「芸能界戻れ!」「歌うたってろ!」心無いヤジにもくじけなかった森且行(50)を支えた“スマップの名曲”【『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』】
文春オンライン / 2024年11月26日 17時0分
ポスタービジュアル ©TBS
1996年、まさに人気絶頂期を迎えようとしていたSMAPを去った森且行は、オートレーサーになった。いつか「日本一」になるという仲間たちとの誓いを胸に。日本選手権への挑戦、転倒事故、重傷からの復活。その闘いの軌跡をあますところなく捉えたドキュメンタリーが公開!
◆◆◆
お互い日本一になろう。自分も必ず日本一になるから
まだ自信を無くしたわけじゃない。仲間たちと誓ったじゃないか。お互い日本一になろうって。あの約束があるから、簡単にあきらめるわけにはいかない。
オートレーサー、森且行(かつゆき)、50歳。公営ギャンブル・オートレースのトップレーサーだ。レース場では「元SMAPメンバー、森且行」とアナウンスされる。SMAPといえば旧ジャニーズ事務所に所属し、8年前の解散まで長らく日本を代表するアイドルグループとして頂点に君臨。森は結成時からのメンバーだった。だが1996年、冠番組の『SMAP×SMAP』が始まり、いよいよトップアイドルに、というまさにその時、グループを脱退。オートレースの道を歩み始めた。
1周500メートルの楕円(オーバル)のコースを6周。8台のバイクが最高時速150キロで接触ギリギリのしのぎあいを繰り広げる。「走る格闘技」とも呼ばれる世界への転身だ。こんなこと、普通あるものではない。森は当時22歳。その姿を一目見ようと、大勢の女性ファンがオートレース場に詰めかけ、「がんばってー」と声援を送る。従来のオートレースファンには面白くないだろう。
「芸能界戻れ!」
「歌うたってろ!」
そんなヤジがすごかったと森は振り返る。それでも、そういうヤジを力に変えてきたという。それだけオートレースが好きだった。幼稚園の頃、父親に連れられて行ったオートレース場。バイクに乗って競い合うレーサーたちの姿が、当時子どもに人気だったテレビ番組のヒーロー、ゴレンジャーに見えた。公園で兄と二人、自転車でオートレースごっこを繰り返した。幼い頃のあこがれだったオートレーサーへの道に挑戦したい。そんな森をSMAPのメンバーたちは、頭を丸刈りにする断髪式を行って温かく送り出したという。
「SMAPをやめる時、お互い日本一になろうって。自分も日本一、必ずなるからって言って出てきたんで」
転倒事故で負った重傷
その約束が果たされたのは24年後の2020年11月、森は日本選手権で悲願の初優勝を成し遂げた。表彰台で言葉を詰まらせながら思いを語った。
「やっと約束を守れてよかったと思います」
だがそれから82日後、森はレース中に落車。骨盤や腰椎、肋骨を骨折し、繰り返された手術で体に24本のボルトを埋め込むほどの重傷。一生歩けないかもしれない。そんな深刻な事故から7か月後、本作の監督を務める穂坂友紀が、TBSの番組向けに森をインタビュー取材する。まだ歩行もままならないのに力強く「復帰します」と宣言する森の人間性にほれ込んだという。そこから密着取材が始まり、映画へと結実する。レースに復帰したいという原動力は何なのか? 穂坂に尋ねられて森は言い切る。
「好きだから……しかないと思うんだけどなあ。オートレースがただ単に好きだから」
「そう簡単にあきらめるわけにはいかない」
仲間たちからのメッセージ
くじけそうになった時は、SMAPの仲間たちからのメッセージに力づけられた。香取慎吾、中居正広らメンバーたちの言葉はもちろん、彼らの曲にも励まされたという。
「SMAPの歌にも出てくるじゃないですか。あきらめたら終わり、とかさ」
森がまだSMAPメンバーだった頃の曲『オリジナル スマイル』には、こんな歌詞がある。
〈山程ムカつくこと 毎日あるけど 腐ってたら もうそこで終わり〉
これに近い言葉がよく知られている。人気漫画『スラムダンク』で、バスケ部監督安西先生のセリフ。
「あきらめたら そこで試合終了ですよ」
もう無理だと思ってあきらめてしまいたくなることは誰しもあるだろう。どこかで踏ん切りをつけることが必要な場合もあると思う。でも、あきらめずにしつこくやり続けていると、もしかして道が開けるかもしれない。その際に重要なのは、自分を信じる「自信」ではないか。森はこう語っている。
「まだ自信を失ったわけではないので。まだ走れるって自分で信じてるんで。やめる時はたぶん、自信がなくなった時だと思うんです」
復帰戦でかぶったSMAPカラーのヘルメット
事故から2年余り、念願の復帰戦。森はSMAP全員のメンバーカラー6色をあしらった星のマークのヘルメットでレースに挑む。
「何回もあきらめそうになったけど、あきらめなければなんとかなるね、人間ってね。チャンスもたくさんあると思うし、生きてればね」
めざすのは単なるレースへの復帰ではない。芸能界の最高峰にいるSMAPの仲間たちと同じラインに立つため、再びオートレース日本一の座をめざす。
「今の夢は変わらず、もう一度日本一になりたい。もう一回勝って“天狗”になりたい」
「もう一度日本一になるためには今の3倍だね。今の3倍は努力しないと」
「元SMAP」の肩書がなければ、この映画はなかったかもしれない。でも物語のキーワードは「あきらめない」だ。それを支えたのはSMAPの仲間たちと、幼いころから頼りにした兄、同期のレーサー仲間、治療に尽くしてくれた医療者、そして応援してくれたファンの人たち。
あきらめないすべての人への応援歌
これは、くじけそうになりながらも、まだあきらめたくないと踏ん張るすべての人たちに贈る応援歌だ。再度日本一の夢は実現できるのか? 答えは劇中で示される。最後は森自身の言葉で締めくくりたい。
「挑戦はできるので。あきらめなければ」
『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』
監督・編集:穂坂友紀/出演:森且行/制作:TBS/2024年/日本/94分/©TBS/配給:KADOKAWA/11月29日(金)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
(相澤 冬樹/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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