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「まひろがラストシーンで言う台詞は早々に決まっていた」大石静が語る『光る君へ』の最終回と“3つの密通”

文春オンライン / 2024年12月15日 11時0分

「まひろがラストシーンで言う台詞は早々に決まっていた」大石静が語る『光る君へ』の最終回と“3つの密通”

大石静氏(本人提供)

12月15日に最終回を迎えるNHK大河ドラマ『光る君へ』。脚本を担当する大石静氏が、オファーを受けた経緯からラストシーンの秘話までを語った。

◆◆◆

史上最速で脚本を仕上げた

 私は、物心ついたころから大河ドラマはほとんど見てきました。昔はテレビ受像機は高価なもので、テレビから流れて来るものは、何でもありがたい気持ちで見たものです。家の一番よい場所に置かれたテレビを、家族で正座して見ていました。大河ドラマも相撲もニュースも。

 初めて大河ドラマの脚本を頼まれたのは2006年の『功名が辻』。土佐の山内一豊と妻・千代が主人公で、上川隆也さんと仲間由紀恵さんが演じました。司馬遼太郎さんの同名小説が原作でしたが、それだけでは数回で終わってしまうので、ほとんどオリジナルに近かったです。ただ、戦国時代は基礎知識がありますから、平安時代のドラマを書くよりはずっと楽でしたね。

 この時は放送中の6月に最終回を書き上げていました。「史上最速です」とスタッフに褒められました。もちろん脚本が遅れて現場に迷惑をかけさえしなければ、早いことより、作品を面白く仕上げることの方が価値はある。ただ、脚本が早く仕上がれば、一つのセットで撮るシーンをまとめて撮影できたりもする。この時は私一人で制作費を二、三千万円黒字にしたと自負しています。

 NHKでは『ふたりっ子』(1996年)、『オードリー』(2000年)と、朝ドラの脚本を書いたこともありましたが、個人的には朝ドラのほうがつらかったかもしれません。放送期間は朝ドラが半年、大河が1年ですが、脚本の分量はほぼ一緒。朝ドラは短期間に凝縮されているので、毎日100メートル走をさせられている感じで苛酷でしたね。

 それもあって『功名が辻』が終わった後は「また大河やりたいです!」とNHKの人にずっとアピールしていました。でもなかなかお声がかからず、だんだん年も取ってきたので、人生計画から大河ドラマを消しました。

 ずっと石田三成を主人公にした大河を書いてみたいと思っていたのですよ。三成は官僚的な性格で、武闘派から嫌われる理由も良く分かりますが、あんなにも豊臣秀吉への忠義を貫いた人はいません。他の武将は、秀吉から可愛がられていたけれど、関ケ原で次々と寝返っていった。いつか三成を大河の主役にしたいと思っていました。

 それだけに「紫式部の物語で」という話が来た時は、驚きましたし、悩みました。私はいつも、仕事は即決なのですが、今回は、一度は断ろうとも考えました。平安時代なんて誰が見るんだろうと思ったからです。でもチーフ演出の中島由貴さんが、私のこれまでの作品をあれこれ見てくれていて、「紫式部を描くなら、大石静がいい」と言ってくれたことを聞き、NHKの偉い人ではなく、現場から私の名前があがったことに胸打たれ、断ったらバチが当たるなと思って、この一か八かの企画を受けたんです。

“三つの密通”の物語

 ただ、すぐに脚本を書き始めるわけではありません。『源氏物語』は昔、漫画で読んだぐらいの知識しかありませんから、一から平安時代のことを勉強し始めました。並行して、私と制作統括の内田ゆきさん、演出の中島さんの3人で会議をし、最終回までの大まかな構成を考えていきました。

 大河や朝ドラのような長いドラマは、途中で描くことがなくなるのが一番危険です。そうならないように、まず全48回のうち、このあたりで寛和(かんな)の変がある、一条天皇が即位する、定子が入内する、誰々が死ぬ……などと、わかっている出来事を配置していく。そしてその間のわからない部分を、どういうドラマで繋いで行くか。併せて登場人物のキャラクターも模索しながら、1年の流れを、半年ほど話し合っていましたね。

 いつもやっている3カ月の連ドラは、ラストをどう抜けるかを決めずに書き始めることが多いので、後からもっと伏線をはっておけばよかったと思うこともあったりします(笑)。今回の『光る君へ』はラストのイメージは、わりと最初の頃からありました。吉高由里子さん演じる紫式部(まひろ)が、最終回のラストシーンで言う台詞は、この三者会議で早々に決まっていましたね。

 まひろが柄本佑さん演じる道長と密通し、賢子という子を産む展開も、重要な議題の一つでした。『源氏物語』には、紫式部が感じた男社会への批判や権力者への批判の眼差しも強く表れていますが、実は、“三つの密通”の物語と捉えることもできるのです。

 一つ目は、光源氏が義理の母である藤壺と関係を持つこと。二つ目は、光源氏が正妻に迎えた女三宮が、光源氏の息子の友人の柏木と密通する。その後、光源氏は女三宮と柏木との間にできた子を、我が子として育てることになりますが、この子どもたちの世代でも密通が行われていきます。それならば、「『源氏物語』の作者も密通をしていてもいいのでは」と、考えたのです。

 時代考証の倉本一宏先生には最初から最後まで、本当に助けていただきました。しかもドラマの事情も汲んでくださるのです。たとえば、身分の高い人とは御簾(みす)ごしにしか話が出来ないのですが、互いの顔が見えないと、テレビ的には絵にならない。清涼殿で天皇と対面する際は必ず御簾を下ろしていますが、それ以外の場面では、御簾を半分上げたり、時には全部上げてしまうこともありました。それも先生は、「顔が見えないとドラマにならないですよね」と認めてくださいました。

本記事の全文( 日本の顔インタビュー「大石 静『ワーカホリックな性格は治らない』 」)は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

 

「文藝春秋 電子版」(初月300円から)では、「光る君へ」に関連する記事、オンライン番組を多数公開中です。

【動画】 大石静×新谷学「『光る君へ』私の理想はあの男!」 #前編

【動画】 大石静×新谷学「『光る君へ』押し倒す女たちへのエール」 #後編

【動画】 直木賞作家・澤田瞳子「大河ドラマ『光る君へ』を10倍楽しむ! 紫式部の生きた時代」

【対談】 大石静×有働由美子「『光る君へ』でほのぼのとしたエロスを醸し出したい」

【インタビュー】 吉高由里子インタビュー「紫式部のセリフに『嘘でしょ⁉』」

【グラビア】 「日本の顔 吉高由里子」大河ドラマの現場でも弾ける笑顔は健在

【グラビア】 日本の顔 大石 静」『光る君へ』の雅な世界はいかにして生み出されたのか

【エッセイ】 倉本一宏 「『光る君へ』時代考証の苦労と喜び 」

(大石 静/文藝春秋 2025年1月号)

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