「自民党に石破首相を支える空気はない」“石破取材の第一人者”が語る異様な孤立っぷり「弱い官邸」を逆手に取るとは言うが…
文春オンライン / 2024年12月3日 6時0分
石破茂首相 ©時事通信社
なんだかんだで話題になっている石破首相です。まずは「おむすび」。ドキュメンタリー監督の大島新氏が密着した「総理大臣を目指した人たち 2024 二つの党首選から見えたこと」(日テレ系)が11月に放送された。
その中で石破氏が農家を視察して小ぶりなおむすびを一口で頬張る姿が衝撃を与えたのだ。「品がない」などの声がSNSでわきあがった。NHK朝ドラに負けない石破首相の「おむすび」である。
他人の目を気にしていない石破氏
同ドキュメンタリーではテレビ局の楽屋でお菓子をポリポリやっている姿も印象的だった。共通するのは「他人の目を気にしていない」石破氏の姿である。
そういえば石破内閣発足時の首相官邸での写真撮影では石破氏や一部閣僚のモーニングのズボンが下がり、お腹の部分のシャツがのぞいていて「だらし内閣」と言われた。
これまでも政策や読書や鉄道などについて語る石破氏を見ると一心不乱になっていた。その結果「他人の目を気にしていない」状態になってしまうのだろうか。
小さなことは大きなことにもつながる。首相は先月相次いで国際会議に出席したが、他国の首脳からのあいさつに着席したまま応じたり、記念撮影を欠席したりしたことなどから首相の外交マナーに関して批判を招いた。
「夕刊フジ」は1面で次のように伝えた。『石破外交失態』(11月21日付)。外交失態に加えおむすびの食べ方まで『石破外交“漂流リスク”』(11月29日)と続報している。安倍元首相推しに熱心だった夕刊フジからすると「安倍さんと対峙していた石破は許せない」という感情が今も行間から見えてくる。
読売新聞は社説で《衆院選で惨敗したにもかかわらず、何事もなかったかのように第2次石破内閣が発足した》(11月12日付)と書いた。保守系メディアのほうが首相に当たりが厳しい。
一方で「党内野党」だったはずの石破氏が首相に就任してから変節を繰り返したことで他紙も批判的だった。つまり石破氏は保守(読売、産経など)・リベラル(朝日、毎日など)のどちらからもツッコまれている状況が続いていた。
ただ最近は少し潮目が変わったのかと思える雰囲気も感じる。
「丁寧な民主主義を取り戻す」
臨時国会が召集された日、朝日新聞は1面トップで『窮地の首相 行き着いた「熟議」』(11月29日付)と特集した。
首相は本来は政治決定に絶大な権力を有する。とくに第2次安倍政権は「官邸1強」と言われた。しかし衆院選の大敗で状況は一変した。
《もともと党内非主流派出身の石破には「強すぎる官邸」こそが党内の自由な論議を封じ、官僚らの間で忖度を蔓延させるなど、日本の民主主義をゆがめてきたという問題意識があった。》
それゆえ、「乱暴な政権運営はできない。それを逆手に、丁寧な民主主義を取り戻す機会にしたい」と石破首相は周囲に語ったというのだ。決して望んだ状況ではないが、首相周辺は「短命政権でもいい。『安倍路線』からの切り替えを果たし、今までと違うレールを敷くことに存在意義を見いだすしかない」と述べている。
思わず笑いそうになったのは、石破首相が模索する新しい政治の意思決定システムだ。第1段階が政策協議、第2段階が国会論戦とあった。批判的な野党とも丁寧に議論を重ね、合意を得る努力をするという。そんなの当たり前じゃないかと思うが、これは石破首相の安倍政治に対する最後で最大のアンチテーゼになるのだろうか。
朝日の特集からは石破首相に対する最低限の期待のようなものが感じられた。その日におこなわれた所信表明演説でも「他党の意見を聞く」と述べた。
長年石破氏を取材するジャーナリストは…
しかし石破首相にこんな「改革」が本当にできるのか? ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いてみた。鈴木氏は長い間石破氏に取材をしており、著書に『石破茂の「頭の中」』がある。石破取材の第一人者と言っていい。
――石破氏は窮地を逆手にとって「丁寧な民主主義を目指す」と朝日が報じていましたが。
「石破さんは自分が意図してないのに『結果的にこうなっている』ということが多い。衆院選での裏金議員処分も安倍派潰しだという声もあったけどそんな芸当はできない人ですよ。結果的にそうなってるだけ。今回も少数与党という立場は石破首相にとってキツいだけ。結果論として野党と丁寧に話をしなくてはいけないということです」
自民党内での孤立感がある
――最近石破首相に取材しましたか?
「本人に取材をした感じでは自民党の中での孤立感があります。総理総裁が何か政策をやりたいと思ったら普通は党内の議連とか議員が集まってくるがそういう動きがない」
――現状の石破政権をどう見ますか?
「総裁になった直後から前言を翻して支持率がどんどん下がって選挙に負けた。唯一救いだったのは選挙直後の世論調査で『石破茂首相は辞任すべきだと思うか』との質問に『思わない』と回答した人が半数を超えていたことだと言います。それなら今後は気をつかわずに原点に返るしかないと」
――仲間はいるんですか?
「連携していける人として中谷元(防衛相)、村上誠一郎(総務相)、岩屋毅(外務相)、赤澤亮正(経済再生担当相)、小野寺五典(自民党政調会長)、こういう人達の名前を石破さんからよく聞く。数少ない仲間とやれる分野を一つずつやっていくしかないのでは」
ーー今後の注目はいつ頃ですか?
「自民党全体からは石破首相を支える空気はなく様子見という雰囲気です。山場は来年の2月の終わりから3月の来年度予算案の採決のタイミングでは? 少数与党だから採決は通らないから野党の協力が必要。では野党案を飲むのか? そうなると自民党内から批判も来る。野党は一歩も引かない。ここが最初の山場では」
以上が鈴木氏の見解である。石破首相は自分が意図してないのに「結果的にこうなっていることが多い」という現象が面白い。おむすびに夢中で食らいついて人々を驚かし、選挙では結果的に旧安倍派を縮小させてしまった様子は、里に迷い降りてきたクマが意図してないのに村を騒がせている感じだ。
一心不乱が生み出す空気の読めなさは政治改革でこそ発揮してほしい。低空飛行で安定とでもいうべき今のうちに「政治とカネ」問題を解明できるのか? またブレたら終わりな気がする。
(プチ鹿島)
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