「そんな飛ぶ?」「何を投げても抑えられる気が…」大谷翔平にホームランを打たれた男たちの告白
文春オンライン / 2024年11月22日 11時0分
ワールドシリーズに初出場した大谷
「2カ月前の練習試合でも勝ったし、この試合も普通に投げれば勝てるだろう」
マウンドに立った少年は、打席に入る大谷翔平を見ながら、こう思っていた。
◆◆◆
中学1年生だった大谷の、独特な雰囲気
2007年6月3日、福島県郡山市の開成山野球場では、全日本リトルリーグ野球選手権東北連盟大会の決勝戦が行われていた。
当時、中学1年生だった大谷が所属していたのは岩手県の水沢パイレーツ。相手は青森県の長者レッドソックスだった。この試合に先発投手としてマウンドに立ったのが、石塚凱(がい)さん(30)である。
「あの頃の大谷は、背は高かったけれど体は細かった。でも、いざ打席に立つと言いようのない独特な雰囲気があったんです」
初球は外角に投げ込んだ直球で空振りを奪い、2球目の変化球はストライクゾーンから少し外れた。
「とにかく大谷には打ちづらいコースだけを攻めろ」
試合前に監督から言われていた言葉を思い出し、3球目は内角低めの直球をキャッチャーミット目がけて投げ込んだ。ところが――。
「あぁ、やられたな……」
打球は右中間を切り裂き、その勢いのままフェンスを軽々と越えて行った。
「こりゃもう抑えるのは無理だなって(笑)」
「次の打席は監督の指示で敬遠したんですが、最初の印象が強すぎて、もう何を投げても抑えられる気がしませんでした」(石塚さん)
結局、試合は2対19で大敗。石塚さんは途中降板することになった。
「それでも自分は負けず嫌いなので、今度対戦することがあれば抑えてやろうと思っていました」(同前)
だが、地元の公立高校に進学後、テレビ画面で見た大谷を見て考えが変わった。
「春の甲子園で大阪桐蔭の藤浪(晋太郎)から本塁打を打った大谷の姿を見て、こりゃもう抑えるのは無理だなって(笑)」(同前)
その後は不思議と大谷の活躍を毎回チェックするようになったという。
「やっぱり一度対戦しているから気になっちゃって。プロに入ってからも毎試合結果を見て、応援するようになりました」(同前)
打たれる気がしなかった
その大谷がプロ野球選手として初めてホームランを放ったのは、13年3月17日。千葉県鎌ケ谷市にある日本ハムの2軍球場で行われた中日とのオープン戦だった。対戦した山内壮馬さん(39)は、当時プロ6年目。その頃の大谷の印象についてこう回想する。
「正直、毎年騒がれる“怪物ルーキー”の1人としか思っていませんでした。線も細いし、打席に立っても威圧感は感じなかったし」
それまでの大谷の成績は8打数無安打。打たれる気がしなかったという。しかし、3回裏に回ってきた第2打席。外角に投げた直球が少し甘めに入った瞬間、ボールが宙に消えた。
「やられたというより、やっちゃったなと……」
山内さんがそう感想を漏らす特大弾の推定飛距離は130メートルほど。ライトスタンド後方に設置されたネットに突き刺さった。
「そんな飛ぶ?」
心の中で思わずそう呟いてしまったほどだ。
「全ての球で気を抜くことが出来ない」
同様の感想を口にするのは、大谷に合計3本のホームランを打たれた元オリックスの東(とう)明(めい)大貴さん(35)。NPBで最も大谷にホームランを打たれた男である。
「打たれた瞬間は(スタンドに)入らないだろうと思っていても、意外にポーンと伸びていくんですよね。彼は元々ホームランを打つ技術が高い上に、失投も見逃さない。だから投手は、全ての球で気を抜くことが出来ないんです」(東明さん)
前出の山内さんは、大谷のプロ初ホームランを許したその年の6月、公式戦で投げ合うことにもなった。
「ただ、その試合でも負けてしまい、悔しくてしばらくは引きずっていました」
悔しかったはずの思い出が“いい思い出”に
16年に引退して以降は冒頭で登場した石塚さん同様、大谷の活躍をチェックするのが欠かせなくなった。
「年々、体つきと同時に存在感も大きくなっていき、悔しかったはずの思い出が“いい思い出”に変わっていきました。大谷って、試合後のコメントひとつとっても性格の良さが滲み出ているじゃないですか。それで人として応援するようになったんです」(同前)
これまで大谷との対決をあまり人には語って来なかった石塚さん。最近、野球を始めた小学2年生の息子に、大谷に打たれた映像を見せたという。
「そうしたら『お父さん凄い』とは言ってくれず、『大谷になりたい』と(笑)。あの頃は悔しかったけど、今となっては光栄なことですよ」(石塚さん)
大谷のホームランには、打たれた男たちすら魅了する力が宿っている。
◆ ◆ ◆
「 週刊文春電子版 」では、「 真美子夫人&デコピン新居購入 」「 懲りないフジテレビ 」など「大谷翔平3大秘話」を詳報している。
〈 大谷翔平「6億円記念球」日本人社長2人が明かした「分刻みの入札デッドヒート」《終了2分前、「もしかしたら買えるかも」と思ったその時…》 〉へ続く
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年11月7日号)
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