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旧家で起きた一家惨殺事件、犯人は“一族を統べる老婆”だった…不吉で邪悪な「さかさ星」に込められた凄絶な「呪い」とは

文春オンライン / 2024年11月17日 6時0分

旧家で起きた一家惨殺事件、犯人は“一族を統べる老婆”だった…不吉で邪悪な「さかさ星」に込められた凄絶な「呪い」とは

『さかさ星』(貴志祐介 著)KADOKAWA

 貴志祐介といえば1997年、第4回日本ホラー小説大賞を受賞し、一躍ベストセラーとなった長篇『黒い家』が、何より有名だろう。これは、いわゆる〈ヒトコワ〉(=一番怖い恐怖の対象は人間である……とするタイプのホラー小説)を代表する作品であり、結果的に、90年代末からのホラーの主潮流を成すシンボリックな作品ともなった。

 得体の知れぬ超常的な怪物が暴れまわる話よりも、自分の隣人が実はサイコな究極の殺人鬼だった……とする話のほうが、昨今の風潮(現実の恐怖事件)とも相まって一般の読者にはリアルに分かりやすいし、直接的な恐怖を与えやすい。2010年の山田風太郎賞を受賞した著者の大作『悪の教典』なども、この手のヒトコワ・ホラーの一極点であったと思しい。

 この世ならぬ恐怖をありありと描き出すことこそ、文学本来の役割であると信ずる「超自然原理主義」の評者などは、こうした傾向にやや居心地の悪い思いを感じていたというのが偽らざる心境だったが、著者の近作『秋雨物語』や『梅雨物語』など〈雨降りの日の恐怖〉を追求する暗い連作あたりから妙に風向きが変わってきた。おや、こいつは面白くなってきたぞ……そんな最中に投入された今回の600頁超の大作『さかさ星』で、私の疑念は確信に変わったといってよい。耳慣れない書名は「逆五芒星形」を意味する。五芒星は安倍晴明ブームで一躍注目を集め、世に広まった「聖なる形」だが、それを逆さにすると……不吉で邪悪な意味になることが世界的に知られている。某所の由緒ある旧家に仕掛けられた「子々孫々の絶えるまで続く」世にも凄まじい呪詛を象徴するこの呪われたマークを消去できるか否かが全篇の主題となっている。

 舞台となるのは凄惨な一家惨殺事件が起きた旧家。一族を統べる老婆が、悪霊に憑かれて恐るべき鬼と変じ、家族を惨殺したのだ。一族の末裔で、真相を究明し、残された子供たちを守るため呼ばれた青年・中村亮太は、貧弱なオカルト知識しか持たない新米ユーチューバーで、何とも頼りない。強力な霊能者である賀茂禮子のサポートで、強大な「敵」に対抗しようとするのだが……。

 一方の敵方(最終局面までラスボスの正体は不明)の備えは凄まじい。庭の樹木を縁起の悪い種類に植え変え、曰くつきの「呪物」の数々を邸内に運び込んで、凄絶な「呪い」を全うさせようとするのだ。

 かくして通夜の夜、一族の存亡を賭けた瀬戸際の戦いが繰り広げられることになる。一族お抱えの絵師が残した幽霊画をはじめとする恨みの籠った品々も登場、まさに超常現象の椀飯振舞で、否応なく怪奇ムードを盛り上げている。なお先述の『梅雨物語』収録の一篇「ぼくとう奇譚」は本書と多くの共通点を有する話なので、騙されたと思って併読をお勧めしたい。

きしゆうすけ/1959年大阪府生まれ。生命保険会社に勤務後、作家に。96年『十三番目の人格 ISOLA』でデビュー。翌年『黒い家』で日本ホラー小説大賞を受賞、ベストセラーとなる。2005年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、08年『新世界より』で日本SF大賞、10年『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞。
 

ひがしまさお/1958年生まれ。アンソロジスト、文芸評論家。「幻想文学」「幽」編集長を歴任。著書に『文豪と怪奇』など。

(東 雅夫/週刊文春 2024年11月21日号)

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