ミュージカル俳優・宮澤エマが“語らずにはいられない映画”とは?『シカゴ』『ムーラン・ルージュ』……
文春オンライン / 2024年11月25日 6時0分
宮澤エマ氏
ミュージカル俳優の宮澤エマさんが、「あなたに見てほしい映画」を紹介。ミュージカルを見慣れていない人でも、世界観に没入できる映画が選ばれている。
◆◆◆
2000年代以降のミュージカル映画をピックアップ
米国で過ごした幼稚園の年長の頃から歌やお芝居が大好きで、『サウンド・オブ・ミュージック』や『メリー・ポピンズ』、『アニー』などのクラシカルなミュージカル映画をビデオで何度も繰り返し観ていました。ディズニー映画にも親しんで育った世代です。オススメ作品はたくさんあるのですが、中でも2000年代以降の、私にとって同時代的な作品を中心にピックアップしました。
まずは『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)。1957年にブロードウェイで初演、61年に映画化された名作です。私も実際に舞台で演じたことがあります。61年版はもちろん名作中の名作ですが、敢えてスピルバーグ監督の2021年版を取り上げるのはなぜかというと、格差と分断の現代だからこそ、もう一度『ウエスト・サイド』なんです。未だにはびこる階級や人種、性など様々な差別の問題を改めて世に問うた。そこが素晴らしいと思うんです。
ただ、今の世代はギャングが優雅にバレエを踊るということが理解できないかも知れない。そこで今回の振り付けはオリジナルに敬意を払いつつ、もっとストリート感がある、躍動感がある踊りを取り込んでいます。大作詞家であるスティーブン・ソンドハイムの歌詞についても、リスペクトを持ちながら、見直しがたくさん行われていて、全く違う色味に仕上げています。主人公のマリアも強い意志を持つ現代的なヒロインになっていて、その役作りには女性たちの声が反映されているそうです。古典を今生きる世代に伝え直すことを成し遂げた傑作です。
ミュージカル映画が下火になっていた頃にもう一度、人気に火を点けたのが、『シカゴ』(02年)と『ムーラン・ルージュ』(01年)。どちらも新しいミュージカル映画のかたちを作り出した作品です。
ミュージカルは、舞台だと歌と踊りのパワーが直に観客に伝わるので「登場人物が突然歌い出す」というそもそもの違和感を飛び越えやすいのですが、映画になると客観視する距離が生まれてしまう。観客が現実に戻りやすいという問題をどう飛び越えたかというと、『シカゴ』はすべてが夢の世界だという設定にしたんです。登場人物たちが思い描くなりたい自分や、願望の融合がシームレスで、見ている側が自然と夢の中に入っていける作りが新しかった。天才振付師ボブ・フォッシーの、オリジナリティ溢れるダンススタイルも含めて、ミュージカル好きなら語らずにはいられない作品です。
『ムーラン・ルージュ』も、ミュージカルに対して固定観念や苦手意識がある世代に向けて、彼らが知っているポップソングスで紡ぐという手法でハードルを下げました。時代設定は1899年、ボヘミアンの世界観ですが、あえて現代のポップソングスを取り入れることで、昔の話でも今の感情で観ることができます。マリリン・モンローの『Diamonds Are A Girlʼs Best Friend』やマドンナの『Material Girl』、ビヨンセの『Single Ladies』といった現代のヒット曲のフレーズをニコール・キッドマンが歌う。一方で、物語は身分の違う2人が引かれ合っていくという「ロミオとジュリエット」的な古典的ラブストーリー。それをモダンな楽曲と融合させていく、いわば“ニュークラシック”ですね。
「ジュークボックス・ミュージカル」の秀作
クリント・イーストウッド監督の『ジャージー・ボーイズ』(14年)は「ジュークボックス・ミュージカル」の秀作。書き下ろしではなく既存の楽曲を使ったミュージカルで、比較的新しいジャンルです。実在の音楽グループ、ザ・フォー・シーズンズの物語を、彼らの楽曲を使って描いています。『Can’t Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)』は彼らの大ヒット曲ですが、フランキー・ヴァリほかメンバーの人生に起きたことや心情と、その時に発表した曲が響き合う。街角で歌っていたストリート・ミュージシャンがどうやってスーパースターになっていくのか。耳慣れた往年の人気曲に乗せて展開する実話を基にしたストーリーには引き込まれるはず。これぞジュークボックス・ミュージカルの醍醐味で、フレディ・マーキュリーの生涯を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)なんかも同じスタイルですね。
◆本記事の全文は、「文藝春秋」2024年12月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(宮澤エマ「 ミュージカル映画 歌って笑って泣ける新古典 」)。
全文では、宮澤さんが『レ・ミゼラブル』(2012年)、『ラスト5イヤーズ』(2014年)などの作品について語っています。
特集「あたなに見てほしい映画」記事一覧
ミュージカル映画 歌って笑って泣ける新古典 宮澤エマ
韓国映画 個性派俳優の至芸を楽しむ 國村隼
アウトロー映画 大衆には叶わぬ乱暴狼藉の夢 伊藤彰彦
クセモノ俳優映画 笑いの骨と性悪の骨 芝山幹郎
愛と恐怖の映画 歪んだ愛に震え上がる 中野京子
アニメ映画 アニメーターである僕の原点 本田雄
女優の映画 映画会社が養成した本物の魅力 石井妙子
戦争映画 元陸将も納得の戦闘シーン 山下裕貴
スパイ映画 国際情報戦のリアルが見えてくる 北村滋
サイレント映画 スクリーンから音が聞こえる 内藤篤
(宮澤 エマ/文藝春秋 2024年12月号)
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