「ある番組で、私の障害が目立たないから『出なくていい』と…」“生まれつき右手がない”義手ギタリストの女性(29)が語った、マスコミへの“苦言”
文春オンライン / 2024年12月21日 11時0分
〈 ガールズバーで「右手がないの、かわいいね」「写真を撮らせて」と…“生まれつき右手がない”義手ギタリストの女性(29)が語る、知られざる“欠損フェチ”の世界 〉から続く
先天性四肢障害で、生まれつき右手首から先がないギタリストのLisa13(29)。
東京パラリンピックの閉会式のステージに立って注目された彼女に、パラリンピック閉会式出演の経緯、障害者に向けられる偏見などについて、話を聞いた。(全3回の3回目/ 1回目 から読む)
◆◆◆
パラリンピックの閉会式で演奏した経緯
――東京2020パラリンピック競技大会(開催は2021年)の閉会式で演奏しましたが、どういった経緯で出演を。
Lisa 私のInstagramに、知り合いの知り合いでキャスティングの仕事をやってる人からDMが来たんですよ。「◯月◯日の◯時ぐらいに、都内でライブみたいのをやるんですけど、ギター弾きませんか?」って。
でも、「パラリンピックが」みたいなのは一切伏せられていて。で、やり取りして出ることになったと。
――国立競技場のステージは、Lisaさん史上最大規模になるわけですか?
Lisa 最大級は最大級ですけど、コロナのアレで無観客だったんですよ。でも、選手のみなさんがステージ下にバーンといっぱいいて「イエーイ!」ってやってくれて、めちゃくちゃ盛り上がってましたね。
パラリンピックがきっかけで、障害当事者からの認知度が上がった
――閉会式のステージに上がったことで、かなりの注目が。
Lisa 集まったとは思いますよ。それまでは私の窓口って音楽とファッションだけだったんですけど、障害当事者やそういったコミュニティの方からのフォロワーが増えて「そうか、こういう窓口もあるよね」って。欠損バーで働いてたけど、自分の欠損のことって意識してなかったに等しかったので。
――注目されたことで、そう意識せざるを得なくなった。
Lisa 「こういう人たちにも発信していけたらいいよね」っていう意識は芽生えましたね。といっても「自分も障害者だから」という気持ちはまったくないし、「障害のある人たちを救おう!」とかものすごく大きなものでもなくて。
私が好きなものに興味を持ってくれたり、「ギターを始めたい」って子がDMを送ってくれるんですけど、そんなふうに障害のある人たちにも、「これ、やってみよう」とか思えるきっかけを生むことができたらいいなと思っています。
「義手ギタリストってアピールしなくてよくね?」と言われることも…
――障害者の方から、悩みや苦しさを相談される機会は増えましたか。
Lisa 圧倒的に増えた。ただ、それに関しては「もう、ぶん殴っちゃえばいいんだよ」みたいな感じの答えしかできないんですよ。陽キャも陽キャっていうか、私自身がこういう人間なので(笑)。
でも、そう答える一方で「どうしたらいいだろう? ここは、こうやって接したほうがいいのかな」とも考えてしまうんですよ。健常者と障害者のはざまに置かれたような感じになるんですけど、それによって学ぶことが増えました。
――「欠損を売りにしている」「障害があるから目立っている」といった声は。
Lisa 「べつに義手ギタリストってアピールしなくてよくね?」みたいなことを言われたことはあります。10年前に私がバンドを始めたとき、義手であることなんて自分から言ってないし、ただバンドでギター弾いてる派手な人っていう、それだけだったんですよ。
でも、閉会式に出てから、お子さんが欠損だという方などからもインスタでDMをいっぱいいただくようになって。それまでは音楽やファッションでリアクションがあったけど、そういった面でも自分が見られるようになったんだなって意識せざるをえなくなったんですよね。
「義手ギタリスト」の意味について説明しないワケ
――「そういった面でも自分が見られるようになった」ことを、良い意味で活かしたい気持ちが。
Lisa 義手とか欠損といったワードで検索したときに、私のことがポンと上がってきたらいいなって。
さっきも言ったけど、それで「好きなことだけやってる人がいる」とか「こうやってギターを弾けるようにしてるんだ」って、欠損やなにかしらの障害のある人に「自分もなんかやろう」みたいなきっかけにはなれるんじゃないかなって。いまは、そういう意味での義手ギタリストだっていう自覚はありますね。
ただ、それを説明するのって超めんどくさいじゃないですか。長ったらしくて。説明しないから「べつに義手ギタリストってアピールしなくてよくね?」という声も上がるんだろうけど、そんなの自分から言うのイヤじゃないですか。こうして聞かれてるから、話してるだけで(笑)。
「私の欠損って、障害として目立たない」テレビ番組への出演がいきなり白紙になった理由
――さまざまな声が届くようになって、障害者への偏見などを強く意識するようには?
Lisa 偏見とはちょっと違う話になっちゃうんですけど、某ブランドのファッションショーにモデルとして出てくれませんかというオファーがあったんですよ。
「欠損や障害を取っ払う」ってコンセプトで、呼ばれて、お話しして、「じゃあ、お願いします」となったんですけど、「義足の方がいて、そちらのほうが障害者ってわかりやすいので起用することにしました」みたいになって。私の欠損って、障害として目立たないんですよね。
――言い方が良くないかもしれませんが「映える障害」が求められている。
Lisa あるテレビ番組でも、そんな感じのことがあって。一回、オファーがあったんですよ。「障害者を集めたバンドをやりたいから、よかったらLisaさんも出てくれ」みたいに来たけど、出なくていいって話になって。結局、アドバイザー的な立ち位置で参加したんですけど。
要するに、義手ピックを着けちゃうと、健常者がレザーグローブをはめてギターを弾いてるようにしか見えないんですよね。
「障害者」とカテゴライズされて見られてしまう
――「大変そうに見えないと困る」という考えがチラつくと。
Lisa そうなんです。そういうのを障害者に求めてるところが、まだあるかなって。
あと、どうしても障害者ってはめられてしまうのも気になりますね。私のフォロワーで、同じように手のない子がいて。その子は女優を目指していて、動画を配信したりして頑張ってるんですけど、障害とかそういった感じでカテゴライズされたうえで見られてしまうんですよ。
で、その子がたとえば会社員の役とか演じることになっても、会社員の前に「手がない」って付くんだろうなって考えてしまいますね。そんなふうに見えなくてもいいし、見せなくてもいいし。そうした配慮はしてもいいとは思いますね。
――今後の目標は。
Lisa 音楽面では、いまやってる「GAROCKTOKYO」っていうユニットを頑張っていきたいですね。こないだもテキサスでライブしてきたんですけど、すっごくリアクションも良くて。ファンもグッと増えたんですよ。どんどん海外でもライブをやって、大きなステージでやりたいなって。
また、私がギターをしている「Moth in Lilac」というバンドは、新しいメンバーが加わって面白いことができそうなので、それも楽しみです。
センシティブな面では、いま話したことですね。これからは、障害が見えやすい人ばかりを障害者として扱ったり、「障害者なんだ」ってバイアスをかけて当事者を見たりするのはやめてほしいなと。これって、私が障害者だからとか、障害者をこう扱ってほしいとか以前に、普通に礼儀の問題なんじゃないかなと思うんですよ。
写真=山元茂樹/文藝春秋
(平田 裕介)
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