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《「ハガキでごめんなさい」全国コンクール》「言いそびれた『ごめんなさい』」には、なぜ泣ける話と笑える話が同居しているのか

文春オンライン / 2024年11月28日 6時0分

《「ハガキでごめんなさい」全国コンクール》「言いそびれた『ごめんなさい』」には、なぜ泣ける話と笑える話が同居しているのか

2023年度のコンクールで入賞したハガキ。色とりどりの絵が楽しい

〈 《犯罪や不倫の告白からナス嫌いまで》やなせたかしさん発案の「ハガキでごめんなさい」全国コンクールから見えてくる世相 〉から続く

 昨年度で第20回を迎えた高知県南国市の「ハガキでごめんなさい」全国コンクール。出身者で漫画家の故やなせたかしさん(1919~2013年)が発案し、後免(ごめん)町の人々が実施している。これまでに計3万3820通のハガキが寄せられ、大賞(南国市市長賞)や優秀賞(副市長賞、教育長賞)をはじめとして、協賛企業からの賞なども含めると、近年は約20点の入賞作が選ばれている。

手間をかけて審査され、選ばれた入賞作は泣ける話や切ない話が

 これらを見ていくと、ある傾向に気づく。泣ける話やしんみりした話がある一方で、笑える話が数多く選ばれているのだ。なぜ、対極にある内容が寄せられ、選ばれるのか。これには「ごめんなさい」という言葉が持つ不思議な力が影響している。

 ハガキは手間をかけて審査されている。

 大まかに言って二段階に分けられ、まずは後免町の住民らで作る「ハガキでごめんなさい実行委員会」(西村太利委員長)から、西村委員長と、副委員長の徳久衛(とくひさ・まもる)さん(64)。事務局を務める南国市観光協会から安岡知子・事務局長(41)と、担当の竹中瑞紀さん(31)。この4人が集まって、全てのハガキを精読してふるいにかける。

 さらに実行委員会のメンバーや市長、副市長、教育長、協賛企業の代表らが計約30人で絞り込む。

 こうした過程を経て、ようやく選ばれた入賞作には、泣ける話や切ない話が多い。

〈<中二の時、高一と偽り一日だけバイトをした。それが母にばれ、理由を言え、と問い詰められた。私は思わず、「母さんが掃除婦だからよ!」言い方も悪かった。親を見下すなと思い切り叩かれたが、そんなつもりではなかった。早朝働く母にマフラーを贈りたかっただけだった。店で頃合いのマフラーを見つけただけだった。マフラーが買える日給のバイトを見つけただけだった。謝るきっかけをなくしたまま気づけば十五年。本当は分かってる。私が悪い。あの時はごめんね、お母さん。>(第8回優秀賞)〉

 母と娘、どうしても意地を張ってしまうことがある。大阪府門真市の39歳が寄せた。

〈<強気な父が「今まで

 

 ごめんなさい」と言った。

 

 私は、「こちらこそ

 

 ごめんなさい」と言った。

 

 二人共涙をこぼし言い合った。

 

 その次の日父は病気で他界した。

 

 お父さんもっと早く

 

 「ごめんなさい」と、

 

 言い合いたかったよ…!!>(第8回優秀賞)〉

 父と娘もまた素直になれないものなのか。ハガキの裏面いっぱいに父親らしい人が描かれていた。病院着なのだろうか、にこやかに笑ってはいるが、頬が少しやつれている。山口県岩国市の27歳から届いた。

 62歳の息子が母に対してする後悔とは

〈<ごめんなぁ、母さん

 

 八十六歳の母に

 

「爪、切ってくれないかぃ」

 

 と頼まれた

 

 「それくらい自分で切れよ」

 

 つっけんどんな言葉が口をついた

 

 言ってしまってから

 

 しまったと思った

 

 「後で爪切り持ってくるから」

 

 やっとの言葉だった

 

 パッチン、パッチン

 

 老いた乾燥した音だった

 

 「少し柔らかくしてから切るかぁ」

 

 温かなタオルの上から老いた母の手を握った

 

 「痩せたなぁ」

 

 なぜ始めから優しい言葉を

 

 掛けられなかったのだろう>(第8回南国郵便局長賞)〉

 北海道旭川市の62歳が書いた。母と息子。いくつになっても、後悔することはある。小さい頃には爪を切ってもらったのに、いつの間にか立場が逆転してしまった。息子はその悲しさをパッチンという音に感じたのだろう。

 横書きのハガキの端には、ちょこんと座る白髪の母親。背中が丸くなり、体も小さくなったのではなかろうか。差し出した手の爪を切る場面が描かれていた。

 しんみりと泣かせるような話は、家族間のことを書いたハガキに多い。近い関係だからこそ、言い出せない「ごめんなさい」があるのかもしれない。だが、そうした関係にも終わりがある。

〈<母が亡くなり実家が人手に渡ることとなった。残された物の多くは思い切って処分することにした。

 

 母は私の幼稚園時代のお絵描き帳をはじめ、こんな物まで、と思う物まで捨てずに取っておいてくれた。しかし狭い我が家のことを考えると、多くは「お母さんごめんね」と心の中で詫びながら処分した。

 

 ふと修学旅行土産として買ってあげた孫の手付き肩叩きを見つけた。

 

 「お前は親孝行だね」と言ってくれた50年前の母の笑顔が浮かんできた。>

 

(第18回大賞)〉

 母との別れ、実家との別れ、さらには残してくれた物とも別れなければならない。世は無常と分かってはいても、心に大きな穴が開いてしまう。「青空」と書いた習字、「おえかきちょう」、両手に載せた孫の手が描かれていて、じっと見つめる筆者の視線が感じられる。

 この孫の手も処分したのだろうか。

わさびはいらない、鬼監督の目に大粒の涙

〈<陸上部監督30年。ついに迎えた勇退式。

 

 これまで鬼監督と称された私を泣かせようとわさびを用意してくれた選手たち。

 

 悪い。花束が見えて涙がフライングしてしまったよ。

 

 (わさびは家で使います。)>(第19回南国市金融団賞)〉

 生徒の背中から、後ろ手に持った赤い花束がのぞく。思わず嗚咽しそうになって口を押さえる白髪の監督。止まらなくなった大粒の涙が描かれていた。厳しい指導は情熱と生徒を思う気持ちの裏返しだ。それに応えた愛弟子達。絆があるからこそ、涙があふれたのだろう。それでも鬼監督としては「ごめんな、涙が出てきた」と口に出せなかったのかもしれない。

 こうして並べると、深い人間関係や絆があるからこそ、言いそびれたり、言えなかったりする「ごめんなさい」があることに気づく。

幼い私が「パパを一番に乗せてあげる」と言った車は…

 逆に、笑える「ごめんなさい」も多く入選している。

〈<小さい頃、

 

 霊柩車の運転手に

 

 なるのが夢だった私。

 

 「パパを一番に

 

 乗せてあげるね。」って

 

 言ってごめんなさい>(第9回優秀賞)〉

 黒くて大きく、宮型と言われる神社の屋根を載せたような車両が多かった霊柩車は、死の意味さえ分からない幼児にとっては、かっこいい乗り物の一つなのかもしれない。成長してからは、思い出すたびに冷や汗が出ただろう。千葉県船橋市の15歳から寄せられた。

〈<夫へ

 

 うっかり あなたのシャンプーを買い忘れた時、やむなく

 

 こっそり

 

 愛犬用のシャンプーを詰め替えました。ごめんなさい、でも

 

 「なんだか いつもより 髪がしっとりしてるな~」

 

 と、気に入っていたようで

 

 よかったですぅ♡>(第12回南国市金融団賞)〉

 愛媛県松山市の人から届いた。犬用のシャンプーには値が張るものもある。買い忘れた夫のシャンプーとどちらが高かったのだろう。

子どもがかくした母のスマホの行方

〈<お母さんとお父さんへ

 

 朝、お母さんとけんかしたとき、お母さんのスマホをゴミぶくろにかくして学校に行って帰ってきたら、ゴミが出されてしまい、お父さんがリサイクル工場まで、とりに行くことになってしまいました。

 

 お父さん、お母さん、本当に・・・・

 

 ゴメンナサイ>(第16回ナンコクスーパー賞)〉

 鹿児島県志布志市の小学生からだった。

 志布志市は知る人ぞ知るリサイクル自治体だ。廃棄物全体の76.0%(2022年度実績)を再資源化し、全国の市では18年連続で1位になっている。ごみを燃やす清掃工場はなく、(1)24分別して再資源化する資源ごみ(2)堆肥化する生ごみ(3)一部を再資源化に回すなどする粗大ごみ(4)埋立処分する一般ごみ--という形で処理している。スマートフォンは一般ごみとして出されたのだろうか。他の自治体のように、焼却場へ運ばれていたら助からなかっただろう。再資源化で一般ごみが少ないから容易に探せたのか。

〈<植物の研究をしているあなたが、

 

 フィールドワークのついでに

 

 集めてくれたキノコ、

 

 あなたの味噌汁にだけ入れて

 

 ごめんなさい。>(第19回優秀賞)〉

 福岡県の人から届いた。気持ちは分からないでもない。

相手との深い関係があってこそ笑い話になる

〈<医者から痩せるように言われ、

 

 「一緒に歩こうか」と言ってくれた夫よ、

 

 ごめん…。

 

 あなたがシャワーを浴びている間、

 

 こっそり冷蔵庫の缶ビールをあけてました。

 

 せっかく歩いた努力も 麦の泡。

 

 (今度からは糖質ゼロにします)>(第20回優秀賞)〉

 汗吹きのタオルを首に巻いたまま、女性が「ぷはー」とビールをあおる姿が描かれていた。すごく美味しそうに見える。風呂場から出てきた夫は、妻からアルコールの臭いがしただろうに、「それほど飲みたいなら」と気づかないふりをしていたのかもしれない。埼玉県から寄せられた。

 こうして見てみると、一定の傾向があるような気がする。謝罪が笑い話になるのは、相手との深い関係があってこそだ。

 他人や見知らぬ人であっても、似たことが言える。

〈<60代ぐらいのおばさんへごめんなさい。

 

 僕は60代ぐらいのおばさんにバスの席をゆずろうとしましたが、そのあとに乗ったかわいい女性の方におもわず席をゆずってしまいました。ごめんなさい。>(第18回ナンコクスーパー賞)〉

「ごめんなさい」は相手がいるから言える。相手の身になって考えた時、「申し訳なかったな」と心が傷む。究極の思いやりの言葉であるからこそ、涙が出るような話や、笑える話になり、審査員の心に響く。

 審査員も務める南国市観光協会の安岡事務局長は、「『ごめんなさい』は相手の寛大さに尊敬を込めて使われる言葉とも言われているそうです。相手との関係で意味も変わってくるのでしょうね。だから涙あり、笑いありなのでは。

 また、謝罪は普通、ネガティブで暗い事柄を想像します。でも、コンクールではハガキに書くことでスッキリする面もあるので、笑える話になっているのかもしれません」と分析する。

人生が凝縮されている「ごめんなさい」

 実行委員会で副委員長を務める徳久さんは「人はそれぞれ違った人生を歩みます。でも、直面する出来事や感情には似通った部分があります。ハガキに書かれた『ごめんなさい』に自分の人生を重ね合わせて共感するのはそのためです。誰もが経験する人生の一コマが描かれているからこそ、選者の心に響いて涙が出たり、思わず笑ったりしてしまうのです。対極の内容のハガキが入選するのは、どちらも人生の一部だからです」と説明する。

「ごめんなさい」を記したハガキには、人生が凝縮されているのかもしれない。

撮影=葉上太郎

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 第21回の応募は2024年11月30日まで(当日消印有効)。

 問い合わせは、現在の事務局が置かれている 南国市観光協会

(葉上 太郎)

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