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トランプは「米国は中国に対するパワーを持っている」と…安倍からトランプへの“最高の贈り物”とは

文春オンライン / 2024年11月20日 6時0分

トランプは「米国は中国に対するパワーを持っている」と…安倍からトランプへの“最高の贈り物”とは

日米首脳会談 ©時事通信社

〈 大統領選からわずか10日後…トランプと交わした“生々しいやり取り”の全貌 〉から続く

 今年のアメリカ大統領選挙で、根強い支持を誇った前大統領のドナルド・トランプ氏。生前の安倍晋三氏とトランプ氏は、トランプタワーでの初顔合わせから、ゴルフ場、首脳会談、サミットなどでの対話を重ねた。ここでは船橋洋一氏の『 宿命の子 安倍晋三政権クロニクル 』より一部を抜粋。二人のあいだで交わされた“生々しいやり取り”とはどのようなものだったのか。(全2回の2回目/ 前編から続く )

◆ ◆ ◆

中国と北朝鮮、どちらが脅威か

 いくつかやり取りがあった後、トランプが突然、安倍に質した。

「ところで、日本にとって、中国と北朝鮮のどちらがより大きな脅威なのですか?」

 安倍が答えた。

「今の時点での脅威ということでいえば、北朝鮮が脅威です。予想をはるかに上回るペースで核・ミサイル開発を進めています。しかし、長期的な脅威ということで言えば、中国です。中国は米国を西太平洋から追い出そうとしている。日米同盟を破壊しようと考えているからです」

 日本にとっての脅威は、短期的には北朝鮮、長期的には中国である、と安倍は明確だった。

 その上で、北朝鮮に照準を合わせた。

「北朝鮮はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験にも成功した。米国本土に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)を急ピッチで開発している。それに核弾頭を搭載できるように小型化を進めています」

 北朝鮮は、このSLBMを発射することができる潜水艦(コレ級)を1隻保有していると見られている。

金正日について「賢くはなかった」

 トランプは、再び、安倍に質した。

「金正恩はいかれているのか、まともなのか、それとも賢いのか? どうなんですか」

 安倍は、金正恩に会ったことはない。ただ、金正恩の父親の金正日とは会ったことがある。2002年9月17日、平壌での日朝首脳会談に出席するため、官房副長官として小泉純一郎首相に同行した時、正面から金正日と向き合った。

 安倍は金正日について語った。

「彼はサダム・フセインが核兵器を保有していたらイラクは攻撃されなかった、と信じていたのだと思います。しかし、核兵器を持とうとしたのは間違いだった。賢くはなかった」

中国も北朝鮮も米国をなめている

 要するに、金正日は「狂ってはいなかった」が、「賢くはなかった」ということである。そして、それは金正日も金正恩も変わらない。双方とも「米国を自分に振り向かせる状況を作り出そうとしている」だけだと述べた。

 ここで安倍は、北朝鮮の行動は、中国の意向に大いに左右されていると言い、中国に話を戻した。

「中国は北朝鮮の政策を変更させる力を持っています。中国は北朝鮮の石炭を大量に購入しています。中国を北朝鮮の核・ミサイル問題に正面から取り組ませるには、米国が北朝鮮に厳しい姿勢を示すことが一番です。米国が『すべての選択肢はテーブルの上にある』という姿勢を示せば、中国は北朝鮮を真剣に説得するようになるでしょう」

「中国はオバマに北朝鮮カードをちらつかせ、米国を操作しようとしたということですね? 米国をなめているということだ」

「正直言わせてもらえば、その通りだと思います。中国だけではありません。北朝鮮もまた米国をなめています。一例を挙げると金正恩は、弾道ミサイル発射実験の現場を何回も視察しています。金正日の場合、もちろんこれはブッシュ政権の時の話ですが、自分の動静を決して明らかにしようとはしませんでした。ミサイル発射実験視察の映像によって、米国が自分の居場所を突き止めることを避けようとしたのだと思います。それに比べると、金正恩は平気で視察しています。もう怖いものはないという感じです」

「1月20日以降、すべてが変わる」

 トランプはここで自分の対中操縦術について述べた。

「米国は経済面で中国に対するパワーを持っている。私は中国とは良好な関係を目指したいと考えている。中国に北朝鮮の面倒をしっかり見させることだと思う。それができればうまくいく」

 そう言った後、「1月20日以降、すべてが変わる」と付け加えた。

 中国が米国をなめることはない、それはできない、そうはさせない。トランプは勝算ありげだった。

 安倍は、トランプの口からこのような発言が出るとは予想していなかった。

〈経済面で中国に対するパワーを持っている? 何を考えているんだ。トランプは中国にどのようなゲームプランで臨もうとしているのか?〉

「同盟関係を強化し、黄金時代をつくりたい」安倍からの提案

 安倍はトランプに提案した。

「トランプ次期大統領と同盟関係を強化し、黄金時代をつくりたいと考えています。かつて、米国のレーガン大統領、日本の中曽根首相、英国のサッチャー首相という三巨頭が力を合わせ、冷戦期に旧ソ連に打ち勝ったことがあります」

 1980年代、企業と市場の力を最大限活用し、成長とイノベーションを促進する新自由主義の旗印を掲げ、同時に、欧米と日本の西側が「安全保障の一体化」を図り、東側との体制間競争に打ち勝った日米欧の戦略連携を、自分がトランプと手を携えて追求していきたいとの夢である。

 その際、今回は、対象とする相手はソ連ではなく中国である。

「米国に挑戦している中国に対して、平和的台頭を促していきたい。米国と力を合わせてそうしたいものです」

 安倍の説く日米欧の対中連携の重要性に、トランプは反応しなかった。

憲法解釈の変更により、いざというとき米国を助けることができる

 トランプはそれまで米国の同盟国は“ただ乗り”していると攻撃していた。かつてはトランプの矛先はどこよりも日本に向けられていた。大統領になってからも日本に対してただ乗り攻撃をやられたら同盟が揺らぐ。

 安倍政権になってからの日本の防衛努力と同盟の重要性をトランプに説明しておく必要がある。

「日米同盟が基軸です。それをもっと強くしたい。これまでの日本の憲法解釈では日本を守るために公海上で活動している米軍の艦船に対して攻撃が行われた場合、日本は助けることができませんでした。しかし、私の政権は憲法解釈を変更し、集団的自衛権を限定的ではあるが行使できるようにしました。同盟は互いに助け合うことで維持できる、それができない同盟は維持できない」

 日本は、いざというとき、米国を助けることができるし、そのつもりである。日米同盟は、ようやく本格的な同盟となったのだ、安心してほしい、と安倍は誇らしげに告げた。

「それを可能にした法律の制定に対して、強い反対が国内ではありました。国民の6割までが反対しました。首相官邸は、連日、反対のデモに取り囲まれました。しかし、これらの法律が成立してから1年以上が経ちますが、いまでは国民の半数以上がこの法律を維持するべきだと回答しています」

安倍からトランプへの贈り物

 トランプは言った。

「我々が、大統領と首相でいる限り、日米関係は盤石です。ところで、次の選挙はいつですか?」

「衆議院議員の任期は2年残っています。自民党総裁としての任期も2年残っています」

 会談は1時間半に及んだ。途中、何度も笑いが洩れ、和やかな雰囲気に包まれた。 

 安倍は部屋の外で待機していた鈴木浩首相秘書官を呼び寄せた。

 鈴木は大きな細長い箱を抱えて入って来た。開けたところ、金ぴかのドライバーが出てきた。本間製である。

「ん?」

 トランプはやおらそれを手に取ると、エントランスホールのところで構え、ワッグルして見せた。 

 トランプは安倍を見送るため、下りのエレベーターに一緒に乗った。

「トランプ次期大統領は大変なゴルフ好きでいらっしゃると聞いていますが、私もゴルフが大好きです」

「トランプにとってあの金のドライバーは最高のギフトだった」

「それはいいことを伺った。ハンディはいくつですか?」

「18です。あなたのベストスコアはいくつですか?」

「66」と言って、トランプは笑った。「たまたま運が重なっただけの話です。ぜひ、一緒にやりましょう。パームビーチでもドラルでもどちらでも。ターンベリーでもいい。あそこも私が所有しているコースです」

 スコットランドのターンベリーは全英オープンを開催する名門コースの一つである。

 安倍を送り出した後、トランプは安倍から贈られたドライバーを再び、手にし、満足そうに眺めた。

「トランプにとってギフトはすごく大きな意味を持つのだが、あの金のドライバーは最高のギフトだった」

 フリンはそう振り返った。

(船橋 洋一/ノンフィクション出版)

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