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この国の行く末を予言? 「今を生きる全世代の実感を毎回の“入れ替わり”に込めています」

文春オンライン / 2024年11月26日 6時0分

この国の行く末を予言? 「今を生きる全世代の実感を毎回の“入れ替わり”に込めています」

テレビ朝日・飯田サヤカプロデューサー ©文藝春秋

 10月から放送中の『民王R』(テレビ朝日系列・毎週火曜21時~)。作家・池井戸潤氏の小説『民王』をもとに「Inspired by 池井戸潤」という新しい手法で製作されたこのドラマは、現職の総理大臣が5歳児から老人までさまざまな国民と入れ替わるという奇想天外な展開。加えて、日本の政局、米大統領選などの海外情勢、さらに闇バイトやひとり親の子育て、青少年の孤独など、現代社会のさまざまな問題・課題にスポットを当て、放送のたびに話題を呼んでいる。

 実際に起こった事件のようなリアルな出来事、どこか見覚えのある(?)キャラクターと、まるで現実社会を予言しているかのようなストーリーはどのように作られ、そして、どこに向かおうとしているのか? プロデューサー・飯田サヤカ氏に尋ねた。

◆ ◆ ◆

もはや現実世界がドラマを後追い?

 とにかく“持ってる”作品である。遠藤憲一演じる現職の総理大臣・武藤泰山が毎週、さまざまな立場の国民と入れ替わることから引き起こされる騒動を描く『民王R』の放送開始は、衆院選を直前に控えた10月22日。いやおうなく政治に注目が集まるタイミングだった。

 総理が貧困にあえぐ若者と入れ替わる第2話で扱ったのは、今やニュースに上らない日はない闇バイト問題。さらに5歳児と入れ替わった第3話の放送は、米大統領選でトランプ氏の劇的な再選が決まった頃。すると、ドラマに登場する米大統領の姿が、まるでどこかで見たような……。

「そうなんですよねぇ(笑)。『民王R』をやることが決まったのは随分前で、11月に米大統領選があるということは意識していましたが、日本の総選挙についてはまったく予想していませんでしたし、そのほかの出来事も……。今回、『民王』の原作者である池井戸潤先生から、物語の枠組みを使って自由に作ってというお許しをいただき、監督や脚本家と『最近、何に関心ある?』と話し合う中から毎回のテーマを設定してきたので、自然と同時代性が滲み出てきたのかもしれません」

 それにしても、米大統領しかり、泰山を追い落とす人気と勢いを持ちながら独特の“構文”トークで周囲を煙に巻く与党のプリンス議員・白鳥翼(溝端淳平・演)しかり、実在の人物を思い浮かべずにはいられないキャラクター造形。そもそも池井戸氏の原作の『民王』自体が、漢字の読めない総理大臣(過去に誰やらいたような)が実は息子と入れ替わっていたという設定から始まっており……これらキャラクターも、やはり「Inspired by(影響を受けた)」?

「まぁどう見ても……と言ってしまうと怒られそうですが(笑)。とくに第1話の放送は総選挙の期間に被っていたので、実在の人物を模した表現にならないよう微調整して、ギリギリのところに落ち着きました」

 泰山と入れ替わる人物は、「遠藤さんが演じて面白いように」と5歳児からお年寄りまでと幅を持たせて設定。職業や立ち位置もバラエティーに富んでいる。

「当初はアイドルと入れ替わるとか、文春の記者と入れ替わるアイデアもあったんですよ(笑)。過酷な役柄を課してしまっているにも関わらず、毎回全力で取り組んでくださる遠藤さんは本当にすばらしいし、泰山の秘書・冴島優佳を演じるあのちゃんは、9年前の『民王』を見ていて『やりたい!』と志願してくれました。体制におもねらず言うべきことを言う優佳のキャラクターは、彼女自身に負うところが大きいと思います。明るく憎めない泰山の書生・田中丸一郎太役の大橋和也さんも、ご本人が本当に天使のようで。金田明夫さん(官房長官・狩屋孝司役)や山内圭哉さん(公安刑事・新田理役)らベテラン勢と一緒に楽しんで演じてくださっています」

闇バイト、ひとり親、トー横キッズ……若き製作陣が現代を映す

 実は、『民王R』の製作にあたっては、池井戸氏から製作陣に1本のプロットが渡されていたという(→ 「テレビドラマ界を、そして日本を世直しする一作に」作家・池井戸潤×俳優・遠藤憲一 )。

「泰山があるひとりの労働者と入れ替わってその生活を体験し、日本の経済や市井の貧困について知る……という、現代版『王子と乞食』のような筋立てでした。ただ、現代には女性の貧困や子どもの貧困など、さまざまな層の貧困や孤独があるので、それをさまざまな層に切り分けて1話完結の物語にしてはどうか? と提案して、連作短編のようなドラマになったんです」

 闇バイトに手を染める若者の苦悩、ひとり親の奮闘、シニア世代の後悔……最新の第5話では、繁華街に身の置き所を求める「トー横キッズ」を思わせる10代の孤独がシビアに描かれ、放送中からXには同世代を中心とした視聴者から熱い共感コメントが寄せられた。より“今”にフォーカスしたテーマ設定は、30代から40代と、ドラマ界においては比較的若手の脚本家と監督との対話から生まれたという。

「とくに今回の座組には幼い子どもを持つイクメンが多く、子育てや女性の生きづらさに関するテーマがよく話題に上がりました。これから放送する第7話でも、働きながら出産、育児を行う世代の大変さにスポットを当てています。このように、さまざまなテーマを盛り込んでいけるのは、やはり『民王』という原作の組み立ての秀逸さがあったから。原作は泰山と息子が入れ替わり、お互いの立場を理解し合えるようになるという、普遍的な家族の物語でもありますし……。もちろん、池井戸さんのドラマに対する反応はすごく気になっていて、毎回、ドキドキはしているんですが(笑)」

大スキャンダル、テロ首謀者登場、まさかの○○との入れ替わり?

 そして気になるのは、これからクライマックスに向けての展開。すでに解禁された11月26日放送の第6回の予告では、次期政界の担い手として期待を集める白鳥翼にスキャンダルが持ち上がる。何やら最近、現実世界でも聞いたような……。

「キャストの皆さんとも先日、撮影現場で『何か、出ちゃったよね!』と話していました。第6話では白鳥に加えてもうひとり、泰山と入れ替わるお笑い芸人が登場し、キャンセル・カルチャー(不祥事を起こした人物をSNSなどで糾弾し、ボイコットする動き)がテーマに。ドラマの作り手である私たちにとっても、昨今、炎上は無関係ではなく、その経験や実感を込めています」

 さらに終盤に向けては、泰山の入れ替わりテロを仕組んだ人物の正体が明らかとなる。その暗躍で政界に激震が走り、武藤内閣は正真正銘の危機を迎えることに……これも何やら現実にそうなりそうで、もはや脚本は“予言の書”と化すのでは?

「うーん、どうなるでしょう(笑)。クライマックスにかけて泰山はさらに驚くような存在と入れ替わり、そのお芝居に遠藤さんが全力で取り組んでいます。何とぞこの熟年俳優の奮闘とラスボスたちの怪演を、最後まで楽しみながら見守り、応援していただけたらと思います」

飯田サヤカ(いいだ・さやか)ドラマプロデューサー。

2001年、テレビ朝日に入社。おもなプロデュース作に池井戸潤原作『民王』シリーズ・『ハヤブサ消防団』をはじめ、『妖怪シェアハウス』シリーズ、『ホリデイラブ』『サイン-法医学者柚木貴志の事件-』『微笑む人』『不協和音』『ブラック・ジャック』『JKと六法全書』『君とゆきて咲く~新選組青春録~』など。

(大谷 道子/文春文庫)

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