収入が低く病院にも行けない…「保険料が高すぎる」60代男性を苦しめる“重い負担”
文春オンライン / 2024年12月17日 6時0分
写真はイメージ ©ideyuu1244/イメージマート
〈 “年収の壁”を見直すとどうなる…? 「103万円、106万円、130万円の壁とは」 〉から続く
ジャーナリスト・笹井恵里子さんは年間88万円の国民健康保険料を突きつけられ、高額で絶句したという。『 国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと 』(中公新書ラクレ)より、保険料の支払いに困窮する人々の事例を紹介する。(全2回の1回目/ 後編 に続く)
◆ ◆ ◆
保険料を払えても病院に行けない
数十年フリーカメラマンとして活動し、60歳になったばかりのB氏から今年6月に、「国民健康保険料の通知が来ました。月3万6000円。任意だったら加入しない」というメールが送られてきた。B氏は離婚し、子どもは独立して、今は独り身。1人分でその国保料は高いだろうと思う。私は現在、文芸美術国民健康保険組合という、市町村国保とは異なる「職業別の国保組合」に加入している。娘と2人で月4万6800円だが、自分1人ならおよそ月額3万円だ。文芸美術国保組合は、文筆業以外にも写真家、デザイナー、イラストレーターなどでも加入できる。ただし、自身の職業団体に加入しなければならない。B氏の場合なら、写真家関連の協会に所属した上で、文芸美術国保組合に加入の申請を提出する必要があるのだ。
B氏に写真家団体と文芸美術国保組合への加入を勧めてみたが、「あの(写真家)団体は会費が高いし、あまり良い団体とも思っていないから」と言われてしまった。過去に何度か誘われて、断ったらしい。たしかに職業団体に加入するにも「入会金」や「年会費」が万単位で発生する。
「実質的に“強制”なのに保険というのってどうかと思う。収入が低いから病院にだって行けないしね」とB氏。後日、彼にここ3年間の所得と国保料を教えてもらった。
2020年の所得約124万円→翌年(21年)国保料/年間11万2700円
2021年の所得約72万円→翌年(22年)国保料/年間13万1100円
2022年の所得約170万円→翌年(23年)国保料/年間18万1000円
3年間の中で、21年の所得が72万と低い割には前年の国保料よりも高い金額であることに驚く。B氏は「保険証をもっていてもなんの役にも立たない」と肩を落とす。
「本音を言うと都民共済のほうが助かるし、こちらは何とかして払おうと思う。なんでかって? 自分が契約するコースでは、死んだ時に500万円が出るから。病院には行かないから病気になった時の手当は不要なんだけど、死んだ時に500万円が出るなら後始末をするのに人にあまり迷惑をかけなくて済むでしょ。しかも保険を使わなければ、毎年割戻金もある。それに比べて国保の保険証をもっていても、この保険証をもつための保険料で生活が苦しくなるし、病院で一部負担するお金も支払えないから意味がない。入院もとんでもない。体調が悪くなっても、自力で何とかする」
「日本の皆保険制度はすごい」とは言うけれど…
私も都民共済ではないが、自分が「死んだ時の後始末代」を考えて死亡保険金が高い保険に加入し、受け取り人を子どもにし、どのように使ってほしいかも伝えている。こちらの民間の保険のほうが支払う上で納得感がある。ちなみに国保の被保険者が死亡した際、葬祭の給付はあるものの一般的に数万円から10万円程度である。やはり頼りにはならない。
「それでも日本の皆保険制度はすごいですよ」
と、前出・税理士の服部修氏は言う。
「全員が公的医療保険に加入し、等しく治療を受けられるんですから。以前テレビで見聞きしたのですが、アメリカでコロナにかかって入院し、エクモを使用しなければならず、トータルで1億円かかったそうです。その人は充実した給付サービスの保険に加入していたから、その医療を受けることができたのです。アメリカでは保険内容によって治療が限られます。でも日本ではお金の問題でエクモを使うかどうか悩むことはないでしょう。大病して治療費が高くなっても、高額療養費があるから大抵は破産するほどにはなりません。皆保険体制でなければ、歯が痛くてちょっと歯医者にかかるだけでも、数万円かかってしまうのです」
それはわかる。わかるのだが、万が一の際にどんなに等しく治療を受けられることを考えても、今生活を圧迫するほど国保料が高い。B氏のように国保料を支払っているがために病院に行けないのでは意味がないではないか。
〈 夫との死別、離婚で滞納→給料や生命保険の差し押さえも…「国民保険料が高すぎる」支払いに困窮する人々 〉へ続く
(笹井 恵里子)
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