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「2099年に寿命という概念がなくなる」若返りの研究がここ10年で急速に進んでいる理由「山中伸弥氏のノーベル賞受賞がきっかけで…」

文春オンライン / 2024年11月24日 6時0分

「2099年に寿命という概念がなくなる」若返りの研究がここ10年で急速に進んでいる理由「山中伸弥氏のノーベル賞受賞がきっかけで…」

『死の終わり 不死の科学的可能性と倫理』(ホセ・コルデイロ、 デイヴィッド・ウッド 著/仁木めぐみ 訳)化学同人

「先進国に限ると、我々の90%は加齢関連疾患で死にます。つまり人類最大の敵は老化による死であることは紛れもない事実です。だから老化を“治療”して若返り、健康寿命を延ばすことは、すべての人にとってもっとも崇高なことであり、倫理的なことです」

 こう語るのは『死の終わり』の共著者の1人ホセ・コルデイロ氏だ。

 元々機械工学が専門である氏がなぜ長寿、若返りに関心を持ったのか。

「それは2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏の功績です。iPS細胞作製の成功は歴史上最も画期的な出来事の1つです」

 老化の研究が急速に進んだのはここ10年である。山中氏の研究成果が嚆矢となって、この分野を研究対象にした人は世界中にいる。

「老化を逆行させることができるということに加えて、がん細胞は老化しないことを知り、この分野に頗(すこぶ)る関心を持ち始めました」

 不老不死や若返りブームがシリコンバレーから始まったのも偶然ではない。06年のピーター・ティールの投資を皮切りにIT長者のジェフ・ベゾスやOpenAIのサム・アルトマンらはバイオテックのスタートアップに莫大な投資をしている。

「今の時代は、1990年代前半から起きたドットコム・ブームがこの分野で起きていると言っても過言ではありません。長寿や若返りを謳っているスタートアップが世界中に出現しています」

 コルデイロ氏の言葉で言えば、バイオテクノロジーと老化生物学は〈カンブリア爆発のような飛躍的な進歩の寸前にいる〉のだ。

 本書のタイトルの〈死の終わり〉とは何か。英語版のタイトルは「The Death of Death」、つまり〈死の死〉であるが、コルデイロ氏は〈老化の終焉〉であるという。

「この世に終わりがあるかは誰もわかりませんから、不老不死を保証することはできません。しかし、我々の目的はいつまでも若く生きることです。老化を遅くしたり、止めたり、逆行させることです」

 実際4年前、ハーバード大学では、マウスの目の細胞を若返らせて視力を回復させることに成功しているのだ。

 もう1つ重要なことは「パラダイムシフト」であるという。

「老化というと体が衰えて車椅子に乗る姿を想像しますが、まず我々は老化を制御できるというマインドセットを持たなければなりません」

 また寿命延伸は倫理的に正しいのか。「倫理的に正しいばかりでなく、そうすべき道徳的な責任もある」と氏は断言する。たとえば、若返りや健康寿命を延ばすことには莫大な経済的メリットがある。加齢性の疾患を治療したり、進行を遅らせたりすることで健康寿命を延ばすことは〈人生の中で、身体的にも精神的にも高いレベルの能力を発揮できる期間を延ばす〉ことになるからだ。他にも本書にはさまざまな異論に対する納得のいく説明も明示されている。

 老化研究はまだ濫觴期(らんしょうき)にあるが、アンチエイジングに関する一般向けの書籍は巷にあふれている。その中でも本書が突出しているのは、老化の科学だけでなく、宗教、コスト、人体冷凍保存などほぼすべての面が網羅されていることだ。特に〈付録――地球生命のビッグヒストリー〉の年表の最後に〈2099年 “無死”(amortality)の世界になり、寿命という概念がなくなる〉と記されているのは、頗る興味深い。

José Cordeiro/マサチューセッツ工科大学大学院などで工学、経済学、経営学の修士・博士号を取得。技術開発と未来の動向についての第一人者。世界芸術科学アカデミーの国際フェローなどを務める。

David Wood/ケンブリッジ大学大学院で数学の修士号を取得。スマートフォンのソフトウェア開発のパイオニア。アクセンチュア・モビリティのCTOなどを務めた。

(大野 和基/週刊文春 2024年11月28日号)

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