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赤羽、川口、大宮よりも古い…京浜東北線“ナゾの途中駅”「王子」には何がある?

文春オンライン / 2024年12月16日 6時0分

赤羽、川口、大宮よりも古い…京浜東北線“ナゾの途中駅”「王子」には何がある?

赤羽、川口、大宮よりも古い…京浜東北線“ナゾの途中駅”「王子」には何がある?

 かつて、東京にはたくさんの路面電車が走っていた。東京都電車、通称都電――。全盛期、その総距離は200kmをゆうに超えていた。しかし、1972年までにほとんどが廃止されて姿を消す。最後に残ったのが、いまも走り続けている都電荒川線である。

 東京都北区王子。この町は、いまでも都電が通る町のひとつだ。西ヶ原方面からやってきた荒川線は、飛鳥山公園の目の前で明治通りに進出する。数少ない併用軌道、道路の上を電車が走る文字通りの“路面電車”になるのが、王子駅周辺のこの区間。荒川線の電車は、飛鳥山公園を見上げながら明治通りを走って京浜東北線の高架下を潜り、大きくUターンして荒川区方面へと向かってゆく。

 王子駅に乗り入れている鉄道は、ほかにJRの京浜東北線と地下鉄の南北線がある。新幹線の高架や上野東京ラインの線路も通っているけれど、こちらは通り過ぎるだけで王子駅には見向きもしない。だから、王子駅はどちらかという小さな駅といっていい。

 とはいえ、なぜだか王子という町は妙な存在感を持っているような気がするのだ。それは都電荒川線が通っているから、というのはさすがに最後の都電を買いかぶりすぎだろう。北区の区役所があるから、といってもこれまたさすがに言い過ぎだ。

 実は、王子は鉄道の歴史が古い町のひとつだ。1883年、当時の日本鉄道が上野~熊谷間を開業させたときに、王子駅が設置されている。このときの途中駅は他に浦和・上尾・鴻巣だけだ。つまり、赤羽、川口、大宮よりも早く、王子駅はこの世に誕生した駅なのである。王子の町の独特な存在感には、こうした事情も関わっているのかもしれない。

 そういうわけで、もう少しナゾの答えに近づくべく、京浜東北線で王子駅にやってきた。

京浜東北線“ナゾの途中駅”「王子」には何がある?

 王子駅の京浜東北線ホームは、明治通りを跨ぐように設けられている。出入口は北・中央・南改札の3か所に。そのうち、いちばんの中心的な出入口は北改札だ。

 ホームのいちばん北にあって、エスカレーターも設置済み。ちょうど高架の真下に改札があり、そこを抜けると東口の駅前広場だ。

 広大なロータリーの中心にはバス乗り場があって、都バスがあっちこっちからやってくる。

 傍らに聳えるビルは、王子駅前のシンボル・北とぴあ。人通りも多く、すぐ脇を通る明治通りも北に伸びる北本通りも、どちらも幅広の大通りでクルマがひっきりなしに行き交っている。まあ、いくら小駅といっても東京23区の駅のひとつなのだから、駅前が賑やかなのもあたりまえである。

 ただ、あれこれいったところで、この町の顔といったらやはり飛鳥山公園に決まっている。駅前広場から明治通りの下を潜った先の線路沿い。小高い丘の上が、すべて飛鳥山公園だ。武蔵野台地の端っこで、1万円札の渋沢栄一さんが邸宅を構えたことでも知られている。

渋沢栄一に徳川吉宗…華やかな飛鳥山のパワー

 飛鳥山公園は、桜の名所だ。そのはじまりは江戸時代にまでさかのぼる。八代将軍の徳川吉宗が飛鳥山に桜を植えて、観覧の地としたのがルーツだという。当時はいまほどには高い建物がなかったから、飛鳥山の上からは富士山も望めたという。

 王子周辺は以前から日光御成道の沿道にあたり、古くは将軍の鷹狩りの場にもなっていた。言い換えれば、江戸の近郊の農村地帯。それが、飛鳥山の桜のおかげで行楽地に生まれ変わったというわけだ。以後、王子は江戸の庶民たちの行楽の地として栄えるようになってゆく。

 明治に入ってもそうした行楽地としての性質は変わらず、1873年には太政官指定公園の第一号にもなっている。それだけ飛鳥山は名を馳せる行楽地だったのだ。小山の上からは富士山が見え、また反対の東を見下ろせば荒川沿いの低地が一望できる。高いところからの絶景を好むのは、昔もいまも同じなのである。

 渋沢史料館・北区飛鳥山博物館・紙の博物館という3つの博物館が並ぶ現代の飛鳥山。そこには蒸気機関車のD51や都電荒川線の古い電車が展示され、その前では子どもたちが遊んでいる。訪れたのは12月。だから桜とは縁遠い季節だが、それでも色づいた木々がまだまだ残り、寒風の中にも目に潤いを与えてくれる。

山の上から線路側を見下ろす。なんだか昭和っぽいビルが見える

 そんな飛鳥山公園から東側、線路側を見下ろしてみる。京浜東北線や上野東京ラインの電車が行ったり来たり。高台の公園と同じレベルには東北新幹線の高架が横切っていて、線路の向こう側を見通すことは難しい。それでも千里眼でも有しているつもりで眺めてみると、そこにあるのは「サンスクエア」と名付けられた実に昭和びた商業ビルである。

 王子駅前の広場から明治通りを挟んだ場所にあるサンスクエアは、ボーリング場にパチンコ店、ゴルフの打ちっぱなし、また東武ストアをはじめとする店舗がいくつか入った雑居ビルだ。

 出入りしている人も多く、なかなかの賑わいぶり。1972年から営業しているというから、年季が入っているのも頷ける。50年以上経っても活気が衰えないのもまた、王子の町の繁栄ぶりを象徴しているというべきか。

 このサンスクエアの一角に、「洋紙発祥之地」という記念碑があった。説明書きをじっくりと眺めているおじさんやおばさんの姿も。昭和びた商業ビルと、それとは明らかに不釣り合いな記念碑の存在。いったいどういうことなのか、おじさんとおばさんに並んで説明書きを読んでみた。

 どうやら、この場所にはかつて製紙工場があったようだ。渋沢栄一が旗を振って設立された製紙会社「抄紙会社」が、1875年にこの地に王子工場を開いた。千川用水やすぐ脇を流れる石神井川の水を工業用水として活用できるうえ、荒川(隅田川)の舟運も使える。それでいて都心に近いという、地理的なメリットがあったのだろう。

 抄紙会社はその後王子製紙と名を変えて、1916年には王子の市街地の北側にあった印刷局の十條分工場を買収するなど、規模を拡大。日本を代表する製紙会社へと成長してゆく。

 十條工場には王子駅の脇から貨物輸送のための専用線も敷設されていた。この専用線は十條工場の大部分がマンションに変わり、一部が倉庫になってからも営業が続けられており、廃止されたのはつい最近の2014年。だから、いまも廃線跡が町中にまったくはっきりと残っている。

 王子製紙は、戦後の財閥解体によって3社に分割され、王子工場は十條製紙に引き継がれている(現在は日本製紙)。ただ、王子工場は空襲によって大きな被害を受けており、そのまま復旧されることはなく、1972年になって商業ビルのサンスクエアに生まれ変わった。

 王子の町は、王子製紙の製紙工場が生まれたことで都市化がはじまった。以後、多くの工場が集まるようになり、1883年に日本鉄道が開業するといきなり駅も与えられた。赤羽や川口よりも先に駅ができたあたり、王子製紙を中心とした工場群の利便性を考慮したのだろう(日本鉄道の経営陣には渋沢栄一も名を連ねており、我田引鉄の向きもあったかもしれない)。

 ともあれ、江戸時代以来の行楽地・王子は、明治に入っていち早く工業都市として生まれ変わった。工場があれば働く人もいるわけで、周辺に住宅地、また商業地や繁華街が形成されるのもとうぜんのなりゆきだ。こうして、いまの王子の町の原形が形作られたのである。

都電が運んだ人はどういう人だった?

 そして、行楽地としての性質も失われることはなかった。江戸時代にはじまる名主の滝や町名の由来になった王子神社、そして飛鳥山公園。

 1911年に王子電気軌道によって開業した現在の都電荒川線は、こうした王子の行楽地へのアクセスが目的だった。荒川線沿線には鬼子母神やあらかわ遊園など他にも行楽地は多く、東京郊外の行楽路線の趣を有していたのかもしれない。

かつて工場エリアはいま…

 いまの王子の町からは、工場の類いはほとんど姿を消した。飛鳥山の麓、駅の前にあった王子製紙の工場が商業ビルのサンスクエアに変貌したように、いまの王子は周囲を大型マンションなどに取り囲まれた商業エリアとしての性質を強めている。

 駅の東側、明治通りと北本通りに挟まれた一角が、中心市街地だ。どことなく、ここにも昭和感が残っているような印象を抱くのはなぜだろう。明治以来の工業地に近接する繁華街だったことの名残を感じているのだろうか。

 ロータリーを持たない駅の西側も、高架に沿って商店街が続く。その向こうは王子神社や王子稲荷神社、名主の滝、石神井川の川縁を活かした親水公園といった行楽ゾーンだ。飛鳥山公園とセットで訪れている人も少なくないようで、また地元の高校生も水辺で憩いのひとときを過ごしていたり。

 行楽地にはじまって、工場が生まれてそれが消え、いまはまた東京近郊の行楽地としての面が強くなっている北区の中心地・王子。飛鳥山公園の丘に登ると、いまでも富士山が見えるときがあるという。

 そうした町にあって、飛鳥山公園の脇を抜けて京浜東北線を潜って走る都電荒川線。最後の都電もまた、行楽地・王子を象徴するものとして走り続けているのである。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

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