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「女性はいまだにプリンセス願望を持っている」恋愛しない女性が大物脚本家の発言に「はて?」…ドラマ『若草物語』に受け継がれた『虎に翼』精神

文春オンライン / 2024年11月17日 17時0分

「女性はいまだにプリンセス願望を持っている」恋愛しない女性が大物脚本家の発言に「はて?」…ドラマ『若草物語』に受け継がれた『虎に翼』精神

『虎に翼』公式Xより

 朝ドラ『虎に翼』(NHK)が終わって、ロスになっていた人も多いのではないだろうか。しかし、10月に入り、今期はドラマが豊作である。その中でも、特に『虎に翼』の中にあるフェミニズムの精神を受け継いでいるように見えるのが『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私』(日本テレビ)である。ふたつの作品には、どのようにフェミニズムが描かれていたのだろうか。

「はて?」と「スン」という発明『虎に翼』

『虎に翼』は、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)が、さまざまなことに対して「はて?」と疑問に持つところからスタートする。彼女が「はて?」と思うことは多岐にわたる。最初の「はて?」は、お見合い相手に世界情勢について話したら喜ばれたので、対等に話せると思い持論を展開すると「女のくせに生意気な」と言われたときだった。

 その後の「はて?」は、下宿人(で、後に夫になる)の優三の通う大学にお弁当を届けに行ったときに法律の授業をたまたま見かけ、そこで民法に「主婦は無能力者である」と書いてあることを知ったときである。しかし、このことをきっかけに寅子は法律を学ぶこととなる。

 寅子が感じる「はて?」という問いは、今では当たり前のように疑問に感じる人もいるかもしれない。しかし、気付かぬところにまだまだ「はて?」は残っているし、なかなか「はて?」とは言えなかった人もいるだろう。「はて?」とは言えずに、それをぐっと自分の中に押し込んでなんでもないふりをしている状態を『虎に翼』では「スン」と表現した。率直に疑問を呈したり、言い返したりできなかったとき、人は「スン」となって、その疑問を内に閉じ込めてしまうものだ。

『虎に翼』において、この「はて?」と「スン」は、視聴者が寅子たちと感覚を共有するための「発明」であったと感じる。

 寅子だけではない。寅子以外のキャラクターにも、ひとりひとりのフェミニズムの問いが描かれていた。

 印象に残るものでいうと、寅子とともに明律大学で法律を学ぶ、既婚者の梅子(平岩紙)の場面だ。彼女は夫からモラハラを受け続け、堂々と婚外恋愛をされ、そのくせ、夫と姑と息子のケアはすべてさせられていた。家制度の問題点を一身に受けているような彼女が、家族との決別を告げるシーンには、晴れやかなものがあった。

 女子部の仲間である山田よね(土居志央梨)は、普段からパンツスーツなどを身に着け、言葉遣いにしても他の女学生のような所謂「女性らしい」(と思われているような)ところがない。また、「私は男になりたいわけじゃない。女を捨てたかっただけだ。自分が女なのかと問われれば、もはや違う。恋愛云々は、男も女も心底くだらないと思っている人もいる」とも言っている。

 花江(森田望智)は、猪爪家に嫁にきて寅子の義姉になり、家の中から家族を支えている。寅子とは対極であるが、ときおり、寅子たちのようにバリバリと外で働く女性と自分を比べて、自分の存在意義に悩む様子がリアルであった。しかし、女性が総じて「外」で「活躍」をすることだけが正しい生き方ではない。

 フェミニズムは一人一派と言われている。フェミニズムの考え方のベースは同じであるが、その表出の仕方は違う。『虎に翼』では、いろんな女性の生き方があり、その悩みはそれぞれであると描くことで、様々なフェミニズムのあり方を示していた。

 では、それに続くドラマとして期待されている『若草物語』はどうだろうか。

四姉妹それぞれのドラマと人生『若草物語』

 このドラマは、タイトルの通り、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』を原案にしたドラマである。脚本は『家売るオンナの逆襲』『悪女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』の松島瑠璃子。

 主人公はドラマの制作会社で働く次女の町田涼(堀田真由)だ。涼もまた、寅子のように疑問を持つことが多く、おかしいと感じたら、すぐに主張するタイプである。

 高校時代には、三女の衿(長濱ねる)と電車で通学している時に、車内に婚活、ダイエット、脱毛の広告があふれていることに対して疑問を呈す。仕事の現場でも同様で、涼が担当するドラマの大物脚本家・黒崎潤(生瀬勝久)から、「どんどん恋しないともったいない」などとアドバイスされると表情を曇らせる。

 黒崎は、一見、人当たりがよく、女性のよき理解者だという風にふるまう。しかし「やっぱり男は本質的には女性にはかなわない」とか「女性ならではの視点が欲しい」とか言いながら、「フェミニズムを押えておけばトレンドには乗れるかもしれないが、実際の女性はいまだにプリンセス願望を持っており、シンデレラのような物語がウケる」と考えている人だ。

 黒崎のセリフにぎゅっと凝縮されているようなことを言われた人は無数にいるのではないだろうか。

 また、涼は恋愛感情についてよくわかっていない人物として描かれている。しかし、彼女の高校時代からの同級生で、現在は新聞記者をしている行城律(一ノ瀬颯)は彼女に密かに思いを寄せているのだった。律は、恋愛するのが当たり前とは考えない涼に対して、自分が恋愛感情を向けることは、暴力的になりうるかもしれないと理解している描写にひとまずほっとした。これまでのほかのドラマでは、フェミニズム的な問題提起はあっても、最終的には恋愛至上主義に至る結末のものも多かったために、『若草物語』も最終的にどのような着地点にたどり着くのかはわからないが、タイトルの「恋せぬ私」を信じて見守っている最中だ。

 涼以外の姉妹も、それぞれに悩みを抱えている。四女の芽(畑芽育)は、彼氏の浮気で別れたばかり。そんなところに、服飾学校の同級生の沼田灯司(深田竜生)が現れ、恋してしまう。つかみどころがなくミステリアスな沼田に振り回されている感があるが、登場人物の中では、芽はもっとも「恋する」キャラクターである(姉妹の母親も恋する女性であるが)。むしろ沼田のほうが年上の女性と親しくしてお金をもらっていることで、専門学校の同級生から偏見を向けられていたりと、悩みも多く気になるキャラクターでもある。

 長女の恵(仁村紗和)は、ハローワークで働く非正規職員。交際相手は、同じくハローワークで働く正規職員の小川大河(渡辺大知)。彼は非正規職員とつきあっていることを隠そうとしている。この小川大河が、一見、可視化しにくいミソジニーを持った男性である。恵の先輩の40代の非正規職員・佐倉治子(酒井若菜)が上司からセクハラをされていても、狡猾に逃げるし、恵が結婚をしないのなら別れると告げると、うやむやな態度をとる。実は、社会にもっとも潜んでいるタイプの男性なのではないだろうか。

 二人で一緒にボーリングに行っているときも、大河は恵にアドバイスばかりするものの、恵の方がスコアがよくなると、すぐに不機嫌になる場面が細かく描かれていてリアリティがあった。

 三女の衿は、いつからか行方不明で現在は不在である。彼女がいなくなった理由はまだ示されていない。

 このように、何人かいる登場人物のひとりひとりに光を当てることで、それぞれのフェミニズム的な問いを表現できるというのは、『虎に翼』と共通したものがある。

 しかし、『虎に翼』や『若草物語』のような、フェミニズムを描いたドラマはこれまで作られてこなかったのだろうか? よく、「日本のドラマはつまらない」という声を聴くことがあるが、こと性描写に関してはまだまだ韓国や中華圏で映像として表現するにはタブーが多い中で、良い意味でも悪い意味でもタブーが少なく、自意識や内面についての描写の多い日本の作品とフェミニズム表現というのは、相性がいいとも感じる。

結婚で家事労働がタダになる?『逃げ恥』

 もちろん、昔からフェミニズムを感じるドラマはあったにせよ、その考え方を、直接セリフなどに落とし込んだのは、2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)が早かったのではないかと考える。

 海野つなみ原作、野木亜紀子脚本のこのドラマは、“ムズキュン”という言葉も生まれたくらいで、ラブ・コメディというイメージも強い。しかし、物語は主人公の森山みくり(新垣結衣)が、大学院を出ても正規の職に就職できず、派遣社員として働き仕事をそつなくこなすも、そうした態度を「小賢しい」と言われてしまったり、学歴や仕事っぷりから「ほかでもやっていけるだろう」とみなされ、あきらかに失敗の多い若い女性の派遣社員ではなく自分が派遣切りにあってしまうところからスタートする。つまりは、女性の労働問題が描かれているのだ。

 その後は、父の知り合いという縁で紹介された津崎平匡(星野源)の家で家政婦として働き始める。みくりと平匡はお互いの利害が一致したために契約(当初は偽装である)結婚をして、その後、二人の間には恋愛感情が芽生える。しかし結婚がちらつくようになると、みくりにとってそれまでは賃労働であった家事が、奉仕に変わって当然となる。その矛盾をこのドラマは「好きの搾取」と表したのである。結婚を機に、ケアが無償で当然となる感覚への疑問をここまで見事に示したドラマを初めて見て衝撃を受けた。

まだまだあるフェミニズムドラマ

 去年の末から今年の1月まで放送されていた『SHUT UP』(テレビ東京)というドラマは、インカレサークルを立ち上げた一流大学の男性と、学費をバイトで賄い、ギリギリの暮しをしている外部の女子大生が望まぬ妊娠をしたことから始まる。女性の貧困、格差社会、そして、現実にも古くは早稲田大学のスーパーフリー事件や、有名大学のサークルの組織的な性暴力事件などを思わせる世界を描き、その問題点にまっこうから挑んだドラマであった。

 こうしたフェミニズムを描くドラマは、ここに挙げたものだけではない。『虎に翼』脚本家の吉田恵里香にしても、2020年には『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』の中では、男性と男性の恋愛において、性的な行為の前には、お互いの同意がいるのだということを描いていた。また同ドラマの中には、アロマンティック・アセクシャルのキャラクターが登場して、それが『恋せぬふたり』(NHK)や、そして『虎に翼』へとつながった。吉田もまた、フェミニズムドラマの系譜の中で、次々とドラマを生み出している作家なのである。

『若草物語』に限らず、これからもさまざまなドラマにフェミニズムは描かれるだろう。話題にならないとなかなか一般的なところまでは届かず、日本のドラマには、フェミニズムが描かれないと嘆かれることも多々あったが、『虎に翼』が注目され、今後もますますこうしたドラマが作られることで、フェミニズムに関心がなかった人にも届き、自分の苦しさを救うヒントがあるのだと知る機会になればと願う。

(西森 路代)

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