「その口の利き方は、なんや」「殴ってこいや」大学時代は“街の不良”とケンカ三昧…闇社会の帝王・許永中の“トラブルだらけの生活”
文春オンライン / 2024年12月21日 17時0分
写真はイメージ ©アフロ
〈 【ヤンチャすぎ】高2で大学生をボコボコにし、「女の子を連れて来い」と恐喝…“闇社会の帝王”と呼ばれた男の“荒れまくった学生時代” 〉から続く
大阪・中津の在日韓国人地区で生まれ育ち、喧嘩に明け暮れアウトローの道へと突き進んだ許永中。イトマン事件、石橋産業事件で暗躍し、「闇社会の帝王」「戦後最大の黒幕」と呼ばれた。
ここでは、そんな許永中の波乱万丈な人生を綴った 『許 永中独占インタビュー「血と闇と私」』 (宝島社)より一部を抜粋。彼のヤンチャすぎる学生時代のエピソードを紹介する。(全4回の2回目/ 1回目 から続く)
◆◆◆
大学に通ったのは、入学式直後の1週間ほど
彼は、昭和40年4月、大阪工業大学工学部機械科に入学した。
クラブ活動は、柔道部に入部した。だが、通学したといえるのは入学したその日に正門をくぐった直後の何時間だけだった。
入学した途端、大学に幻滅を感じた。むさ苦しい7年生、8年生たちがたむろしている。女子大生など、影も形も見当たらない。理工系の大学だから、当たり前ともいえる。後で聞いた話だと、2~3人ほど女子学生もいたらしい。
梅田から大工大までは市電で通える。大阪市旭区大宮にある大学の最寄駅は大宮といった。駅前にはパチンコ屋が店を構えていた。隣は雀荘。その2階は、玉突き屋だった。3軒とも大工大の学生を当て込んで日々の商いを営んでいた。そこには、かろうじて女の子がいる。腹を減らした野良犬の前に肉塊を置くようなものだ。
朝からそうした店にたむろする。まともに通学したのは、入学式直後の1週間ほどだった。授業には、一切出ていない。前期試験も受けるには受けたが、答えの書きようがなかった。後期の試験も同様だ。これでは単位など取れるはずもない。
「殴ってこいや」学生を挑発しても喧嘩にならず…
応援部や空手部のかっこつけた大学生たちを相手に、高校2年のときから彼は喧嘩を売り、恐喝を仕掛けてきた。女子学生もいないような田舎の腐った大学で空手部や応援部といったところで、子供の喧嘩にしかならない。
彼は高校時代から学生の喧嘩、子供の喧嘩はしてきていない。相手はどこまでいっても、所詮は学生。学生の喧嘩では彼に太刀打ちできない。
「殴ってこいや」
鉄火場で何度か挑発したことがある。だが、学生はまず手を出さない。
「お前、先輩に対してなんちゅう態度や」
「その口の利き方は、なんや」
せいぜいそんなことを遠くから言い返すだけだった。
「お前、何が言いたいんや」
一発もらうぐらいでちょうどいい。しめたものだ。瞬く間にバチバチに絞めてしまう。
2人以上が相手なら、まず頭をいわせてしまう。踏んできた場数が違う。手馴れたものである。
「出入りせんといて」パチンコ屋、雀荘、玉突き屋が“出禁”になったワケ
大宮駅前にある店でもめると、少々ややこしい。常連は学生ばかり。彼がそいつらを絞めてしまうと、店は商売上がったりになる。店の側としては、営業政策上、何としても彼を手なずける必要があった。頭を撫でておかないと、いつ暴発するかわかったものではない。学生の客足が止まることだけは避けなければならない。
「もう、出入りせんといて」
「大人しゅうしといて」
「ここ、来んといて」
いつの日からか、許はそう懇願される存在になっていた。「出入り禁止」にしてくれたのはパチンコ屋、雀荘、玉突き屋の3軒ともそうである。
ただし、ただの「出禁」とは訳が違う。大宮駅に降りると、パチンコ屋の前で仲間と待ち合わせる。頭数が揃うと、入店。店員は何も言わず、パチンコ玉を一箱渡してくれる。そのまま換金するだけで、2000円か3000円くらいにはなった。
金を掴むと、隣の雀荘に向かう。時間潰しに来ているとしか思えない4年生や5年生、6年生といった学生を相手に卓を囲んだ。先輩とはいえ、大学に通っているようには見えない。どう見ても外見はおっさんだった。
昼時になると、飯を食いに近所の食堂に入る。午後からは玉突き屋に入り浸り、玉突きで決着をつける。玉突き屋の経営者は雀荘と同じおばちゃんだった。玉突き屋で許は金を払った記憶がない。顔パスである。
パチンコ屋、雀荘、玉突き屋、食堂の4軒を回遊するだけでどういうわけか財布はパンパンになっていった。ヤクザのみかじめ料ではないが、ちょっとした凌ぎである。
そうした「定期収入」の道が開けてからというもの、彼は電車で大学に通うのをやめた。タクシー通学に切り替えたのだ。
雀荘で身につけたイカサマの技術
当時の彼は麻雀で負け知らずだった。もっとも、負けようがない。「負けたらいかん」と思っていた。
堂々と打っている彼の手を見て、悪い先輩がこうささやいた。
「ここではええけど、繁華街に出て行ったら、そんな中途半端な手ではあかんで。イカサマ教えたるわ」
涙ぐましい努力の甲斐あって、許は麻雀で負け知らずであった。
当初は学生のいない場では打たないことに決めていたが、イカサマの技術をしっかり身につけてからは、プロも出入りする雀荘にも出ていった。盛り場で他流試合を繰り広げたのである。繁華街の雀荘に出入りしているような連中は、所詮半グレ。皆が皆それで生計を立てている。
どこから来たとも知れない新顔は招かれざる客に違いない。シマ内への侵入者は「勝負する気」があるのかどうか、試される。ここからが睨み合いだ。
敵地で喧嘩を買う
一勝負終えて雀荘を出る。外には必ず待ちかねている奴がいた。女の子ではない。野郎である。
「ちょっとおいで」
よそ者に大きな顔をされては、地場を仕切っていたり、その道で飯を食っていたりする側は立つ瀬がない。街があり、不良がいる。そこには、1つの整然とした律動が息づいており、水流が走っている。
そんな共同体に、突然子供みたいな男が入り込んでくるのだ。揉め事にならないほうが不思議である。
実際、他の街に行けば、1週間から10日でたちどころにトラブルになった。
いわば敵地で喧嘩を買うわけだ。1回でも負けていれば、そこで終わっていただろう。連戦連勝だったからこそ、何とか続いていた。
そういうことがあると、雀荘の側も気を使ってくれるようになる。プロやおっさんばかりを相手にしている店にしてみれば、彼のような学生は物珍しかったのかもしれない。
なお、許が大学に入学して2カ月後の昭和40年6月22日、日本政府と韓国の朴正煕政権との間で、日韓基本条約が調印された。この条約に基づき、在日韓国人の日本での永住権が認められた。許ら在日韓国人にとって、新たな時代がやってきたのである。
(大下 英治,許 永中/Webオリジナル(外部転載))
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