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「引退した競走馬の多くは行方不明になっている」問題を知った『ウマ娘』ファンにより“一匹の高齢馬”に集まった大きな支援「ゲームが社会を変えた」

文春オンライン / 2024年12月23日 6時10分

「引退した競走馬の多くは行方不明になっている」問題を知った『ウマ娘』ファンにより“一匹の高齢馬”に集まった大きな支援「ゲームが社会を変えた」

画像はイメージ ©AFLO

〈 レース中に突如ガックリと失速して足がぶらぶらに…「安楽死だけは絶対に避けたい」負傷した愛馬のために馬主がとった“必死の行動” 〉から続く

 競馬業界では毎年約7千頭のサラブレッドが生産され、一方で約6千頭が引退するが、その多くは行方不明になっている。

 犬や猫の殺処分問題などについて執筆を続けてきたノンフィクション作家の片野ゆかさんは、引退競走馬のそんな実情を知って大きなショックを受け、引退競走馬支援についての取材を始めた。その内容をまとめたのが、2023年12月に上梓された『 セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅 』(集英社)である。ここでは同書より一部を抜粋して紹介する。

 2021年の配信開始から現在まで人気が続いているシュミレーションゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」とそのファンが引退競走馬の世界に及ぼした大きな影響とは――。(全3回の3回目/ 最初から読む )

◆◆◆

ゲーム『ウマ娘』から広がった支援

 引退競走馬をテーマに取材を重ねる旅も、気づけば4年目に突入していた。これまで複数の人や馬と出会い、そのおかげでサラブレッドをセカンドキャリアにつなぐ仕組みや必要なものについて知ることができたわけだが、ふと思い出したのは、まだふれていない“あの話題”だった。

 それは社会現象レベルの大ヒットゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』のことだ。これは、実在する競走馬から名前やバックグラウンドを引き継いだキャラクター“ウマ娘”のトレーナーとなってレース優勝をめざす、育成シミュレーションゲームで、株式会社 Cygames から2021年2月24日に配信が開始され、わずか3か月足らずの5月14日には700万ダウンロードを突破した。

 配信当初、このゲームが引退競走馬の世界に影響を及ぼすことを予測した人はおそらく誰もいなかった。だが配信から3か月程、ひとつのニュースが注目を集めた。

 引退競走馬のナイスネイチャ・33歳の誕生日を記念したバースデードネーションで約3600万円の支援金を集める──。

 多くの支援者を集めた理由は、『ウマ娘』に登場するナイスネイチャだった。つまりゲームのなかで出会ったキャラクターをきっかけに、モデルになった馬が今も実在していること、さらに引退競走馬の現状を知った人々がアクションをおこしたのだ。

ベテラン広報部長として活躍していた、ナイスネイチャ

 ドネーションを企画した認定NPO法人引退馬協会は、日本でもっとも歴史のある引退競走馬の支援団体だ。同協会では所有する馬を「フォスターホース」と称し、終生繋養を前提に会費や寄付、助成金収入を利用して多くの人で馬の余生を支え合う仕組みがある。ナイスネイチャはフォスターホースで最高齢の馬で、ベテラン広報部長として活躍していた。

 ちなみにバースデードネーションというのは、誕生日を記念して友人や知人から募った寄付を支援先に贈る活動のことだ。同協会では2017年から毎年ナイスネイチャの誕生日にドネーションを実施していて、2020年は160万円の目標金額に対し約400人から170万円以上の支援金を集めていた。翌年の2021年は、『ウマ娘』の影響で約1万6000人から前年の20倍以上の支援金が集まったのだ。

 ドネーションを企画した同協会の設立者であり代表理事の沼田恭子さんは、ゲームをきっかけにナイスネイチャへの支援が集まるなど想像もしていなかったという。

「ここ3年程、テレビや新聞、インターネットなどで引退したサラブレッドの現状やセカンドキャリアについての情報は徐々に増えてきましたが、これまで馬とはまったく無縁だった多くの人が引退競走馬に目を向けるきっかけをつくったということでは、『ウマ娘』以上に影響力のあるものはほかにありません」

 ドネーションの支援者は「寄付そのものが初めて」という人がほとんどで、なにより沼田さんにとって嬉しかったのは、参加者のコメントだった。「元気で長生きしてください。来年も寄付したいです」「『ウマ娘』であなたを知ったにわかファンですが、今でも元気でいてくれたことがたまらなく嬉しいです」「また来年も再来年も、お祝いさせてください」など、どれもリアルなナイスネイチャへの温かな想いが伝わってくるものばかりだった。

「『ウマ娘』のファンの皆さんの想像力、そして感受性の豊かさに感動しました。ゲームが社会を変えた、といっても大袈裟ではないと思います」

 沼田さんがそう言うのは、このムーブメントが一過性では終わらなかったからだ。バースデードネーションをきっかけに、引退馬協会の会員になったり寄付金を送る人が少なくなかった。さらに翌年に実施した「ナイスネイチャ 34歳のバースデードネーション」では、約1万7000人の支援者から約5400万円という前年を大幅に上回る支援金が集まった。

 支援者にとっては、集まったお金の使い方が明確にイメージできることも重要だ。2022年は、怪我や痛みを抱えた引退競走馬たちが治療・療養・リハビリを経てセカンドキャリアをめざす「再就職支援プログラム」に、19頭の馬をつなぐことができた。『ウマ娘』ブームが起きた2021年は、繁殖馬として活躍した後に引退を余儀なくされた17頭の馬を同協会が実施する養老支援制度のフォスターホースとして迎え入れることができた。

繁殖馬は“安泰のセカンドキャリア”なのか?

 これだけの数の馬の余生を支えるに至った『ウマ娘』パワーに感心するばかりだが、同時に私は疑問を抱いた。

「繁殖馬といえば“安泰のセカンドキャリア”というイメージがあるのですが、生涯飼育されるわけではないのですか?」

 すると沼田さんは、残念そうな表情でうなずいた。

「繁殖の世界で貢献した馬たちを生涯飼育する仕組みは、実はまだ成立していません。3、4年して良い子が生まれなければ、ほかの馬と入れ替えになってしまいます。これはGIを勝った種牡馬も同じで、年間の種つけ回数が減ってくると生産牧場にはいられません」

 引退するすべての馬が次のフィールドで活躍することは不可能とわかってはいるものの、華やかな舞台で名を上げた馬でさえ例外ではないという現実を耳にして、あらためてセカンドキャリア形成の難しさを感じた。

 せめて長く競馬業界に貢献した馬の余生だけでも、業界内で支えることはできないのだろうか……? そう思うものの、容易く事情が変わらないのは世の常だ。

(片野 ゆか/Webオリジナル(外部転載))

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