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「お求めになりたいお気持ちはビンビン伝わってきた」美智子さまが購入されていた「彫刻」と「デッサン」《友情秘話》

文春オンライン / 2024年12月28日 6時0分

「お求めになりたいお気持ちはビンビン伝わってきた」美智子さまが購入されていた「彫刻」と「デッサン」《友情秘話》

「舟越保武彫刻展」を訪れ、作品を鑑賞される美智子さま。右は末盛さん(2015年) ©時事通信社

美智子さまと長年の交流がある編集者・末盛千枝子さん。父は彫刻家・舟越保武で、美智子さまは保武の作品に強い関心を示していたという。そして、保武の作品のなかに、美智子さまがご自身で所有されることを強く望んだ作品があった。

◆◆◆

美智子さまと「聖ベロニカ」「ゴルゴダ」

 ――ご縁が続く中で、美智子さまがお父様の彫刻をお求めになったとうかがいましたが、それはどういう経緯だったのですか。

 末盛 たしか『THE ANIMALS』が出てすぐの頃、父の展覧会が世田谷美術館(「信仰と詩心の彫刻60年 舟越保武の世界」1994)でありました。その新聞広告をご覧になったのか美術館にいらして、とっても喜んで作品を見てくださいました。そして、どうしても……という話になって。

 ――展示されていた作品を気に入られたわけですか。

 末盛 詳しい経緯はもう覚えていないんですけれど……。

 ――「聖ベロニカ」(1986)だそうですね。これはどういう作品なのですか。

 末盛 ベロニカは、キリストが十字架を背負って、血の汗を流しながらヨタヨタと刑場に向かって歩いているときに、気の毒に思って周囲のローマ兵をものともせず、白い布を差し出す。「これでお顔をぬぐってください」と。これは聖書に出てくる話ですが、父はとても好きだったのね。ベロニカが好きな作家はたくさんいる。だけど、父はとても好きだったので、ベロニカは何回も作っています。

 ――その時に、実はもう一つ別の作品とどちらにしようかと、美智子さまは迷われたとか。

 末盛 その頃、父はもう脳梗塞の後遺症で利き手の自由を失って、左手で作品を作り始めていました。そうしたら、今までとはぜんぜん違う作風になって……迷われていたのはその頃に作った「ゴルゴダ」(1989)というキリストの顔の像。とてもいい作品ですが、どちらにしようかさんざん迷われたみたいで。でも、御所にキリストの像というわけにはいかないんじゃないかと私は思ったんですけどね。

 ――そうですよね。ゴルゴダというのはキリストが磔(はりつけ)にされたゴルゴダの丘のゴルゴダ。まさに刑場に向かうイエス・キリストの頭の像ですから。

 末盛 陛下に相談なさったらしいんです。そうしたら陛下は、まったく淡々と「それはかまわないよ」とはおっしゃったらしい。でも美智子さまはベロニカをお選びになって、お届けしたということです。

 ――そのあたり上皇さまはおおらかなんですね。

 末盛 上皇さまもおおらかだと思ったし、それから神道って私にはまったく縁がないと思っていたんですけれど、神道の考え方がおおらかなのかなと思いました。

 ――八百万(やおよろず)の神とよくいいますけれど。

 末盛 そうですね。そういうことを通してすごく思ったのは、美智子さまは本当にあらゆることを陛下にご相談なさりながら進めていらっしゃるということでした。

美智子さまがご執心だったデッサンとは?

 ――それから何年かしてお父様のデッサンもお求めになられた。

 末盛 私が父にクリスマスの絵本を作りたいから、少年時代のイエスをデッサンで描いてくれと頼んで、何年もたってから実現したことがありました。最初の夫が亡くなって三回忌のミサの時に、父は手ぶらで来られないと思ったんでしょうね。下描きを見せてくれて、「こんなのでいいのかな」と言うから、「そうなの、そうなの。こういうのを描いてほしかったの」と言ったら、それから1週間くらいで1冊分約20点のデッサンを描いてくれました。私は何年も待っていたから、「その気になれば1週間でできるじゃない」と父に言ったんですよ。そうしたら「バカ言え、50年と1週間だ」って言われまして、たしかになと思いました。

 その絵本『ナザレの少年―新約聖書より―』(1986、ジー・シー・プレス)が出来た時、デパートで父の親しい画商が展覧会をしてくれて、そのときから美智子さまは、その表紙になっている「少年・イエス」の絵がお好きで、それをお求めになりたいというお気持ちはビンビン伝わっては来たんですけれど……。

 ――そうでしたか。

 末盛 それが実は父が右手でした最後の仕事だったんです。

 ――病気で倒れる直前の作品なんですね。

 末盛 そういう事情もあるので家族でとても大切にしていたんです。父が亡くなってしばらくしてから、そのデッサンを私がもらうことになって、この家に持ってきて玄関に掛けていました。

 だけど、岩手県立美術館の企画で父の展覧会を各地でやってくださったとき、練馬区立美術館(「舟越保武彫刻展―まなざしの向こうに」2015)に美智子さまがお見えになって、やっぱりあのデッサンが……と。

 ――それはかなりのご執心というか。

 末盛 そうですね。それだったらとお譲りさせていただきました。

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 美智子さま90歳『愛と犠牲は不可分』 」)。全文では、編集者として美智子さまの講演録『橋をかける』を手掛けた時のエピソード皇室とキリスト教の考えの親和性などについて語られています。

※このインタビューは、動画でもご覧いただけます。  【動画】末盛千枝子インタビュー「愛と犠牲は不可分 親友が明かす美智子さまの90年」

(末盛 千枝子/文藝春秋 2024年12月号)

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