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「現金は邪魔だが、ポケモンカードなら…」子どものおもちゃを“マネーロンダリングの道具”として活用する「振り込め詐欺グループの特殊事情」

文春オンライン / 2024年11月25日 11時0分

「現金は邪魔だが、ポケモンカードなら…」子どものおもちゃを“マネーロンダリングの道具”として活用する「振り込め詐欺グループの特殊事情」

今ポケモンカードに何が起きてるのか? 写真はイメージ ©getty

「振り込め詐欺をやってる連中は、蓄えたカネでせっせとポケモンカードを買い漁っているよ」と語るのは、某指定暴力団の二次団体元幹部。子どものおもちゃをなぜ闇社会の人間が集めるのか? その特殊事情を、ライターの奥窪優木氏の新刊『 転売ヤー 闇の経済学 』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

マスクと医療用手袋をつけて作業する男たち

 パチンコ以外には暇つぶしの手段もなさそうな、ごくありふれた関東近郊の国道沿いに、その古びた木造2階建ての倉庫は立っていた。

 2023年5月。そこを訪れた筆者は、ペンキで書かれた「○○玩具商店」の文字がかろうじて読めるステンレス製の引き戸を開ける。湿った古簞笥のような、かびた臭いが漂うなか、折りたたみ机に向かって2人の若い男性が並んで座っていた。机にはビニールシートが敷かれ、そのうえにアニメテイストのイラストが描かれた紙箱が大量に積まれていた。ざっと数えても40箱以上はあるだろう。

 男性たちはマスクで口を覆い、手に青い医療用手袋をはめ、箱の中からキラキラした小袋を取り出していく。官製はがきより一回り小さい小袋には箱と同様のイラストが施されている。

 1200個ある小袋を全て出し終えると、小型のアイロンに似た装置で、その表面を撫でるように動かしていく。すると、何袋かに1つの割合で、装置が「ピーッ」という音を立てて反応した。3度、4度となぞるうちに反応する場合もあるようで、1つの小袋に何度も装置を押し当て、箱ごとに、反応の有無で小袋を分けて机の上に積み上げていった。

紙切れが527万ドルに

 彼らは、ポケモンカードの転売集団である。小袋は、カードが5枚入った「パック」だ。パック30個で、1箱(1ボックス)分となる。

 ゲームソフトやアニメで知られる、ポケットモンスターをテーマにして1996年に誕生したポケモンカード。2人での対戦を基本に交互にカードを出すターン制で行われる「ポケモンカードゲーム」で使用するトレーディングカードである。

 1、2ヶ月毎のペースで新シリーズが発売されるポケモンカードは、2024年8月12までに世界で約2万種類、648億枚以上のカードが出荷されているといわれ、世界大会も開催されるほどになっている。

 そしてゲーム以上に白熱を見せたのが、カードの転売市場というわけだ。

5億円で取引されたカードも

 2021年には、世界に39枚しか存在しない「ポケモンイラストレーター」という希少カードが527万5000ドル(当時のレートで約5億8000万円)で購入されたことを筆頭に、出現率の低いレアカードは、数百万円や数千万円で取引されている。

 最近発売されたシリーズでも定価は1パック180円だから、転売価格の高騰ぶりがわかる。

 数百円で買える紙切れが数千倍、数万倍の価値に化けることもあり、新作シリーズが発売されるたびにポケモンカードを扱う各地の量販店では純粋なファンと転売ヤーが行列を成し、警察沙汰になるようなトラブルも発生してきた。

 ポケモンカードは、レアリティ(希少性)によって8段階(2022年12月1日以前は9段階)に区分されている。なお、正規販売されているポケモンカードは、購入して開封するまでなかにどんなカードが入っているかわからない。

 シリーズにもよるが、最も希少性が高いUR(ウルトラレア)は、10ボックス(300パック=1500枚)に1枚程度、最も低いC(コモン)では1パック(5枚入り)に3枚程度という確率で封入されていることが、コレクターらの集合知によって知られている。

 転売市場で高額で取引されているのは、おもに上位ランクUR、SAR(スペシャルアートレア)、SR(スーパーレア)の3つだ。基本的に1ボックス(30パック=150枚)につき、これらのランクのうちいずれかに属するカードが1枚封入されているといわれている。

 しかし、レアリティが高いカードだからといって転売市場で高値がつくとは限らない。

 絵柄によって人気・不人気があり、市場価値が異なるからだ。最高ランクのURに区分されるカードよりも高値で取引されている、2段階低いSRランクのカードもある。

 そして、それらのレアカードの価値は、毎日刻々と変化しているというから、まるで株式市場そのものだ。ネット上には、各種レアカードの取引相場を調べることができるサイトが複数存在する。

マネーロンダリングにも利用される

 一方で、前述のような数百万を超える価格で取引されるような超高額カードも、確かに存在している。そうした一部のポケモンカードの高額化の背景に「裏社会の需要」を指摘する声もある。

「振り込め詐欺をやってる連中は、蓄えたカネでせっせとポケモンカードを買い漁っているよ」

 某指定暴力団の二次団体元幹部から、そんな話を聞いた。

「どう入手したか説明のできないカネは銀行に預けるわけにもいかず、タンス預金するしかなかった。しかし数千万単位になると、現金もなかなか邪魔になる。同業者や半グレからタタキ(強盗)に入られるリスクもあるし。でも100万円のポケモンカード数十枚に変えてしまえば、コンパクトに隠せるだろ」(元幹部)

 さらに、ポケモンカードを利用したマネーロンダリングも横行しているようだ。

「たとえば犯罪収益で100万円の価値があるレアカードをコレクターなどから相対取引(売り手と買い手が直接価格などを決める取引のこと)で買う。そしてそれをしばらくして同額で転売する。もともと100万円で買ったという事実を伏せたうえで、『偶然引き当てたレアカードの価値が上昇しそれを売却した』と見せかければ、合法的な資金とすることができる。実際には、さらに複雑な取引を繰り返すことで、当局による追跡は不可能になる」(同)

 犯罪資金の海外への持ち出しも、ポケモンカードを媒介することで容易になるという。

「以前は、現金を美術品や骨董品、仮想通貨などに変えて国境を超える方法が取られていたが、最近はどれも国際的に対策されている。数千万円くらいまでの資金であれば、ポケモンカードに変えて現地で現金化するのが一番手っ取り早い」(同)

〈 秋葉原では1300万円相当を盗まれた店舗も…闇バイト集団が「ポケモンカード」を泥棒する“怖い理由” 〉へ続く

(奥窪 優木/Webオリジナル(外部転載))

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