「ユーミンの曲は“除湿機能”を備えていた」「尾崎豊は若者の演歌」五木寛之らが厳選した“昭和歌謡の名曲”とは
文春オンライン / 2024年12月8日 6時0分
松任谷由実 ©文藝春秋
昭和歌謡を文化遺産として遺したい——作家・五木寛之氏の想いがきっかけでスタートしたのが「昭和万謡集」だ。
五木氏、藤原正彦氏、内館牧子氏、片山杜秀氏、酒井順子氏、ジュディ・オング氏によって選ばれた110曲は、どのような議論で決まったのか。最終選考会の模様を一部抜粋してお届けする。
◆◆◆
松本隆は昭和歌謡?
酒井 今の若者が昭和歌謡を発見し、好んで聴いているそうですが、その中に「シティポップ」があります。昭和50年代に流行った音楽で、山下達郎、大瀧詠一、松任谷由実などが作り出した都会的なサウンド。その名曲の詞の多くを書いたのは、松本隆さんでした。私は意識せず20曲の中に4曲も選んでいます。松本隆さんの登場を、皆さんはどうご覧になっていたんですか?
片山 昭和38(1963)年生まれの私は松本隆の歌ばかり聴いて育ちました。
五木 自分たちの日常生活の中に入り込んできている地続きで等身大の音楽という感じがしました。松本さんの登場で歌の世界の現場がちょっと変わった気がします。「松本隆の世界」としか言い表せないようなものを作った。それまでの作詞家はいくら才能があって個性的でも「○○の世界」とは言われなかった。
酒井 松田聖子の『赤いスイートピー』(昭57)などアイドルの曲の詞もたくさん書いているので、シティポップにとどまらない作詞家ですよね。空前のヒットとなった『ルビーの指環』(昭56)も松本さんです。
五木 松本隆は「昭和歌謡」に入れていいのかなと思うことがあるんですよね。
片山 歌謡曲をある時代、民衆がみんなで歌っていた歌と考えれば、昭和40、50年代のニューミュージックやフォークソング、シティポップも、「昭和歌謡」だと言ってよくて、『昭和万謡集』に入れるべきではないでしょうか。
酒井 確かに昭和50年代は「歌謡曲」の枠組がぐっと広がった時代だったと思います。青春時代の私が、「歌謡曲」として親しみを感じて歌っていたのは、松田聖子や中森明菜の歌でした。『ザ・ベストテン』に出て来る歌手は、歌謡曲や流行歌を歌っている人。出演拒否をする歌手は「アーティスト」というイメージでしたね。
松本隆さんやユーミンの曲は、除湿機能を備えていました。日本人の心にあるねっとりとした湿度を除去し、涙も嫉妬もからりとした質感で表現する都会的なセンスに、私のように湿度を息苦しく思っていた若者達は夢中になりました。
糸井重里さんのようなコピーライターが歌謡曲の世界にも参入して詞を書き、沢田研二の『TOKIO』(昭54)や矢野顕子の『春咲小紅』(昭56)などでヒットを飛ばしていたことも、この時代を象徴しています。「気分」や「場面」を切り取り、一瞬の快感をもたらす広告的手法が歌の世界でも影響力を持ちました。演歌も、恨みつらみがなくなって明るくなっていた。
片山 細川たかしさんをはじめ演歌歌手もみんなで明るくノリよく行こうと歌っていましたね。短調より長調の演歌が多くなった記憶があります。それまで演歌が歌ってきた暗い情念を表出させたのは、昭和の最後に出現した尾崎豊ではないでしょうか。
ジュディ 確かにそうですね。彼は若者が内面に溜め込んでいた気持ちを歌うよりも叫ぶように表現したことで若者の心を鷲掴みにした。
酒井 尾崎は、当時の若者にとっての演歌だったのかも。
昭和は日本の黄金時代
内館 昭和歌謡とともに昭和を思い出してみると、もう一回、昭和に生きろと言われたらとても生きられない。でも、昭和の人たちって、あの社会で揚々と生きていたなと思います。
ジュディ ラッキーでしたね。昭和25(1950)年生まれの私の青春は、ちょうど高度経済成長期にあたります。右肩上がりで、華やかで、すべてにお金が潤沢にかけられていた時代でした。そこからバブルが起きて、バブル崩壊から節約が始まる。だから、昭和54(1979)年あたりまでは、本当に超華やかな時代を面白おかしく生きられたなあと思います。
◆
本記事の全文は「文藝春秋」2024年12月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(五木寛之、藤原正彦、内館牧子、片山杜秀、酒井順子、ジュディ・オング「 選考座談会『昭和万謡集 ベスト100歌謡曲』 」)。
◆あのときの私がよみがえる
・歌謡曲にある「もののあわれ」
・対立が昭和歌謡を豊かにした
◆戦争の影
・『津軽のふるさと』の懐かしさ
・戦後日本の音楽三国志
・坂本九と上を向いた
・いつも泣くのは北
◆百花繚乱の昭和歌謡
・阿木燿子が時代を変えた
・異能の作曲家・筒美京平
・松本隆は昭和歌謡?
・昭和は日本の黄金時代
◆昭和万謡集110曲
(五木 寛之,藤原 正彦,内館 牧子,片山 杜秀,酒井 順子,ジュディ・オング/文藝春秋 2024年12月号)
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