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「企画を聞いたときは『アホちゃうか』と思った」火野正平が自転車旅で発見したこと【追悼】

文春オンライン / 2024年11月21日 11時30分

「企画を聞いたときは『アホちゃうか』と思った」火野正平が自転車旅で発見したこと【追悼】

火野正平 ©時事通信社

俳優の火野正平氏が11月14日、亡くなった。75歳だった。火野氏は「文藝春秋」で、「にっぽん縦断 こころ旅」(NHK BS)の自転車旅がスタートした当時の出来事を語っていた。

◆◆◆

「自転車は子どものころは好きやった」

 最初にNHKのプロデューサーから企画を聞いたときは「アホちゃうか」と思ったよ。普通、火野正平にこんなの頼まないでしょ(笑)。

 俺が自転車に乗って日本全国を旅する番組『にっぽん縦断 こころ旅』(NHK BSプレミアム)も、今年の3月からの放送でとうとう6年目。去年の秋に通算500日を突破したから、1年で100日は自転車に乗っている。66歳でこれだけ乗っている人は、なかなかいないだろ。

 確かに自転車は子どものころは好きやった。12歳からこの仕事をやっているけど、子役で稼いだギャラの大半を自転車につぎ込んでいた。中学・高校では毎日乗っていたし、サイクリングクラブにも入っていた。大阪の豊中に住んでいたから、六甲山にもよう上ったな。

 だから番組で久々に自転車に乗ったときも、段差があるとこでは必ず尻を浮かせていたし、体重移動も自然に出来ていた。スタッフはお尻が痛いって言っていたけど、俺は痛くなったことはない。俺のケツが凄いのか? って思ったけど、体が覚えていたからなんだろうな。もちろん坂道はしんどい。大山の鍵掛峠なんて「行くとこやない」って、スタッフもみんな愚痴っていたもの。

 自慢できるのは、これだけ乗っていてコケたことがないこと。昔はかなり危ない運転をしていたけど、いまコケたら大怪我するかもしれないから、だいぶ気をつけてる。若い頃はスピードが出すぎて、このまま行くと崖から落ちちゃうから、わざとコケて止める、なんてこともしていた。いま考えると恐ろしなるな。

 自転車だと車じゃ見えないものが見える。風も、気温も、雨も感じることが出来る。道端に虫がいたらそれも分かる。この番組は視聴者から貰ったお便りに書かれている「こころの風景」を探しに行くのがメインテーマだけど、自転車だからこそ見つけられる場所もある。たまに「何これ?」っていう場所もあるけどな。単なる路地の曲がり角とか(笑)。

「世の中にはこんなに面白い人たちがいるんだ」

 この番組のいいところは、手紙に書かれている風景が見えなくても、それで終わりにすること。例えば夕焼けって、天気が悪かったら見えないけど、それはそれ。「見えないからごめん」って。静岡に2週間いても富士山が一回も見えなかったり、富山に行っても全然立山が顔出さなかったり。あとは「心の目」で見てください、と。

 よく「人との触れ合いが面白い」と言われるけど、そこまで意識はしていない。番組だから地元の人に声をかけているだけで。もちろんべっぴんさんは好きだよ。遠くを歩いていても可愛いなと分かる。後で番組を見直しても、こんなきれいな人をよう見つけたなと思うことも多い。でもそれ以上に「世の中にはこんなに面白い人たちがいるんだ」と気がついた。いい子、可愛いおばちゃん、おもろいお爺ちゃん。そういった人たちに、俺は嫌われていなかった、というのも驚いた。自分ではあまり良いイメージはないだろうなと思っていたから。これは発見やったな。休みのときも、街でよう声かけられるもの。

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています( 火野正平「自転車に乗ってとうとう6年目」 )。

(火野 正平/文藝春秋 2016年4月号)

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