを通じて伝えてくれる魅力的な“教材”である。
(レジー)
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