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“オバマのファン”だったイーロン・マスクがトランプ派に転じて家族をぎょっとさせた一言とは「2024年のトランプ再選なんてまず無理だろ?」

文春オンライン / 2024年11月20日 7時0分

“オバマのファン”だったイーロン・マスクがトランプ派に転じて家族をぎょっとさせた一言とは「2024年のトランプ再選なんてまず無理だろ?」

ドナルド・トランプ前米大統領とイーロン・マスク ©時事通信社

 トランプ新政権のもと“政府効率化省”のトップとなるイーロン・マスク。のみならず、国内外の政治の表舞台にトランプとともに連日登場。あつい信任を得た“最側近”さながらである。しかし、マスクはかつてトランプを「ペテン師」と呼んで嫌っていた──ベストセラー公式伝記 『イーロン・マスク』 (ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)から、マスクの驚くべき “変遷”を紹介する。

◆◆◆

 “リストラ王“としても有名なイーロン・マスク。トランプ新政権では、“政府効率化省“のトップに抜擢され、6兆7000億ドルの政府支出のうち「2兆ドル(約310兆円)は削減できる」と豪語している。

 2022年に買収したツイッター社では、乗り込んで3週間のうちに社員の50パーセントを削減する“粛清”を行なった。“政府のリストラ”を期待するトランプに対し、マスクは早速こう応えている。

「最大限の透明化を確保するために、すべての活動をオンラインで公開する」

「税金の最もばかげた使い方ランキングも用意する」

 巨額献金やXでの応援発信によって再選を支え、トランプからのあつい信頼を得たマスク。それゆえマスクが率いる電気自動車(EV)メーカーのテスラや宇宙開発ベンチャーのスペースXなどへの規制緩和が見返りとしてあるのでは、とも囁かれてきた。

 まさに蜜月状態にあるふたり。だが意外かも知れないが、マスクはかつてトランプのことを「ペテン師」と呼んでいた。

トランプについて「米国に資する性格ではないように思う」

 そこから、いつどのタイミングで、マスクとトランプは歩み寄っていったのか。以下、時系列で順を追ってみよう。

 前回トランプが当選した2016年の選挙では、今回とは真逆にトランプ批判を痛烈に行っていたマスク。

「米国に資する性格ではないように思う」

 とまで、テレビのインタビューに答えている。

 だがいざトランプが当選すると、楽観的な見方に転じる。

「選挙戦のおかしな言動はあくまでパフォーマンスであり、実際にはもっと堅実な政権になるのかもしれない」

 それゆえ同年12月に友人でペイパル創業者のピーター・ティールに誘われると、トランプタワーを訪れることにした。

 ふたりきりになったとき、トランプはマスクにこう語った。

「友だちにテスラを1台もらったんだけど運転したことないんだよね」

「NASAを復活させたい」

 テスラとスペースXを率いるマスクはガッカリする。そののち大統領就任式でホワイトハウスを訪問した際にもトランプの言動を観察し、以下のような結論に達する。

「トランプは世界でもトップクラスの大ぼら吹きかもしれません」

「ペテン師なんだと考えれば、トランプの言動も、ある意味、納得することができます」

 やがて気候変動と戦うパリ協定からアメリカが離脱したのをめどに、マスクは大統領諮問委員会を抜けた。脱CO2を掲げる電気自動車メーカーであるテスラとは、利益が相容れなかったのだ。

「もう4年、やる気はないか?」という質問にマスクの目の色が変わった

 2020年5月、スペースXのファルコン9ロケットが、人を地球周回軌道に送り込むことに成功する。現地の発射台そばで見届けたトランプ大統領(当時)は、管制塔を訪れてお祝いを述べた。

「宇宙について大きなメッセージが世の中に示されたのは50年ぶりだ。すごいことだよ」

 そしてマスクのところまで来て、こう尋ねた。

「もう4年、やる気はないか?」

 このとき、マスクの目が遠くを見るものに変わったという。

 そして、同じ年にコロナ禍が起きる。これをきっかけに、マスクの政治姿勢は変化してゆく。郡の当局から工場閉鎖が命じられると、自由を求めるマスクは規制に反発。かつてはオバマのファンで資金集めに協力したこともあったが、民主党進歩派を批判するようになる。

 2022年の初頭、ツイッターの買収を密かに計画していたマスク。

 ポリコレやウォークに席巻されたツイッターが、右派の不平や不満をおさえ過ぎている、言論の自由が多ければ多いほど民主主義にとっていい、と考えていた。

 トランプのことはあい変わらず嫌いだったが、元大統領がツイッターから永久追放されるのは違うと考えた。ツイッターの検閲制度はおかしいと、テック系リバタリアンの友だちにも後押しされた。

 ちなみに、マスクがアンチ・ポリコレ、アンチ・ウォーク、反民主党的な価値観を加速させた理由のひとつに、愛する息子(現・娘)が、性転換手術を受け、急進的な社会主義に傾倒。大金持ちである父親のマスクを拒絶したことへの悲しみもあった。

恋人から「なにそれ? 4ちゃんででも拾ってきたの?」と言われ…

 この年のあいだ、マスクの政治態度は揺れ動く。

「私が支持するのは共和党の左半分と民主党の右半分だ!」

 とのツイートを行いつつも、実際には右傾化が深まり、周りに驚かれる。右翼系のミームや陰謀論をマスクから受け取った恋人のグライムスは、こう返したという。

「なにそれ? 4ちゃんででも拾ってきたの? 極右にそっくりな物言いになってるよ?」

 やがて周知の通り、マスクは陰謀論めいた発信を行うようになってゆく。

 そして今から思うと決定的とも言える一言が、同年4月にマスクの口から飛び出していた。

 ツイッター買収をまとめていた同年4月の金曜日、ロサンゼルスのウェスト・ハリウッドの屋上レストランで、マスクは息子4人と夕食をともにしていた。ツイッターをあまり使わない息子たちは、なぜ買収したのかとマスクに尋ねた。

「あらゆる人を歓迎する公共広場がデジタル世界にあって、みんなに信頼されているというのは大事なことだと私は思うんだ」

「そうじゃなきゃ、2024年のトランプ再選なんてまず無理だろ?」

 軽口を飛ばすマスク。子どもたちがぎょっとなったのに対して

「冗談だよ、冗談」

 と、笑ったそうだ。しかし、2024年となった現在、それは冗談ではなくなった。

(「文春オンライン」編集部)

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