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青春18きっぷ“ルール改定”のカゲで揺れる「往年の鉄道名所」の現在地《営業休止状態へ》

文春オンライン / 2024年12月30日 6時0分

青春18きっぷ“ルール改定”のカゲで揺れる「往年の鉄道名所」の現在地《営業休止状態へ》

昭和63年12月発行の青春18きっぷ(筆者所蔵)。当時は5枚1組、表紙付きで綴じられていた

 春・夏・冬のシーズンごとに発売されるJRの特別企画乗車券・青春18きっぷ。「普通列車なら1日どれだけ乗っても2,000円強」という破格の低価格チケットは、まだJRが国鉄だった昭和57(1982)年に初めて発売されてから(当初の名称は「青春18のびのびきっぷ」)、世代を超えて大勢の旅行者に愛用されてきた。

 その使用ルールがこの冬から大きく変更され、使い慣れたユーザーたちの間で話題になっている。従来は5日間の使用日をシーズン中に購入者が自由に選択したり、5人で1枚を同時使用したりできたが、今回のリニューアルで「5日分は連続使用のみ可」(他に連続3日間用も新設)、「複数人での同時使用不可」という制限が加わった。

登場から40年以上…各地の「鉄道名所」はいま

 40年以上前の発売開始当初は国鉄の在来線網が全国で2万キロを超えていたし、普通列車もたくさん走っていた。

 だが、赤字ローカル線の廃止や新幹線の開業による並行在来線の第3セクター化などが進み、かつては国鉄・JR線として乗車できた路線や区間で青春18きっぷが通用しなくなった例が増えている。マイカーの普及や過疎化によって地域輸送を担う普通列車が減便され、「特別な急行」であるはずの特急列車の方が本数が多い区間も珍しくない。

 最近では、路線の廃止や列車の減便のほかに、利用客が少ない途中駅を廃止あるいは無期限休止にしたり、積雪期は休業して全列車を通過させてしまうといった手法も採られるようになった。

 用もないのに普通列車しか停車しない地方の名もなき小駅を訪ねるのは、青春18きっぷがこれまで宣伝ポスターなどでアピールしてきた旅のスタイルの一つなのだが、皮肉なことに秘境駅と呼ばれる過疎地帯の駅ほど、そうした手法によって列車での訪問ができなくなる可能性がある。

「定番・秘境駅」でまた1つ、“事実上廃止”の予感

 この冬も、「列車のご利用が極めて少ない」として、12月1日から全ての列車が通過することになった駅がある。

 山形県米沢市大字大沢字大沢に位置する奥羽本線大沢駅。山形新幹線が頻繁に通過する幹線途上にあるが、停車するのは1日6往復の普通列車だけだった。その普通列車も12月1日からは停車せず、駅は無期限の営業休止状態となっている。

 この大沢駅がある福島~米沢間は、福島県と山形県の間にそびえる峻険な板谷峠を越える山岳路線のため、もともと沿線住民は少ない。

 そのため、過去にも利用客の減少を理由に通年休止措置が採られ、そのまま再開せずに廃止された駅がある。峠の福島県側、現在の庭坂~板谷間にあった赤岩駅で、平成29(2017)年3月から全列車が通過して通年休業状態となり、そのまま令和3(2021)年3月に正式に廃止されている。

 JR東日本では赤岩以外にも、利用者減少を理由に通年休止となった駅がこれまで複数あり、いずれも復活しないまま廃止されている。今回の大沢駅も、同じ結果になる可能性が高い。

板谷峠を越えていった「伝説の4連続スイッチバック」

 大沢駅が12月1日から休止になるとJR東日本から発表されたのが10月31日。それ以降、地元の乗降客すらほとんどいない(だから休止に至ったのだが)大沢駅で乗り降りする旅行者が増えたという。休止になれば駅構内に立ち入れなくなり、明治時代に開設された駅の遺構に接することも難しくなるからだろう。

 東北の山深くに位置する小さな駅の休止がこれほど全国の鉄道ファンから惜しまれるのは、この大沢駅を含む山峡の区間が、かつては4連続でスイッチバック式の駅が並ぶ日本屈指の峻険な山岳路線であり、当時のイメージが今も多くの旅行者の心に残り、スイッチバック時代の遺構も今なお健在であることが、大きく影響していると思われる。

 スイッチバックとは、鉄道が急勾配を上り下りするための線路の構造の一種で、勾配の途中で本線から分岐した平坦な場所に駅を設けるタイプと、ジグザグの線路の行き止まりスペースに駅を設けて前進・後進を繰り返すタイプとがある。

 板谷峠のスイッチバックは4駅とも前者のタイプで、特急・急行列車は本線上を通過するため、普通列車に乗らなければ4連続のスイッチバックは体験できなかった。

 4つの駅でその都度、列車が前進や後退を繰り返すから、当然ながら運行効率は良くない。

 そのため、山形新幹線の開業に向けてこの区間の軌間(線路の幅)が変更されるのに先立つ平成2(1990)年、板谷峠の4連続スイッチバックは全て解消された。本線上に普通列車用の短いホームが設置され、1駅ごとに列車が行ったり来たりを繰り返すこの区間独特の駅の発着風景は姿を消した。

青春18きっぷ向きだったスイッチバック探訪旅行

 私が初めてこの4連続スイッチバックを体験したのは、元号が平成に改まる直前の昭和64(1989)年1月初旬だった。東京に住む中学生だった私は、日頃からため続けていた小遣いをはたいてクラスメイトと青春18きっぷを共同購入し、冬休みの最後の1日を利用してこの4連続スイッチバックを普通列車で乗り通している。

 現在、福島~米沢間の普通列車は1日6往復、そのうち5往復は通勤・通学時間帯である朝と夕方以降に集中している。

 だが、当時は日中に2往復が設定されていたため、上り列車と下り列車をうまく組み合わせて利用すれば、板谷峠に並ぶスイッチバック駅で何度か途中下車しても東京から青春18きっぷで日帰りできたのだ。

 翌年の夏にスイッチバックが全廃される前にも、やはり青春18きっぷで現地を再訪している。どっちみち普通列車でしか体験できないのだから、旅行資金が限られている東京都内の中学生にとって、板谷峠の連続スイッチバックは青春18きっぷで日帰りできる絶好の旅行先だった。

 それから約36年が経った令和の今、板谷峠を日中に走る普通列車は1往復だけ。しかも、都心部から東北本線を乗り継いで板谷峠を通って休止前の大沢駅まで乗ってしまうと、普通列車だけではその日のうちに東京都内に戻ることができないダイヤになっていた(東北本線の上り最終電車が大宮止まり)。

 スマホやインターネットの普及で世の中は昭和時代より格段に便利になったけど、中高生が青春18きっぷを使ってクラスメイトと安上がりの鉄道旅行を体験できる環境は、逆に狭まっているような気がする。

写真=小牟田哲彦

〈 「熊・出没!」「この区間を歩いて行くのは危険です」伝説の4連続スイッチバックで知られた「定番秘境駅」はいま… 〉へ続く

(小牟田 哲彦)

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